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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第六章 夏だ!海だ!漠漠濛濛。
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第五話 船を作ろう


 船が無いので、屋敷に帰ってきた訳だが……やる事が無い。安全な海は他にもあるけど、泳げる様な場所では無い。流石に霧の中で泳ごうとする猛者はいないだろう。楽しめそうに無いだろうし。

 全プレイヤー共通でストーリーが進むなら、放っておいても進むだろう。それにそういうのは大体大手のクランが主導権を握るのだろうから、俺達は程々に頑張っておけば良い。


「それで船どうするんだ?」


「あー、今連絡とってて……あ、今時間空いてるみたいだから行こう」


 やはり、船は早い内に準備しておいた方が良い。丁度時間が取れたみたいなので、船の見積りをする事になった。

 ショウについていき、着いたのはゼクシール。近くには大きな川があり、そこで試運転やらそのまま海に出たりするらしい。一応海の方にも専用の施設みたいなのがあるらしいが、設定からしてそこまでの規模では無いそうだ。

 聞けば、船をしまえる専用のアイテムがあるらしい。それがあればどこでも船を出せるみたいだ。もちろん船しか出し入れできないのだが、人によっては船に大量のアイテムを詰めて、持ち歩いていたりするとか。


「それアリなのか?」


「アリみたいだよ。まあその辺で一々船を取り出して物を漁る手間を惜しまないならだけど」


「あー、面倒だな」


 小型船でもまあまあサイズがあるしな。陸地で出した場合、船の中に入るにも手間がかかる。船の形状からして下手をすると横転してしまうので、中の物もぐちゃぐちゃになってしまうだろう。そこまでして多く荷物を持たなければならない機会も無いだろうし。


「そう考えると、あんまりメリット無いですね」


「だから船を持っているプレイヤーも少なくて、今混雑している訳なんだけど」


 着いた造船所らしき場所は、舞台の村に負けず劣らずプレイヤーで賑わっていた。理由は間違いなく船を手に入れようとするプレイヤーが多いからだろう。幽霊船の情報は周知されているらしいからな。俺達は予約をしているけど今から行って手に入れられるのか。まあ既に売られているのを買う手もあるよな。

 ここは造船所というか、船関係の溜まり場みたいになっているだけの様だ。少し離れた所にはPCAの大工部門もあるらしい。船が手軽に運べるから、川や海に隣接する必要が無いからな。それにモンスターもいるから、作るのは少し危ないか。そもそもNPCは海を渡ろうとはしないみたいだし、発展したのはプレイヤーが来てかららしい。それだとプレイヤー含めても船大工は少なそうだ。船って大工の応用でいけるのかな。


「さて……あっちかな、確か」


「こっちにその人が?」


「うん。流石に忙しいみたいだからずっと作業場だってさ」


 俺達はショウの伝手にありがたく頼らせてもらう。人の縁は何処で役に立つか分からないからなあ。

 多少道を間違えながらも着いたのは、町の端にある倉庫が立ち並ぶ場所の一角だった。ここまで来るとプレイヤーの姿も少なくなってくる。それでも多少見かけるのはイベント特需的なやつだろうか。


「えーと、赤の56……56……」


「あ、あれじゃないですか?」


「そうだね、ありがとう……ユーマいるー?」


 ショウが雑に扉を叩く。すると、すぐに扉が開いた。出てきたのは作業服姿のプレイヤーだった。町の中なのでプレイヤー名が出ておりユーマと表示されていた。


「ショウか、やっと来たか」


「あ、待たせた?」


「別にそこまででもないけどな。作業してたし。とりあえず中入れよ」


 ユーマに促され、中へと入る。倉庫の中は丸ごと1つの空間で、真ん中には作りかけであろう船が置いてあった。よく見るとあちこちに木材やら工具やらが散乱している。完全に自分の空間だな。


「あー椅子椅子、何処にあったかな……あ、これだ。ほら」


「ありがとね」


「ありがとうございます」


「どうも」


「そっちの2人は初めましてか。トーマ、3次職『棟梁』だ、よろしく」


「あ、コトネです。『癒術師』です」


「コウです。ジョブは『侍』」


「おう」


 とりあえず自己紹介をし、トーマが持ってきてくれた椅子に座る。


「それで船だよな?」


「うん……これ?」


「違ぇよ」


「まあそうだよね。いま結構儲けてるんじゃないの?」


「ああ、お陰様でな。今まで作った分も含めて飛ぶように売れてるよ。残念な出来の物まで売れるから左団扇だよ」


「残念って、大丈夫なのか?」


「え?いや、まともに動きはするさ。それにちゃんとスペックは表示してるしな。まあそれでも売れるからありがたいよ。船も死蔵するよりは使って壊れた方が良いだろうし」


「なるほど」


 残念といっても、上手くいかなかったとかその程度か。まあ阿漕な商売をしている様なプレイヤーをショウが頼るはずもないから大丈夫だとは思っていたが。


「船はお1人で作っているんですか?」


「ああ、ここは俺1人で借りてる場所だしな。小型船は何遍も作ってるし、3日もありゃ1艘作れる。余程拘るなら1週間は欲しいな」


「そうなんですか……」


「あ、ちなみにユーマは大学生だよ」


「夏休み丁度でな、時間が取れる」


 学生だったら大体今は長期休業だから、時間はいくらでも捻出出来るか。俺達もその口だし。

 3次職と言っていたが、船のスペックは拘るとしてもそこそこで十分だろう。何よりショウが渡りをつけたのなら安心だ。

 その後も自己紹介がてら色々と聞いていく。このゲームを始めたのは割とリアルに船が作れるからだったらしい。普段は大工として活動していている様で、それはそれでアリと楽しくやっているとか。船は今まで必要になる機会が殆ど無かったので、商売にはならなかったのだろう。船作りの応用になるのかは分からないが、その辺は知らなくても良いか。


「まあこんなもんか……それで、肝心の船をどうする?種類によっては必要な素材が全然違うからな」


「小型船はどんなのがあるんだっけ?」


「帆船とか、MPで動く船、それにリアルのエンジンに似た物もあるんだが、ふざけて造られた奴だから出力はお察しだからおすすめしないな。あとは形状は……金持ちが乗る様なクルーザーみたいなのまで作れるぞ」


「結構多いんだな」


「割と自由が効くからな……まあちゃんと船にするには結構苦労したけど」


 趣味な上に作る船は小型船に絞っているみたいで色々と作れる様にはなっているみたいだ。オプションを付けるほど高くなるみたいだが、それは当たり前か。


「まあ作るなら出来うる範囲で良い船が欲しいよな」


「動力はMPを使うのがおすすめだぞ。それなりに金はかかるが、色々と楽になるからな。効率もMP特化のプレイヤーなら1時間ぐらいは持つはずだ」


「へえ、意外と持つんだね」


「誰がその役をやるのかは知らないが……」


「ああ、それなら適任がいるから」


「そうか」


 モモなら問題無く足りるだろう。かかる金額については後で相談すれば良いので、どんどん決めていこう。


「決める事は結構あるからな、とりあえずこれ見といてくれ」


 ユーマはそれなりの量の紙の束を取り出して渡してくる。サンプルなのだろう、船のミニチュアも出てきた。随分と精巧で、これ欲しい奴は絶対いるだろうな。

 決める事は思っていたよりも多く、時間がかかりそうだ。今日中に終わるかな、これ。


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