第十六話 踏んだり蹴ったり
「おかえり、遅かったねー……どうしたのそれ?」
「貰った」
「……?」
ちょっとした騒動を終え、翔斗達の元へと戻ってきた。当然持っていたイカ焼きの事を聞かれたので、あらましを伝えた。
「へえ、そんな事があったんだ……まあ役に立たなかったのは仕方ないでしょ、歳上2人に。大丈夫だった琴音ちゃん?」
「あ、はい助けてくれた人がいたので。もちろん鋼輝くんも」
「役に立たなかったのは事実だからなあ……あ、琴音さんそれ池田じゃなくて翔斗の」
「あっ、すみません」
「いや別に……うん?」
「どうした?」
「いや別に……」
買ってきた飲み物を4人に渡す。イカ焼きに関しては、ナイフもハサミも無く分けようが無いので琴音さんとそれぞれ食べた。何故か女子達は日陰からは出てないが、俺達からなるべく離れてコソコソ話していた。何なんだか。
「それで、助けられた後は何も無かったの?」
「ああ、平和に戻ってこれたぞ。そも連続で絡まれたなら運悪すぎだろ」
「うーん、そういう事じゃないんだけどなあ……まあ後で百合から聞けば良いか」
よく分からない質問をされたな。まあ最近はたまにあるし、一々気にしてたらキリがない。大した影響も無いみたいだし。
イカ焼きは普通に美味かった。まあ店で売ってた物だし、杞憂だったか。となると、あの人は完全に良い人だったなあ。また会う機会があればお礼をしたいんだがな。
「そういや、この後はどうするんだ?」
「え、百合ー、どうするのだって」
「んー?海に入るつもりだけど、まあ……ボールあるしそれで遊ぶとか?どうする?」
「うーん、ちょっとパスかな」
「あれ、じゃあ僕もパスで」
「そう、じゃあ2人とも行こう……お姉ちゃんは?」
「私?私はこのままー」
「だよねー……」
女子3人はボールを持って、海へと向かっていった。沙蘭さんはずっとそのままだな……本当に何もするつもりがないんだな。
俺としては、アスレチックで割と疲れたし、別に良いかなといった感じだ。普段あまりしない事をしたから若干眠い。
「……3人とも元気だね」
「そうだ……どうやったんだ、アレ」
「凄いね……」
3人は最初ボール遊びをしていたが、いつの間にか水の掛け合いになっていた。そして池田と琴音さん対西田さんの構図になっていたのだが、西田さんが何かの構えをとった後腕を海面に叩きつけた。すると予想より大きな水飛沫が上がり、向かい合っていた2人をずぶ濡れにした。どうやったらあんな事が出来るのやら。1人だけジャンル違くない?
3人は疲れたのか、その後はついでに持っていった浮き輪に乗り話している様だった。
「後片付け面倒だな……」
「まあそれも含めて良い思い出じゃない?」
「面倒は面倒だけどな……あれ、もうこんな時間か」
「本当だ。そろそろ3人呼びに行った方が良いかな」
のんびりと海を眺めていただけだが、気づけば切り上げるには丁度良い時間に近づいていた。いつの間にか日も……あれ、曇ってるな?
「こんな曇ってたか?」
「日陰だから気づかなかったね……それにしても雲行き怪しくない?」
「今日1日晴れじゃなかったっけか?」
「そうだったはずだけど……」
「うわ、何っ!?」
「あ、降ってきた」
寝ていたのか、パラソルの陰からはみ出していた沙蘭さんに雨が当たり、飛び起きた。瞬く間に雨は強くなっている。
「急いで片付けよう!」
「パラソルは良いとして……レジャーシート!」
濡れると砂がついて面倒なので素早く畳む。全員分の荷物もまとめていると、海にいた3人も雨に気づき、こちらへと戻ってきた。
「ちょ、ちょっと何で雨降るの……!?」
「知らないよ……とりあえず早く更衣場の方に行こう」
「そ、そうですね……あ、荷物を」
「いや俺が持って行くよ。入ってからの方が良いだろうし」
「ありがとうございます」
急いで走り更衣場へと入る。ここが中に入ってから男女に分かれるタイプで良かった。雨に濡れずに荷物が整理できる。水着なので、雨に濡れても問題無いが、未だに強くなり続けている雨に打たれ続けるのはあまり良くない。しかも、雷も鳴り始め、外は真っ暗だ。
「うわー……」
「これは……止みそうにないですね」
突如降り出した雨は、止む事なく降り続いている。雷鳴は頻繁になっているし、遠目には何処かに落ちる雷も見える。ゲリラ豪雨かと最初は思っていたが、ニュースを見てみるとそうでも無いようだ。少なくとも明日ぐらいまで降るらしく、記録を更新だとか何とか言っていた。何故に今日なんだ。
「ああもう、最後にケチがついちゃった……」
「けど、思い出にはなりますね」
「そうだけどね……」
フォローなのかよく分からない感じで、西田さんは池田を励ました。確かに予定通りとは行かなかったが、そこらで傘を買って帰れば、大変だったなあで済むはずだ。
「……げっ」
「どうした?」
「あー……悪いお知らせが1つあります」
「早よ言え」
「この雨で土砂崩れが起きたらしくて……電車が止まりました」
「「「「「ええ!?」」」」」
「一応聞くけど、デマだったりとかは」
「無いね。そういうサイトじゃ無いし。復旧は早くても明日だってさ」
端末を操作しながら情報を集めていた翔斗から最悪のニュースが入った。確かにこの大雨なら可能性はあるけど……まさかなあ。
「えっと、タクシーとかは?」
「みんな考える事は同じだろうし……そも走ってるからなあ」
「それに、ここからだと料金が恐ろしい事になるでしょうね」
「そうだよなあ……」
「じゃあ帰れないですよね、私達……?」
「そうだね、どうしようか」
流石に翔斗も困っている。保護者役である沙蘭さんも何か解決できる策を持っているわけでは無いし。
それにしても、今日帰れる見込みが無くなったのは不味い。この更衣場で一夜は過ごせないだろうし、過ごしたくは無い。どうしようかと考えれていると、自分の端末が鳴った。誰かと思ったら母親だった。
「もしもし?」
『あ、そっちどうなってる?』
「どうもこうも、なす術無しだけど」
『そうでしょうねぇ……タクシーも無理でしょうから、近くのホテルか何かで泊まっていきなさい。お金はもちろん出すし、そもタクシーよりそっちの方が安いと思うわ』
「え、あー沙蘭さんだけで大丈夫か?」
『大丈夫でしょ。駄目ならまた電話かけてきなさい。親の承諾があって泊まれない所なんて無いんだから』
「とりあえず相談してみるわ」
『そうね、翔斗君達なら変な結果にはならないでしょうし』
「へいへい」
ホテルか、まあそれぐらいしか乗り切る方法は無いかな。とりあえずみんなに提案してみた所、同じくそれぐらいしか無いかという反応だった。各自それぞれの親に連絡をし、無事全員許可を貰ったみたいだ。まあ一応成人している保護者役がいるし、そもこれしか手段が無いからな。
「じゃあ近い所を探さないと……」
「部屋が空いていると良いですね」
「今から泊まれるでしょうか?」
「……保護者、責任……うう……」
「ど、ドンマイ」
沙蘭さんはうめきながら胃のあたりを抑えている。多少監督すれば良いだけと思っていたら、いきなりガチの保護者役をしなくてはならなくなったからなあ。こちらとしてはドンマイとしか言えないし。
「あ、ここなら……沙蘭さん聞いてみてくれます?」
「え、うん分かった」
沙蘭さんにホテルに連絡してもらった所、何とか6人泊まれるみたいだった。早速この豪雨の中を進んでいく。中々苦労したが、無事ホテルに着き、一息つけた。




