第十四話 海上アスレチック
海におけるアトラクションは内容自体は昔から変わっていないが、確実に技術の進歩を受けている……らしい。そんな事を言われても実際には全く分からないけど。
この海に浮かぶアスレチック自体も存在は数十年前からある物だが、利便性やら何やらは着実に上がっているとか何とか。まあその技術は運営側への利点が殆どで、遊んでいる俺達には実感しにくいだけだ……と、そんな事がネットに書いてあった。流石に行くと分かっていれば少しは調べるもので、それに関連して知った事だ。その内忘れそうなレベルだが。そしてこのアスレチックは結構な大きさで、世界で比べられるサイズだとか。まあ数百人が乗れる規模な時点で明白だな。もはや小さめの遊園地ぐらいだ。
「ほら、行くよー!?」
「へーい、てか慌てなくても逃げないだろ」
「まあそうだけどねー」
「テンション高いな」
「まあ、無いより良いでしょ……面倒だけど」
言い出しっぺは予想以上にはしゃいでいるらしい。勢いは凄いが、羽目を外しすぎて台無しにする奴では無いし、テキトーに受け流しておけば大丈夫だ。冷たい海水でも浴びれば少しは落ち着くだろうし。
「一応側に居てくるよ……あ、坂下さんよろしくね」
「え?あ……おう」
翔斗が池田の面倒を見るのは分かるけど、俺が坂下さんを……?身体能力は十分で、下手をこく様な人では……まあ足を滑らす可能性もあるか。というか池田なら坂下さんと西田さんを両方を引っ張っていくかと思ったが、西田さんだけとは思わなかったな。どういう事なのやら。
「い、行っちゃいましたね……」
「そうですね……まあ、このコース進んでいれば見失う事も無いだろうし、ゆっくり進みましょうか」
「は、はい。濡れてますから滑る事もあるでしょうしね」
前の3人も凄いスピードで進んでいる訳ではないので、見失う事は無いだろう。このアスレチックは順路がいくつか設定されている部分があり、それも複雑にはなっていないから迷う事も無い……こんな開けは場所で迷う訳ないか。
「大丈夫です?」
「あ、はい問題無いです」
というか、よく考えたら凄い状況だな。中学では高嶺の花と呼ばれた人と海で一緒にいるとか。まあ他に3人いるけど、今は離れているせいで2人きりの状況に近い。うーん、そう考えると緊張してきた、深く考えると不味いな。
「陽葵さんの身体能力はやっぱり凄いですね……」
「体操選手みたいだ」
前にいる3人の方へと視線を向けると、西田さんが華麗な体捌きでアトラクションを進んでいた。自分の体の動かし方を理解していると、ああなるのか。それでいてゲームにまで応用出来るのだから大したものだ。
「よいしょっと」
「私でもこのぐらいは……あ、きゃっ!」
「危ない……!」
意気揚々とジャンプをして障害を飛び越えようとした坂下さんだったが、丁度大きな波で揺れた為か踏み切った足が揺れ、しかも着地した足が滑り海に落ちそうになってしまった。突然で驚いたせいで手を伸ばして坂下さんの腕を掴んで支え、こちらへと引き寄せる。
「す、すみません!ありがとうございます」
「ああ、いや……よく考えたら落ちても大丈夫か……すみません」
「いえ、助かりました」
地上のアスレチックなら落ちると地面なので怪我をする可能性も多少はあるが、海なら濡れるだけだもんな。下手に手を出した方が、怪我をする危険があるよな……テンパった。このアスレチックの足場も柔らかいので当たっても問題無いはずだ。
いきなり腕掴んで抱き寄せるみたいな事をするとか、失礼以外の何物でも無い。機嫌を損ねてはいないみたいなのでまだ良かった。
「いや本当にすみません」
「あの、ほら、落ちない方が怪我がしにくいですし!これからもよろしくお願いします!」
「あ、はい……?」
本当に大丈夫そうだが、何か文脈がおかしい様な?まあ気まずくなるよりはマシか。
今ので前の3人と距離が離れてしまったので、気を取り直して急ぎ目に追いかける。運動が出来る坂下でも筋力の差はあるらしく、2、3度手を貸す事はあった。しかし殆どは順調にアスレチックを攻略できた。
「き、規模が大きいと……疲れますね……」
「長いから……その分疲れる」
ただのアトラクションなので障害の1つ1つは大した事が無いのだが、それが20も30もあると流石に疲れる。大分体力を消耗したので体が熱いけど、今いる所は膝ぐらいまで海に浸かっているので、その冷たさが心地良い。前にいた3人も似た様な感じみたいで……あ、いや西田さんは全然大丈夫そうだな。少し先の所で腰掛けている。何か足湯みたいになっているな……足湯というか足海か?休憩ゾーンか、ここ。
「ああ、来たね。どうだった?」
「いや疲れたよ。新鮮で楽しかったけどな」
「うーん、微妙に期待していた答えじゃ無いなあ……」
「じゃあどう答えれば良いんだ……?」
「そろそろ良い時間だし、お昼にする?」
「良いですね、お腹も空きましたし」
西田さんがそう言った瞬間、誰かの腹の音が鳴った。とりあえず俺では無い、誰……池田か。
「さ、流石にちょっと恥ずかしいかナ……」
「ま、まあ気を取り直して行こうよ……」
「うん」
これでもかと良いタイミングで腹の音が鳴り、流石の池田も赤面して恥ずかしがっている。まあそれは恥ずかしいよなあ。
「えっと、予約してあるんですよね?時間は大丈夫なんですか?」
「うん、混み具合にもよるけど10分15分ぐらいなら前後しても大丈夫な所にしたから。一応都合が利く方が良いでしょ?」
「気が利くな」
「あはは、もっと誉めて!」
これ以上褒めると調子に乗るので誉めないけどな。計画を立てた時点で予約を済ませていたみたいで、店が混んでいて途方に暮れる様な事もない。2週間先とはいえ、丁度昼飯の時間帯の予約を取れるとは中々だ。とにかくありがたい。
「そういや何の店を予約をしたか聞いたないんだが」
「バーベキュー!しかも食べ放題プラン!」
「おお」
池田のお姉さんの所へと戻る。ずっとレジャーシートの上で寝っ転がっていた様だ。全身パラソルの影に入っていた様で変な日焼けをしそうな感じでは無いみたいだけど。
「おお、戻ってきた。お昼?」
「そうだよ……ずっとそれで楽しいの?」
「いや、何もしなくて良いのは随分と楽しいよー、アハハ」
よく分からないが、本人がそう言うなら良いのだろう。全員で移動するので、パラソルとレジャーシートを回収する。そして、池田が予約したという店へと向かう。店の前にはバーベキューコンロが大量に並べられていた。外で食べるタイプか。あちこちでコンロを囲み食材を焼いている海水浴客のグループがいた。大盛況だな……当たり前か。
「えっと、店員さんはっと……」
池田が店の前にいた店員に端末を見せると、空いているコンロの前へと案内された。最初に来る食材は固定か。
「じゃあ食べ放題だからね〜。じゃんじゃん行こう」
「美味しいですね」
「環境効果もありますからね」
食べ放題の割に選択できるメニューも多かった。まあこの後も多少泳いだりはするので、食べる量は程々にしておいた。どうせいくら食べた所で、元は取れないしな。それでも多少の休憩は必要なので元の場所に戻った。誰かに取られずに空いたままだったのは運が良かった。
「んー、飲み物欲しいね」
「さっきも飲んだけどね。まあ水分は取らないといけないか」
「じゃあ誰が行きましょうか」
「じゃあジャンケンで」
はい、俺と坂下さんが負けました。最初に俺が負け、次に坂下さんが負けた。2人いれば人数持てるだろうとの事で、まあ納得か。人数増やすとジャンケンした意味が無いからな。
少し離れた場所にある海の家的な場所に行き、そこにあった自販機で飲み物を買う。要望の中には自販機に無かった物もあり、それは坂下さんが買いに行ってくれた。冷たい飲み物を抱えながら坂下さんと合流しようとすると、2人組の男に話しかけられているのが見えた。うーん、まさか。




