第二話 新装備、水着
「へえ、これが」
「はい、会心の出来です!」
そう言ってクルトが持っているのが、クローナ用の装備である。
2つあり、1つは立方体に太めの棒がついた様な、とりあえずはハンマーに近い物。もう1つは少し変わった形のナイフが鈴生りになった様な物だった。
両方共奇妙な形だが……変形するみたいだからまだその真価は発揮されていない。
「それ持てるのか?」
「このぐらいでしたら……この様に」
「おお」
クローナは大分重そうなハンマーもどきの方を片手で軽々と持ち上げてみせた。不自由そうな様子は全く無い。
1回持たせてもらったが、俺のSTRだと両手で持たないと厳しかった。それに、扱うとしても重すぎて無理だ。まあクローナが扱えさえすれば良いので問題は無いな。
「それで変形の方はどうなってるんだい?」
モモが多分全員が気になっていたであろう事を聞く。クルトは持ってましたと言いたげな表情見せたが、その前にクローナを連れて鍛冶場に引っ込んでいった。
「何やってるのかな?」
「操作説明とかだろ」
「あっ、出てきたよ」
装備の仕様は元々決めてあったので、操作の仕方を覚えるのはすぐに済むか。こちらも変形する武器の内容自体は知っているが、どんな感じに変形するのか楽しみだ。
「えっと……」
「あ、お好きな物からどうぞ」
「そうですか、では」
クローナが持ち手の部分をいじると、ハンマーもどきの形が変わり、大剣となった。
結構変形シーンが格好良かった上に、変形にかかる時間が短いおかげで戦闘の邪魔にもならなそうだ。
変形した大剣は大分シンプルな作りだが、この場合余計な物が無い分変形武器の良さが出ているというべきか。
そしてクローナは双剣、槌、槍と様々な武器に変形させていった。刀はもちろん無い……知ってはいたけど、何か残念だ。
ちなみに、この武器はプレイヤー装備不可だ。戦士系統なら変形する武器が3種類以上の機甲武装は装備出来るらしいが、クローナの持っている武器はそのキャパシティを超えているらしい。
クルトが装備を作る時に、クローナ専用の物を作る場合はそのキャパシティが増えていた事に気づいた。なのでそのキャパシティ目一杯にギミックを入れた結果がこれだ。プレイヤーにとっては観賞用ぐらいの価値しかないが、まあそんな事になる事は無いか。
「どうだ?」
「素晴らしい出来ですね。耐久力も十分ですし……まあ少し慣れは必要ですが、私にはこれ以上は無いかと」
「そりゃ良かった」
「良かったです……」
クローナ自身も満足の様で、製作者のクルトも一安心だ。
もう一方のナイフが鈴生りになっている方は、装備すると腕に巻きついた。役割としては、心ばかりの盾と飛び道具だ。若干使い捨てに近いが、回収すれば簡単に使いまわせるみたいだから、楽で良い。
結果としては、流石クルトと言う他ない。
「これで、戦闘面でもお役に立てますね」
「ああ、頼んだ……そういえばクローナって飛べるのか?」
「いえ……滑空ぐらいなら出来るかもしれませんが」
「飛ぶのは、厳密には違うけど神器関係だからねぇ」
「そうなのか」
気になっていた事を聞いてみたら、モモから返事が来た。まあ飛べたら強力すぎるもんな、翼は今はほぼ飾りだな。出さない方が色々と都合が良いし。
クローナの防具はとうに完成しており、それも何故かメイド服風だった。確かに最近メイドみたいな事をしているが、それとこれとはまた違う気がするんだけどな。
まあ本人が満足している上に、これもNPC用だからか性能が高いから文句のつけようは皆無だ。
ちなみにアゲハに何故そうしたかと聞くと、「趣味!」と元気な声で返事が来た。うん、趣味ならしょうがないネ。
「じゃあ、考えようか!」
「何を?」
クローナの装備のお披露目も終わったところで、アゲハがそう言った。
「それはもちろん水着よ!」
「ああ、なるほど」
「あ、それは良いですね」
今は屋敷に住んでいるプレイヤー、NPCが全員いる。だから全員分の水着か。思いの外モモやクローナも乗り気みたいだ。まあイベントだし、そういう事なら折角なので俺も乗ろ…張り切るのは良いがもう少し説明を……あ、これに全部書いてあるのか。
「すみません……色々と張り切ってまして」
「それは見て分かるからね……まあとにかく渡された紙を見てみようか」
「結構細かく書いてあるぞ」
渡された数枚の紙には、いくつかの男用水着のデザインなど様々な関連事項が所狭しと書いてあった。
この中から選べという事か。左下には俺達の名前と希望の種類と色を書けるようになっている。結構準備が良いな……張り切っているせいで押しは強くても抜かりは無いみたいだ。
というか、選べる種類が多いな。大体男用の水着なんて2、3種類ぐらいしか無い気がする。男用といえど手は抜かないという事かな?
「じゃあ僕これで」
「では僕はこっちにします」
「え、早いな。うーん……じゃあこれで良いか」
まあ種類があるといっても、細かい部分が違うだけだ。俺含め、特にこだわりがある奴はいないみたいでさっくり決めた。
この紙は本人に直接渡さなくても、分かる所に置いておけば良い。アゲハの部屋に置こうとしたら紙の隙間から1枚のメモ書きが落ちた。
「何だろうね?」
良く見ると、全員分の水着を作る上で必要になるであろう素材とその数が書いてあった。まるで集めてきてねと言われている様な……実際のその意味しかないだろうな。
「す、すみません……」
「いやまあ、どっちにしろこうなりそうだし……」
「早めに行かないと、フィールドの素材が無くなる可能性もなくはないからね。考える事はみんな同じだろうし」
ショウの言う通りだな。少し頼み方がアレなだけで、素材集めに関しては文句は無い。女性陣は考える時間が結構必要だろうし、適材適所か。
「じゃあ早速行くか」
「そうだね、メモは持って行っても大丈夫かな?」
「デザインは置いたので大丈夫かと……あ、僕も行きます。採取系なら出来ますし、湿地フィールドなら今の僕なら逃げられるので」
「ああ、そうだな、そうしようか」
必要な量がそれなりにあるので、人数は多い方が良い。確かに今のクルトなら湿地フィールドであれば、モンスターを倒せなくても生き延びる事は出来るだろう。
3人で湿地フィールドへと向かうと、いつもよりプレイヤーの数が多かった。やっぱりみんな考える事は同じか。素材が無くなる事はなくても、見つかり難くはなるので、さっさと集めよう。
「じゃあやろうか」
湿地なので汚れやすいが、ゲームだからリアルよりは何とかなるし諦めるか。さて、俺はモンスター系のを集めないとな。
「どこだ……あれ?」
目的のモンスターを探そうと思ったら、向こうから見知った顔が近づいてきた。
「イプシロンさん」
「やあ久しぶり。君達も水着素材?」
「そうですね……もしかしてイプシロンさんも?」
「ウチは女性陣の圧に負けてね。まあクランの事務的な事を任せてる人が多いから労いも兼ねてね」
どこも似た様な感じか。
今のイプシロンさんはいつもの騎士然とした装備ではなく、良く言えば旅人風の格好だ。汚れ対策もあるだろうし、する事と合わないよな、いつものは。




