第二十五話 過去の鎖、濡羽色 五
最初のときと同じように、黒女の上に水女が作られていく。2回目はここに入ったら即戦闘開始か。というか今更だが黒女とか水女とかどうにかならないだろうか?個体名があった方が色々と呼びやすいのだが……まあこの戦闘が終われば用無しだけど。
「僕のVITで耐えられるかな?」
「一応バフはかけたけどね」
「肉壁頑張ってくれ」
「やな言い方するな……」
「安心して下さい、私が回復するので!」
「いやその言い方はちょっとアレだと思うけど?」
水女は、ナイフを大量に作り出している。俺達が離れているから遠距離攻撃からか。様子見という事で、とりあえず盾を構えたショウの後ろに隠れる。
「どうだ?」
「うん、思ったよりも大丈夫みたい。まあ少しはダメージ入るけど……このぐらいなら全然やりようはある」
数任せの攻撃ならショウでも大丈夫か。ただそれでもダメージはまあまあ入っているみたいなので気は抜けないだろう。
ナイフによる攻撃は止んだので、俺とモモはショウの後ろから出て水女の方へと近づく。水女は斧を作り出して振り下ろしてくるが、それを避ける。
「【抜刀】……ちっ!」
挑んだ人数が多かったせいで注意が分散していたのか、容易に近づけたのでスキルを使って攻撃する。しかし前回と同じく盾で防がれた。そしてまた同じように後ろから剣が迫ってきた。
「させないよ、『アイシクルマジェスタ』」
だがモモの魔法によりその剣はもちろん、この空間の床全体が凍った。剣は凍ってもこちらへ向かおうとしてきたが、周りごと凍らされているので実際に飛んでくる事は無かった。放置するのもアレなので刀を振り、剣を砕く。床に散らばった破片はすぐに溶けて、水女の方へと戻っていった。
モモの魔法によって凍った床は水女由来の水では無いのか白く凍っている。先程の剣も凍っても色は黒だったので見やすくなって助かった。
「おお、見やすい」
「これで分かりやすいだろう?」
「ああ……意外と滑らないな?」
「そりゃあ魔法だからね。そのぐらいの融通は効くさ」
流石モモだな。まあそのモモでも水女自体を凍らせる事は無理みたいだ。可能なのは水女が作り出した武器を凍らせて破壊しやすくするぐらいらしい。
だが環境が幾分楽になったのでその働きは普通に大きい。『反剋』の特殊な魔法や回復魔法を除いた全ての魔法が使える凄さは伊達ではないか。
「【レストリジェクト】……おっと」
飛んできた槍を弾いたが、その槍は形を変えてギロチンの刃の様な感じで俺に迫ってきたので、急いで避ける。攻撃パターンが増えてきたな。
「『バーンバースト』」
俺が避けた方向は水女側では無かった。なので水女の近くには誰もおらず、モモが魔法で大爆発を起こした。大爆発といってもここが崩壊しないように大分加減を……いや結構派手目だったな。
しかし水女は盾をいくつも作り出して黒女ごと全方位を守っていた。臨機応変だな、しかも無傷か。
というか威力はともかく容赦なく黒女諸共爆破したな。古い知り合いのはずで、色々感情的になってたのに……どういう関係なんだか。
それにしてもガブリエルの時も思ったが攻防一体で便利で、こちらからすると厄介な武器だ。形状と性質の一部が水なだけで実際には全く別の物だな。蒸発はしないみたいだし、凍っても数秒か。
黒女の方はナイフでの攻撃は駄目だと判断したのか、今度は無数の球体を作り始めた。その数は100を超え200を超え……よく分からん。大量に作り出しているせいか水女も1回り小さくなっている様な気がする。
隙だらけに見えるが浮いている水の球体の数を見れば、攻撃どころではないのが分かる。水女に攻撃が届く前にこちらが蜂の巣になる。ショウの後ろに隠れようと思ったけど割と距離がありどうしたものやら。
「そっちで頑張って!行くのはちょっと無理!」
「死ね!」
流石のショウもこっちまで手が回らないか。あと気軽に死んでこいみたいな笑顔をこちらに向けてきたので腹が立つ。
「はあ、『グランドシールド』」
「サンキュー!」
みかねたモモが俺の前に分厚い土の壁を出してくれた。それと同時に準備が終わったのか球体がいっぺんに落ちてきた。敵を狙うのではなく、フィールド全体に落ちて攻撃するタイプみたいだ。
球体が当たり土の壁はガリガリと削られていったが、球体が尽きるまでは耐えてくれた。流石にボロボロになって崩れ落ちていったが、この壁は役目を立派に果たしたと言えるだろう。
モモやコトネさんもショウの後ろに隠れていたみたいなので問題は無いようだった。
よく考えればこれはチャンスか。水は辺りに散らばっていて、今は守る為の水が無い。形状を変化させてこちらに攻撃するにしても水女の方がガラ空きなのは十分チャンスと言えるだろう。
「【ディケイ……ブースト】!」
一気に駆け出し、水女に向かって刀を振る。こちらへと向かってくる水はあるが、こちらの方が速い。届くと思ったが、直前で水女が変形して避けられた。
「またか……!」
散らばった水が集まってきたので、一旦距離を取る。とりあえずショウの方へ向かうか。
「いやあ、いやらしい感じだねアレ」
「正気じゃなくても器用なもんだねぇ、アレアイツが動かしてるのか知らないけど」
「まあ見え見えだったからしょうがないか……」
真っ直ぐ突っ込んでいったので、半ば予想はしていた。しかし、そうなると完全に隙をつかないと当たらなさそうだな……面倒。
「それじゃあ攻撃当たらないんじゃ……?」
「まあ不意をつけば……それに、ああして避けるって事は斬られるのは不味いって事でしょ?」
「じゃあ方針は間違ってなかったのかな?」
ピクリとも動かない黒女に攻撃するのは躊躇われたので、水女に攻撃するのが正解なのはありがたい。
不意をつくなら水女が防御可能なタイミングか。俺には【貫牙剣】があるから、防御自体は何とかなる。ここにいる全員はそれを知っているから、隙を作ってくれるだろう。問題は俺がそのチャンスを上手くものにできるかだけど。
「ほら来たよ……!」
今度は巨大な鎚による上からの攻撃だった。全員、別方向に分かれて避ける。
その鎚を構成していた水はいくつかの剣の形を成し、それぞれがいる方へと飛んでいった。コトネさんはショウの後ろに隠れ、モモは氷の壁を出して防いだ。俺に飛んできた剣の数は4本、ホーミング機能は無いので走れば普通に避けられた。
攻撃が多彩すぎるなあ……伊達にガブリエルより年季を積んでいるだけはある。ネタ切れは期待しない方が良いな。
状況が膠着してきたので、武器を切り換える。
「『反剋』」
この状態なら大体の攻撃は相殺できるのは1回目の時に検証済みだ。それは水女も覚えているようで俺を近づけないように攻撃の比率が増えてきた。
迂闊に近づけなくなったが、今はソロではなくパーティだ。俺に注意が向けば他の3人への注意が疎かになる。
「『フロストコフィン』!」
水女の周囲が全て凍った。大量のMPを注ぎ込んだのか、その規模は大分大きい。水女は外に散ったものや中に残っている水で氷の棺を破壊しようとしている。その速度は凄まじいが、今なら氷を破壊する事にかかりきりだ。
「【貫牙剣】……【刺突】!」
水女を囲む氷の棺はこの数秒でほとんど原型を留めていないが、まだ厚い所から水女に向かって刀を振るう。間にあるのはモモの魔法だが、水女に対する攻撃なので『反剋』の効果の範囲内のようだ。そのまま氷を吹き飛ばし水女へと迫る。
だが、水女も迫る俺に分かっているようで、小さなナイフを作り出して俺に右腕に突き刺した。普通ならこのまま水女へと刀を突き刺せず失敗だ。まあそれぐらいは読んでいたけど。
「【サクリファイス】」
ショウがスキルを発動、俺の右腕の傷が受けたダメージごと無くなった。流石はショウで、タイミングは完璧。そのまま勢いを衰えさせる事なく水女へと刀を突き刺す事に成功した。




