第十四話 ボスキャラ感漂う人
「……まさかあんたもエクストラスキル持ちだったとはねぇ……初心者と思って油断したよ」
俺に向かって話しかけてくるが確実にスキルの時間切れを狙っているのだろう、どうにかして隙をついて攻撃するか……片足は奪ったから今なら逃げられるか?
「いや僕も舐めてたね……ギリギリ仕留められると思ったんだけど」
俺が攻撃している間にショウとコトネさんがこちらに駆け寄ってくる。
「それそんなに残り長くないんだろう?ならもう2人で突撃しようか……今なら足遅い僕をおいて逃げられると思うけど」
「却下」
「嫌です」
時間かけて集めたアイテムを失いたくないとかじゃなく、ここまで来たらあいつを倒して3人で町に逃げ込みたい。その気持ちはコトネさんも同じなようで即座にショウをおいて逃げるという選択肢を却下する。
「まあそうだろうね……じゃあとりあえず僕先頭ね」
作戦ですらないが作戦会議が終わりカリファへと注意を向ける。この間にカトラスを捨て新たな武器、大剣を取り出しこちらを注視している。『貫牙剣』の効果範囲が刀身までということに気付いているのか俺の攻撃が届く前に叩き伏せるつもりなのだろう。
「じゃあ行くよ!」
まずショウが駆け出しカリファの右側へ、その後俺が走り出し左側へと移動し、2人で挟み撃ちにする。
「挟み撃ちにしたところでまとめて吹き飛ばせばいいのさあ!」
「そらぁ!!!」
大剣を構え薙ぎ払う姿勢を取る。しかしショウがスキルもなにも使わずただ思い切り大盾を投げつける。まさかタンクが自分の盾を投げつけるとは思ってはいなかったのか体勢を少し崩し盾を弾き飛ばす。その隙をつきまだエクストラスキルの効果が残っている刀で首目掛けて刺す構えを取る。
「くっ、そのぐらい!」
さすがというか体勢が崩れたにも関わらず大剣を俺に目掛けて振り下ろそうとし、その顔面に魔術士用の杖がぶつかる。
「ぶへっ」
「やった、当たった!」
思い出したけどコトネさん運動もできるとか聞いたことあったわ、文武両道とか最強じゃないか。とにかく体に当たるどころか顔面に当たったおかげで怯んでいる。これ以上の機会はもうない、全霊で刀を突き出しその首を捉え……俺の右腕が吹き飛んだ。
「え……!?」
数瞬の後、どこからか飛んできた衝撃にショウも俺も吹き飛ばされカリファから距離を取らされる。
「ちょっとカリファ、ショウがいるとはいえ初心者パーティになにやってるのよ」
「うるせ、刀持ってた奴はエクストラスキル持ちだぞ」
奥から出てきた大弓を持った女性プレイヤーが驚いた顔で俺を見る。ソロじゃなくクランでPKしてるんだから誰か来る可能性はあったが……タイミング最悪だろ。
「あー……ここでサブクランリーダーのお出ましとはね……」
「さて邪魔が入って悪かったが運が悪かったと思って大人しくキルされてくれ」
エクストラスキルの効果も切れ、しかも俺含めて全員武器が手元にない。さすがにこれ以上はもう無理か……?
「いいところまで行ったんだけどなー?ここまで運が悪いとは」
念の為なのか大弓を持った女性が構え、俺たちに狙いを定める。あー、初デスかー……あともうちょっとだっだんだけどな。しかし、次の瞬間エフェクトとなって消えていったのは弓を構えたPKの方だった。横から飛んできたとても見覚えのある斬撃の様な衝撃波が女性プレイヤーを跡形もなく消し飛ばしたのだ。そのまま衝撃波は飛んでいき射線上の木へとぶつかる。そして衝撃波が飛んできた方向からは数時間前に会った青髪の小柄な女性が出てくる。
「……また会いましたね、助太刀させていただきます」
……すみません、木が倒れた音で何言ってるかわかんないっす。
ちょうど木が倒れた音と重なったせいでアポロさんの小さい声はかき消されてしまったので、何を言ったのかはわからなかったが状況的に多分助けに来てくれたのだろう。ショウは知っていても付き合いがある感じじゃなかったし、俺も一回会っただけなので偶然だろうが、何にせよ助けに来てくれたのはありがたい。
「まさか「個人最強」のお出ましとはね……結果としては運が良いみたいだねあんたら」
「ははは、それどうも……僕達の運というよりかは……」
おい、こっちを見るんじゃない、視線が集まるだろうが……アポロさん、目線がとてもキツいんですけど、どういう感情なの?あと、コトネさんそんなに尊敬したような目で見ないでくれ、俺割と大したことしてないからね?
「ああ、そうだそこの灰色、プレイヤーネームは?」
灰っ……まあそんな言い方になるのはしょうがないか。これ名前言ったら粘着とかされないよな?常時命狙われたり、リスキルとかやだよ俺。
「うちの方針はフィールドで初心者以外を対象にしてるからね、そもそも付き纏ったりはしないよ……町の外だとプレイヤーネームが表示されないのは相変わらず面倒だねえ」
「あー、コウだよろしく……なるべく会いたくないが」
割と本当に会いたくない。せめて対抗できるぐらいのステータスになってからして欲しい……マジで。
「まあそれは無理だろうね……あー、とりあえずこんなもんかな……見逃してくんない?」
このゲームやっていればその内また会うことになるか……次はとりあえず最低でも逃げられるぐらいの実力を身につけておきたいな。
「ダメです」
カリファの質問に対しアポロさんは首を横に振りながら答える。俺はまだ近くにいたからギリギリ聞こえたけど……多分聞こえてないっすよ、声出すの苦手なのかな……?
「相変わらず無口だね……もう少し愛想良くしたらどうだい?」
いや、この人ちゃんと喋ってますよ、声が小さいだけで。
「むっ……成敗」
あ、消し飛んだ。本当に威力洒落にならないな、レベル高いからそれなりにVITあるはずだけど……やっぱりアポロさん声が小さいの気にしてたのかな。
「あー、ありがとうございます?」
「……いえ、私も始めたばかりの時に集めた素材をPKされて奪われたことがあるので……彼女たちではないですけど」
さすがにアポロさんも弱かった時期はあるよなそりゃ。回復してこちらに来たショウが言うにはサービス開始1月が経ったあたりに悪質なPK事件が発生したらしい。有志のプレイヤーが集まって総出で殲滅したという。
「そういえば最近は王都周辺で活動してるって聞いたけど、なんでここに?いや、そのおかげで助かったんだけど」
アポロさんが言うには俺と会った後王都に戻ったが急いでいた理由の用事の流れでツヴァイアットに戻ることになりその時にフィーアル側へ行く俺達を見かけたらしい……あの時から30分ぐらいしか経ってないはずなのに王都行ってさらにツヴァイアットまで来たのかと思ったら、急行馬車みたいなのがあるようで5分程で町1つ移動できるらしい。そういや生産者用に似たようなシステムあったっけ。町の間で結構距離あるからそれを5分って相当な速度だな……まあファストトラベルの代わりなんだろうけど。転移魔法みたいなのは無いのかな?話はずれたがその後たまたまフィーアル手前の森にPKクランであるTidy Hooliganが移動したと聞き特に用事も無く気になったので駆けつけてくれたと言う。すごい良い人だなあ……さっきの素材返した方がいいだろうか?
「いや、そのそれは既に差し上げた物なので……助けに来たのも私が勝手にしたことなので」
改めて良い人だなと思っていると木の陰からモンスターが飛び出してくる、しかし俺が刀を抜く前に、いつ抜いたのかアポロさんの刀によってモンスターは首をはねられエフェクトとなって散っていった。そういやここ普通にフィールドだったな。
「ここで話すのもなんだしとりあえずツヴァイアットへ行こうか……えっとアポロさんはどうします?」
「折角なので同行してもよろしいでしょうか?……せっかくなので」
というわけで4人でツヴァイアットへと向かうこととなった。道中は運が良いのか悪いのか特にモンスターも出ず穏やかな道のりだった。そういえば他のPKはどうなったのかと思ったが、アポロさんが移動した時に何人か斬り、またカリファがやられた時点で撤退の指示が出たという。そもそも、「個人最強」と言われているアポロさんがいる時点でPKを仕掛けてくるプレイヤーはいないようだ。あとは縁が割とあったのと折角なのでフレンド登録をさせてもらった。声が小さめなのは変わらないがコトネさん会話が弾んでいたと見受けられるので仲良くなったのだろうか?フレンド登録をする時にアポロさんのウィンドウがちらっと見えてしまい、フレンド欄がほとんど空欄だったのは多分気のせいだろう……荒地で会った時の様な場合を除いて自分から話しかけることはあまり無いのかもしれない。そんなことをしているうちにフィーアルに着き、アポロさんは王都へと進んでいった。俺達も素材集めで結構時間が経っていたので今日は解散となった。俺もさすがに色々ありすぎて疲れたので今日はもう終わりにしよう。
コトネはアポロと話していますが超小声なのは変わっていません。なので何回も聞きなおしていたり。




