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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第六章 夏だ!海だ!漠漠濛濛。
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第十話 試運転


「ここらで良いか?」


「この辺りならそれなりに離れたし、ぶつかったり邪魔になりはしないでしょ」


 海に出て、操船の練習だ。緊急時に近くの誰かが操れる様にしておかないと困るからな。この船で幽霊船に乗り込む可能性はあるし、その時はしまえば良いけど、出来ない可能性もある。最低限、この船の勝手を知っておか必要がある。

 とりあえずここに来るまではクローナがしたので、クローナの抜いて順番を決める。危なげも無く、スピードを出しても問題無かったので大丈夫だろう。まあ基本的には生産職のクルトかアゲハが動かすのだろうけど、モモとクローナ以外の全員が少し遊んでみたいだけだな。練習とか言っておいたが、それっぽい理由をつけただけだし。

 とりあえず全員でジャンケンをして順番を決めた。全員乗り気だったから、操縦してみたかったのは間違い無い。

 ちなみにジャンケンは3回ぐらいやり直しをした。何というか、ステータスの差がもろに出たので色々と公平では無かった。最も有利なのはアポロさん、次に俺だった。まあジャンケンが本当に公平だと思った事は無いが、一応な。それに負けた誰かが出来ない訳では無いので、ジャンケンに勝つ利点はあまり無い。

 そんな訳で解決方が無いので、くじを作り完全に運頼りにした。


「じゃあ動かしますねー」


「頑張ってー」


 くじの結果、最初はコトネさんだった。止まっていた状態から少しずつスピードを出し、航行していく。ゲームとはいえ、結構なリアリティが売りなのでそれなりの難易度がある。まあほとんど障害物が無いので地上で車を運転するよりは多少は難易度は低いだろう。チュートリアル用のコースでもあれば良いのだけれど、流石にそんな物は無かった。急な方向転換があったが、意外と酔わないな。そこは面倒なのでシステムでどうにかしているか……ステータスのせいか?いやクルトは……酔ったりするのはどのステータスなんだろうな、まあ面倒が無い無い良いか。

 順番は進み、俺の番が回ってきた。とりあえずスピードを出して色々と進んでみる。


「どう?」


「……まあこんなもんかって感じだな」


「そうだよね」


 多少動かしてみたが、特に癖があったりしなかった。ハンドルの回し具合と曲がり方の関係の調子は何となく理解したので、余程繊細な操縦を必要とする場面で無ければ問題無い。その後も交代し、とりあえずは全員経験した。


「それで、誰がメインで動かす?」


「まあクルト君じゃない?」


「そうですね」


「僕ですか、アゲハは?」


「お兄ちゃんで良いでしょ、向いてるだろうし」


「じゃあそういう事で……あ、嫌だった?」


「いえ、嬉しいです。頑張りますね」


「おう」


 ウチの操舵手はクルトに決定と。まあそんな大した事でも無いので、気楽にやってほしい。とりあえずはせっかく海に出ているので遊覧と行く事にした。それなりに船着場から離れたのだが、意外とモンスターと遭遇しない。それらしい影も見えないし。まあそうそう遭遇するよりはマシだよな。さしてモンスターに用事がある訳でも無い。


「あっそうだ、前にモモがクローナは絶対に海にはいないって言ってたけど何でなんだ?」


「ああ、それかい」


「確かに正気では無くとも海には行かないでしょうね……何故かというと、「聖水」が薄まるからですね。今は無いので大丈夫ですが」


「薄まる……?」


「ええ、具体的には操作がしづらくなると言いますか……」


「海水で駄目なんだっけ」


「じゃあガブリエルと会った時用に海水を持っておけば……?」


「人が持てる量じゃ焼け石に水だろうねぇ。それにあれだって弱点は分かっているだろうから、海の近くには来ないだろうし」


「そう上手くはいかないか……」


「それにしても何で仮にも神器が薄まるんだろうねぇ?」


「不思議ですよね」


「「アハハ」」


「笑い事何でしょうか……?」


「さあ……?」


 気になった事を聞いてみたら、予想外に色々と知る事が出来た。まあいつか戦うかもしれないガブリエルとの戦闘には全く役に立たない情報だった。少し持っていくぐらいじゃ何の効果も無いか。多分魔法で出した水に塩ぶち込んでも駄目だろうな。そんな雑な対策で倒せるもんでも無いよな。

 というか、元々の持ち主なのに不思議で済ませるのか。未だに2人の価値観が分からないな……まあ事情を何も知らないから当然と言えば当然だが。


「あとは、ウリエルに連絡が取れれば味方になってくれそうですが」


「あったが見つけてくれるのを待つしかないねぇ……アンタの事を聞いた時だって、あの時のゴタゴタに乗じてだったし」


「そうなのですが、まあそうでしょうね……元気でしたか?」


「元気元気、多少焦げたし」


 やっぱり天使も1枚岩じゃないのか……楽しく話しているみたいだし、邪魔はしないでおこう。重要そうな情報はメモしておくけど。


「皆さん!」


 それからしばらくすると、操縦しているクルトが話しかけてきた。


「どうした?」


「えっと、2時の方向にモンスターがいます。こっちに気づいて来てるみたいです」


「え……あ、本当だ」


 遠目にだが、確かにこちらに向かってくる影が見える。しかも1体じゃないな。大体10体ぐらい……あの形だと魚かな、足は生えてなさそうだ。


「海上での初めての戦闘だね」


「ショウもか」


「海に出る機会なんて無いからね……近くまでは来る事もあるけど」


「でも私達の出番は無さそうですね……」


「まあ、うん」


 近づいてくるモンスターに向かって、アポロさんの斬撃とモモの魔法が飛ぶ。それによる水飛沫が収まる頃には、浮かんでいるのはドロップした素材のみだった。


「うーん、強い」


「モモはともかく、近接型なのに砲台になってるんだよなあ……」


 同じパーティでは無くとも、強すぎるユニットが2人、近距離なら更にクローナも加わるという。1人でプレイヤーのパーティ1つ2つぐらいは相手に出来そうだ。モモは派手にやればそれ以上相手に出来るだろう。

 ドロップした素材を回収しに、クルトにゆっくりと船を近づけてもらう。もちろん、倒した2人に渡すけど。使い道があるかどうかは分からないが、モモも一応貰っておく様だ。


「……海の上でも一先ずは問題無さそうだね」


「凄いですね……」


「遠距離攻撃手段があるとなあ」


「一応コウには【空走場】があるじゃん」


「あー、まあそうだけど」


 確かにそれなら海の上でも動けるが……結局は近づく事になるし、潜られると意味ないからな。地の利はモンスターの方にあるので、アポロさんやモモに1段劣る。まあ対応手段があるだけ大分マシか。


「あ、見えてきましたよ」


「おお」


 今までは、舞台の村に進んでもらっていた。出発した所からは大分距離があったので少し時間はかかった。見えてきたのは、大陸の海岸沿い、薄らと見える群島を飲み込む規模の霧だった。

 どうせなら早速行ってみようという事になっていたが、中々面白い物を見る事が出来た。

 そしてそのまま霧の中へと入る。幽霊船に遭遇するかどうかは運次第みたいだけど、試してみる価値はある。ちなみに群島は霧の外から真っ直ぐ行けばいけそうな気がしてくるが、いつの間にか別の方向に進んでいるらしい。まあ仕様と設定の両方だろうな。さて、幽霊船に会えるかな。


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