第二十七話 この先の情報は未開放です
「はあ……帰ってきたね」
「意外と何とかなったな」
あそこ帰るにはアハトミノから馬車システムを使うのが1番早い。目立たない為にはフィールドを歩いて行くのが1番だが、流石にそれはナンセンスだ。しかし、馬車乗り場には大体プレイヤーが屯しているので、見た目はまだマシになったとはいえ、黒女をおぶっていくと結構目立った。幸い、視線を向けられてもクエストかなと判断したのかすぐに外れたし。
アハトミノに着く前に、ショウに先に行って荷車を買いに行ってもらったので、王都に着いた後もそれっぽく移動する事ができた。ヒーラーのコトネさんを一緒に乗せておけばいかにもな感じがしたし。そうして屋敷へと着いた訳だが……緊張したな。悪い事をしている訳では……交番の前を通る時にやましくないのに緊張するアレかな。
「あ、お帰りなさい……えっとその方は?」
俺達の戻ってきたのが見えたのか、クルトが玄関を開けて出迎えてくれた。丁度暇だったのかな。行く時より1人増えているから戸惑っている様子だ。とりあえず説明する前に屋敷の中に入れてしまわないと。
「荷車どうする?」
「別にその辺に……とりあえず鍛冶場の近くに置いておけばそれっぽいね」
「じゃあ私置いてきます」
「よろしく」
「えっと……?わっ!?」
黒女を中に入れ、扉を閉めるとモモがかけていた魔法を解除した。同時に見た目が元に戻ったので、クルトが驚くのも無理は無いだろう。モブがいきなり黒い翼の生えた黒髪美人になって驚かないプレイヤーは極少数のはずだ。
「えっと、どうしようか」
「あ、部屋に寝かしておくよ。どこも変わらないだろうし」
「そうか、分かった」
黒女はモモの部屋に寝かせる様で、黒女をモモに預ける。そのままモモは上にある自分の部屋へと向かって行った。
とりあえず何が何やら分からないクルトに説明する為に、談話室へと向かう。中にはアゲハもいて、2人に起こった事を話していった。
「はあ、そんな事が……」
「凄い体験ね……堕天使?」
「多分そうじゃないかと思うけど……明言されてないしな」
「まあそこは追々聞いてみれば良いよね。まだ目を覚ましていないんだし」
「そうですね」
モモが連れて行った黒女がいつ目を覚すのかは分からない。何しろ精神面に関しては察しようが無いからな。
そういえば、2人に話していた事もあって帰ってから時間が経っているが、モモの方は大丈夫だろうか。一応面倒を見ているのだろうけど、ポーションとかを持っていった方が良いのだろうか。
そう思ったが、相談をしようと口に出す前にモモが部屋に入ってきた。
「大丈夫でしたか?」
「ああ、コトネの魔法のおかげで肉体面は問題無さそうだったよ。精神面は……時間が経たないと分からないねぇ。そも起きるかどうかも分からない」
「とりあえず今出来る事はもう無いか」
「そうだね」
そういう事ならどうしようもないし、医者にも見せようがない。
そういえばこのゲームで医者っているのかな。確か基本的にはポーションでどうにかなるらしいし、コトネさんが就いてるジョブがその代わりなのかな。
黒女の方は、状態異常とかで区別できないみたいだから、様子を見て行くしかないか。
モモは空いている席に座り、一息ついた。
「……さて、聞きたい事があるなら答え……られる範囲は答えるよ」
「まあそうだろうな……」
知っている事を全て話してもらえるならありがたいが、今の時点ではまだ話せる範囲は限られているか。そもそも過去に具体的に何が起きたかはあまり情報が無い。モモやマモンは話してくれなかったし、ベルゼバブの契約者であるイプシロンさんもそこまで詳しくない様だった。
「何から話そうかね……聞いてくれた方が話しやすいんだけど」
「え、えー……面と向かって言われてもな。何かあるか?」
「いや全然考えてなかったし……」
「じゃあ、良いですか……?」
「どうぞどうぞ」
質問どうぞと言われても、ちゃんと考えていなかったからどうしたものか。そりゃあ、聞きたい事は山程あるが、答えてくれる可能性は低いものばかりだ。片っ端から質問してモモを困らせるわけにもいかない。何が良いかと考えようとしたら、コトネさんが質問があるみたいだった。
「結局モモさんと黒女さんの関係何なのでしょうか?天使と悪魔って一般的には相容れないものだと思うんですけど……あ、黒女さんって天使ですよね?」
「天使だね。まあ今の状態がどうなのかは知らないけど……アイツとの関係ねぇ。1番近いのは……姉妹?」
「姉妹!?」
「あ、もちろん私が姉だよ」
「いやそうじゃねぇよ……!?」
大した事ない質問のはずが大した事になった。天使と悪魔で姉妹って何だ?いや堕天した天使が悪魔と呼ばれるパターンもあるが……モモは根っからの悪魔じゃなかったっけ?アスモデウスってどうだったっけなあ……まあこのゲームの場合、由来はあんまり気にせずに使ってる事が多いみたいだし、参考にならないか。というか、モモに姉妹がいるイメージがしない。1人っ子とかそういう意味でな。
「姉妹ですか……」
「厳密にはどっちが姉という訳でも無いんだけどねぇ。製……生を受けたのが同時期ってだけさね」
「よく分からんが……仲良かったのか?」
「……ノーコメントで」
「ああ、そういう感じの…….じゃあ他の天使や悪魔も?」
「いやいや、それは違うさ。近しいと言えるのはアイツだけさ。他の奴はもう少し遠い」
「……はっきり言うのは駄目なのか?」
「そうだねぇ……この際だから言うけど、はっきり言うとバレるんだよ」
「う……ん?」
説明がアバウトすぎてよく分からないが、話さないんじゃなくて話せないのか?けどマモンはモモが言ってないから話さないみたいな感じだったし……事情が混み合いすぎて結局分からん。知らない事を減らそうとしたら、逆に増えた。話せる条件何なんだろうな。
「後は何かあるかい?」
「えっと、じゃあ明確に敵対してるのは?姉妹じゃなくても、それに近いならそこまで険悪になるものじゃないだろうに」
「ああ、あれはあっちがこっちを目の敵にしてるだけさ。ガブリエルとかは特にね。1対1じゃ戦いにならないし、そもそもこっちは邪魔する気は無いからね」
「あれ?そこらのはともかく、七大罪の悪魔って人間側じゃないのか?」
「え、ハハ、まさか。私や、ちょっと違うけどマモンは契約者がいるからだし、ベルゼバブを思い出しなよ。大体あんな感じだよ」
「マジか……」
結構協力してくれているから、自然とそうだと思っていたが、そもそも前提が違ったとは。
確かにベルゼバブは人を助ける気とか全く無さそうだった。マモンは恩を返すとかそういう感じだろうし。
味方してくれているのは契約者だからか……早く全員見つけないとやばかったりするのだろうか。
「あれ、でもマモンは何か追いかけられて死にかけたんじゃなかったっけ?」
「あれはアイツらの個人的な因縁さ。ほら、アイツアホだから」
いやそんな緩い感じで言う事ではないと思うのだが。実際死にかけていたみたいだし、笑えるものなのか……よく分からん。
「あ、けどアイツは……ルシファーは結果的に味方をするかもねぇ」
「ルシファー?どこにいるか分かるのか?」
「いや。まあ見つけ出したとしても協力するかは分からないし」
「いや味方するって言ったじゃん……」
「いやいや、結果的にだって」
その後も色々聞いてはみたものの、あんまり収穫と言えるものは無かった。答えがどんどんアバウトになっていくので、質問どころでは無かったし。
モモも自身で思っていたより話せる事が少ないのが分かったのか、若干申し訳なさそうな雰囲気を出していた。
まあこういう事はもう少し先って事か。




