第二十四話 過去の鎖、濡羽色 四
「ああ、死ぬと探索者は力が落ちるんだっけねぇ」
「そうそう」
出鼻を挫くようで悪かったが、俺は負けてここに戻ってきたのでデスペナのせいでステータスが下がっている。装備の修理もまだ終わっていないので、それも待たないといけない。
そういえば『反剋』用の刀も耐久値が減っていた。とりあえずクルトに刀の修理を依頼したが、余り時間が無いので早く直してくれる様に無理を言ってしまった。
急いで直すとそれなりにリソースを消費するそうで、割り増しで料金を払う事になったがまあ、必要経費と思えば大した事はない。聞いてみたらそこまでの金額じゃなかったし。クルトは相場ぴったりしか要求しないので何とも……出来が良いからもう少し払っても良いんだけどな。
そういう事で、数十分は待つ事になった。まあ流石にそれまで駄弁って時間を潰すような真似はしない。エクストラモンスターや迷宮の最下層ボスレベルの相手に挑むので、無策では4人で行っても負けるのがオチだろう。しかもNPCであるモモがいるので負ける事は出来ない。
プレイヤーは命の価値が道端の石レベルだが、NPCは取り返しがつかないからな。幸い1回戦った俺と、古い知り合いであるモモがいるので、対策の立てようはある。
「じゃあ、作戦会議だな」
「そうだねぇ、しっかりしないと。どういう原理か分からないけど、ガブリエルの時の力を使えるみたいだし」
「攻撃パターンを知ってる2人がいて良かったよね」
「……あの」
「何だい?」
「失礼を承知で言うのですが……その黒女さんは生きているのでしょうか?」
俺が戦った時は戦闘中であってもピクリともしなかった。最初にガブリエルと呟いていたが、顔を見ていなかったので黒女自身が口に出したのかは分からない。
経緯が経緯だから、怨念的な何かだったりする可能性も十分あるだろう。そもあの戦いだって、意思を持ってしていたのかも分からないし。
「その可能性はあるだろうねぇ……まあそしたらそしたらさ」
「意外と淡白だな?」
「元々生死が不明だったからねぇ。神器を奪われた天使がどうなるかなんて分からなかったし」
「神器……?」
「7人の天使が持つ武装、ガブリエルだとあの「聖水」だね」
何かさらっと重要情報が。天使が持つ物としては納得のネーミングだ。ショウが急いでメモしているので頑張って欲しい。それにしても神器か……プレイヤーも神が寄越したみたいな設定だったはずだが、関係あるのかな。
「奪われたと言いましたけど、奪った人は大丈夫なんですか?」
「そりゃあ大丈夫さ。あれらに異を唱えたのは黒女の方だからねぇ。本来の持ち主じゃないアイツが十全に使いこなせる物じゃないし」
「それでも結構強かったけどな……」
「それはそういう物だから……全く厄介な」
「じゃあ黒女が使っていた方は何なんだ?」
「それも分からないねぇ……初めての事象ばかりで」
神器を奪われた天使がいるのもその天使が奪われたはずの神器の能力を使っているのも初めてならそりゃあ知らないか。モモの知識は年の功みたいなものだし。ファンタジーの一々に疑問を持っても仕方がない。設定についてはこれ以上考えようが無いか。
「何にせよ、生きているなら目を覚まさせる。そうでないなら……眠らせてやるだけさね」
「中途半端は駄目だよな……黒女を縛っていた鎖は何か知ってるのか?」
「確か拘束用のそういうのがあったはず……でもそんな邪悪な雰囲気では無いと思うけどね」
「長い年月で変化したとかか……」
「とりあえず分かるのはそれぐらいじゃない?」
「そうですね、戦闘の対策をしないといけないですし」
まず俺が見た黒女の攻撃パターンを話す。戦闘時間はそこまで長くなかったので見る事が出来たのはそこまで多くないけど参考にはなるはずだ。
モモが言うには、基本的には俺が体験した通り水を武器の形にして攻撃してくるそうだ。ガブリエル(男)が具体的な形にして攻撃しなかったのは年季の差じゃないかとも言っていた。村の記録によれば、黒女と思しき黒い光は1500年前のことのはずだが、それ以上の年季か。まあガブリエル(男)が使いこなす努力をしていない可能性もある。努力とかしなさそうなキャラだったし。
というかモモ達は何年生きている事になっているのか……聞くと地獄の釜が開きそうだからやめておこう。
あとは男の方は水を飛ばしたら回収するまでそれきりだったが、黒女は飛ばした後も攻撃出来た。その違いは大分大きいだろう。
「じゃあ、避けたからといって油断はできないね」
「後ろにも気を配らないといけないわけですか……」
「何かよく使う攻撃パターンとかあったのか?」
「いや割と何でも器用に使ってたから……大抵の武器の形を取ってくるはず」
「厄介だなあ」
得意の武器の形があるならそれに注意すれば良いけど、モモの言う通りなら全ての攻撃に集中しないといけないしな。
「そういえばあの第2形態みたいなのは使ってくるのかな?」
「ああ、【忍耐】の事かい?それは……流石にないはずさ。あれは本体に直結しているだろうし」
「それならまだ楽だな」
戦闘中の強化要素が無いなら、全力を出しやすい。形態が変わる敵だとそれまで余力を残しておかないといけないしな。
その後も色々と話し合い、行うであろう攻撃方法について洗い出した。黒女か水女のどちらに攻撃するかについてはとりあえず水女の方となった。もし生きているのなら攻撃するのは不味いどころの話ではない。
話が終わると同時にクルトとアゲハも修理が終わった様で部屋に入ってきた。修理具合も完璧で、デスペナルティも終わっているので、準備は万全だ。
「それじゃ行こうか」
「そうだな……忘れ物無いよな?」
「無いんじゃない?そもそも忘れてるから忘れ物なんだし。大丈夫大丈夫」
「大丈夫か……?」
まあこの場合ポーションさえ忘れなければ何とかなる。
屋敷を出て、4人で目的の場所へと向かう。場所を知っているのは俺だけなので、先導しながら洞窟へと進んでいった。
「へえ、ここが」
「こういう所は苦手なはずなんだけどねぇ……?」
「まあ正気じゃない雰囲気だったし」
土地神がいた方からではなく、後に見つけた方の入り口から入る。あっちは岩やら何やらで入りづらい。モモの魔法で何とかなるかもしれないが、MPの消費はなるべく抑えておきたいし。
「この下だな」
「道というか穴というか……」
「……」
「モモさん、顔がその……」
「……ああ。肩肘張ってちゃ何にもならないね……」
相手が相手なので、モモも緊張しているようだ。NPCがいるからやり直しがきかない戦闘になる。今までにもそういう機会はあったが、結局何とかなってきたからなあ。今までで1番気が抜けない戦闘のような気がする。
「ポーションも持てるだけ持ったし……大丈夫だよな?」
「今思い出せる限りはね。これ以上はどうしようもないでしょ」
「そうですね」
穴の中を進み、黒女の空間へと入る。そこには前と変わらず黒女がうずくまっていた。
「うん、見た目は変わっているけどアイツだ。やっと、やっと見つけた……!」
空間に入るとすぐに地面に張っていた水が動き出した。2回目は近くに戦闘が始まるようだ。さて、リベンジと行こう。




