第十三話 海(現実)
太陽が燦々と……いやギラギラと輝いている。まだ朝に近い時間帯だと言うのに、まさに夏真っ盛りといった感じの天候だ。
早朝から電車に乗りこみ、揺られる事数時間、俺達は目的の海水浴場へと着いた訳なのだが。
「うぅ……うっ、気持ち悪い」
「だ、大丈夫ですか……?」
「そういや乗り物酔い酷かったっけな、言い出しっぺなのに」
「相変わらず百合ったら……」
「まあちょっと休憩してから行こうか」
「そうですね」
この計画を立てた張本人である池田が、乗り物酔いでダウン。駅の前にあるベンチで一休みとなってしまった。一応保護者役としてついてきてくれた池田の姉である沙蘭さんも呆れている。一応日陰にあるとはいえ、こうも太陽が輝いていると、それでも暑い。電車に乗る前に買ったペットボトルのジュースがもう空だ。
こうして座っていると、明らかに俺達と同じ様な物を持った集団がいくつか通り過ぎるので、みんな考える事は同じなんだなと思わざるを得ない。まあ夏真っ盛りだもんな。
池田の方は10分程休むと、いつもの調子を取り戻し、意気揚々と俺達を先導した。
「さっきまであんなに青ざめてたのになあ」
「まあ持ち味だしね」
「百合さんらしいですね」
「みんなー?行くよー?」
特に寄る所も無いので、早速砂浜へ。ここは色々と整備してあり、結構な大きさの更衣場が建てられていた。それに併設してこれまた色々と設備があるので便利な感じだ。
「それじゃまた後で……場所取りよろしくね」
「分かった分かった」
女子達と分かれ、男子用の更衣場へと入る。人の数は多かったが、2人が着替える隙間は何とかあった。
場所取りに関しては、着替えが早い男の方がやるのは残当だろう。早くしないと良い所は無くなるからな。
水着に着替えトレーナーを羽織り、外に出る。
「熱い!いや熱……あっ、無理……!」
「ほらサンダル。素足は無謀だって言ったじゃん……」
「意外と行けるかなと思ったんだよ……!」
炎天下の中素足は流石に無理か。大人しくサンダルを履き、砂浜を進む。熱気は凄いが、これならまだ歩けるし、その内慣れるだろ。
「それで、どこにする?」
「海に程々に近くて、それでいて人が多すぎない場所なあ……」
「無いね……」
それなりに早く来たつもりだったが、想定が甘かった。シーズン真っ只中というだけあって人の数は多い。理想とする場所は中々見つからなかった。
「……もうここで良いかな?」
「良いんじゃねぇの、これ以上探しても人増えてくだけなんだから」
もう少し歩くと、多少許容ぐらいできるぐらいのスペースを発見した。見た感じ通り道という訳でも、何かが置いてあったりもしないので、大丈夫だろう。難癖つけられると面倒だ。
「それにしても、よくこんな一式持ってるよな」
「まだ小さい時に行った事があってね。10年ぐらい前の事だけど……まだ使える様で良かったよ」
レジャーシートはともかく、小さめとはいえよくビーチパラソルとか持ってたな。
設置も終わって、女子達を待つ。ビーチパラソルのおかげで日を遮られるので大分マシだ。
「いつ来るかね」
「まあその内来るでしょ」
「ああそうだ、イベントの方どうなってた?」
「あー、聞いたけどそんなに進捗無いみたいだよ」
「へえ、本は揃ったんだろ?」
「まあ進捗が無いというか、また色々と必要になってるみたいでさ……」
翔斗が言うには、日誌を読み進める内に何かが村周辺のフィールドに落ちているらしいのだ。そしてそれを探すのに奔走しているとか。それが何かは教えてもらっていないというより、具体的な事が分かっていないとか。何せびっしり書かれた日誌が5冊だからな。2、300ページぐらいはありそうだったし、分かりづらい言い回しがある部分もある様で時間がかかるのは当たり前か。大半はどうでも良いものだろうしな。
「へえ、大変だな」
「あの時船の中で読まなくて良かったよね。どれだけ時間がかかるやら」
「そうだな……あ、来たみたいだ」
何気なしに更衣場がある方へと目を向けると、知っている顔がこちらに歩いて来るのが見えた。あちらは視線をキョロキョロと動かしており、こちらに気づいていないみたいだった。
「気づいてないね」
「手でも振るか」
流石に手を振れば目についた様で、その後は真っ直ぐこちらに歩いてきた。
「結構離れた所にいたね」
「スペースが取れそうだったのが、ここぐらいしか無かったからな」
「確かにここに来るまで空いてる所は無かったですね」
「2人ともありがとね」
「いえいえ」
男2人で広々と使っていたスペースを空け、4人が座る場所を作る。パラソルは小さめだが、差し渡しが広かったので5人が入っても大丈夫だ。流石にずっと日差しを浴びたくはないしな。
「ふう……で、何かないの?」
「何かって?」
「ハァ……美少女3人の水着だよ?少しぐらい褒めたらどうなの?」
「ちょっと私は?」
「お姉ちゃんは少女って歳じゃないじゃん……」
「……美少女?」
「ぶち殺すぞ」
「違う違う!否定したんじゃなくて自分で言うのかって方だよ!というか分かって言ってるだろ」
「まあねー……で、何かないの?」
「……似合っていると思いマス」
「もっと心をこめなよ……」
「言わされて出る言葉なんてそんなもんだろ……」
海でテンションが上がっているのか、いつもより面倒くさい。どうにかしろよと池田の幼馴染である翔斗に視線を向けるが、逸らされた。助けろよ。沙蘭さんも役には立たないだろうし。
「ほら、琴音ちゃんなんか水着を新調したんだよ!」
「え、ちょ……」
池田に押されて、坂下さんがこちらへと押し出された。淡い色のセパレートタイプが目に入る。そういえば同年代の女子の水着なんて学校用のしか見たことなかったな。そこらのプール施設で目に入る他人の物はノーカウントでな。というか褒めろと言われてもあからさまに視線を向けたら不味いだろ。こういう時見て問題無いのは顔ぐらいじゃないか。
「え、えっと……」
「ニ、似合ッテイルト思イマス……」
「えー?さっきより酷いんだけど」
「俺に何を期待してるんだ……というか翔斗にも言えよ」
「翔斗はちょっと……」
「何故に」
「若いって良いわねー」
「5つしか違わないくせに……」
「……5年は相当よ」
坂下さんは元いた場所に戻った。女子の服を誉めたことすら無い奴に何を求めているんだか。心なしか西田さんの視線まで冷たい気がするのは、きっと気のせいだろう。いや本当にそういう事なら翔斗に任せたい。翔斗ならスラスラ褒め言葉が出てくるだろうに。俺は似合ってますねぐらいしかボキャブラリーが無いんだよ。
「じゃあ気を取り直して遊ぼうか!」
そう言って池田が指を刺したのは、海に浮かぶアスレチックだった。触れ込みによると、日本でも1番の規模だそうで、今砂浜にいる人が全員乗っても遊ぶ余裕があるレベルだ。
貴重品は防水のケースに入れて身につけているので、大丈夫だ。池田のお姉さんはひたすらだらける様で、他の荷物を見張ってくれるそうなので安心だが……折角来たのにそれで良いのだろうか。いや、保護者役や見張り番はとてもありがたいのだが。




