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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第五章 過去の遺産の、清算を
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第二十三話 過去の鎖、濡羽色 三


「ただいまぁ……」


「おかえ……どうしたの、それ?」


 水女に倒された後、アハトミノの教会で復活した。デスペナルティで一時的にステータスが下がっているので、とりあえず屋敷に戻ってきた。

 俺を見るなりショウが困惑したのは、俺の装備の胸の部分がすっぱり切れているからだろう。後ろからざっくりいかれたからなあ。


「あ、アゲハ頼むわ」


「うん、良いよ。綺麗に切られてるから……30分ぐらいで済むと思う」


「サンキュ」


 装備を脱ぎ、アゲハに修理を依頼する。30分で済むのはありがたい。装備は多少切れたりとか汚れ程度なら1度ログアウトすれば大体直っている。だが、今みたいに大穴が空いていたりするとそのまま残り、補正にも影響が出るから面倒だ。


「こっぴどくやられたねぇ。何があったんだい?」


 ここにいるのは俺に頼まれた修理のために作業場に行ったアゲハを除けば、ショウとコトネさんとモモだ。アポロさんはまたソロでどこかに行ってるんだろうし、クルトは鍛冶場かな。モモがケーキを食べながら聞いてきたが……まああの女性の事はモモは知っているはずだ。丁度良くいつものメンバーがいるから、デスペナルティが終わったらリベンジ出来るか。


「何かあったっていうか……黒い長髪の美人に知り合いいる?」


「は?黒髪ねぇ……特にいないけど」


「あれ?」


「もうとりあえず最初から話せば?」


「その方が早いか……」


 単刀直入に聞いてみたが、期待していた返答はこなかった。順序立てて話した方が分かりやすいのは確かだし、ちゃんと話すか。

 俺がレベル上げをしに例の場所へと行っていたのは、ここにいる全員が知っている。なので、俺が調べに行った事辺りから話し始める。

 俺が見つけた洞窟で2分の1を外した件については、ショウがあからさまに呆れ笑いをしたので、ポーションの空瓶を投げる事で対処しておいた。あらかじめ準備しておいて良かったな。まあショウのVITなら痛くも痒くも無いので冗談の範囲で済む。リアルだと事件になるけどな。コトネさんは驚いていたが、大丈夫大丈夫。

 話を戻して洞窟を進んで、中に女性かいた事、そしてその女性に負けた事を話すとモモの雰囲気が少し変わった。


「へえ、その女性と戦闘になって負けてきたの?」


「そういう事」


「エクストラスキルも使ったんですよね?」


「使ったけど……今思えば上手く泳がされた感じがしたなあ」


 思い返してみれば、近づいて攻撃するまですんなりいきすぎたような気がする。上手く誘導されていたと考えると、何とも言えない気分になるな。見た目の割に中々やらしい感じだ。


「それで私にわざわざ聞いてきたって事は他に何かあったんだろ?」


 口調は普段と同じだが、目が真剣さを隠しきれていない。もう大体の事を察しているのだろう。俺が女性の見た目や攻撃手段について話していないから、確証が得られていないだけで。


「ああ、女性には黒い翼が生えてて、戦闘の直前にガブリエ、グェ!」


「本当か!それは本当なのかい!?」


 半ば予想はしていたが、ガブリエルと言いかけた瞬間、モモの様子が変わった。しかしまさか肩を掴まずに首を絞めてくるとは思わなかった。完全に油断していたので避ける前に捕まったし。ゲームだから苦しくはないが、首にものすごい違和感があるので話してくれないだろうか。


「何か言ったらどうだい!?」


「グェ!(落ち着けや)」


「痛っ!」


 動揺するのは分からなくもないが、人の首を絞めているのに返答を要求するのはいかがなものかと思う。いつもは年長者特有の保護者的なポジションなのに、若干アホの子っぽくなっている。首を絞められているからか、何かHPも減ってきた。とりあえず手刀を1発お見舞いして落ち着かせる。コトネさんはオロオロしているし、ショウに至っては面白そうだと眺めていたので自分でやるしかなかった。


「ゲホッ……首が絞まってんだから答えられねぇよ」


「……ああ、すまなかったよ」


「回復しましょうか?」


「いや大丈夫」


 コトネさんが回復するかどうか聞いてきたが、そこまででも無いので断った。HPが減っているといってもほんの微量なのでポーションを使うのも回復魔法を使ってもらうのも勿体無いだろう。

 モモも頭に1発食らって落ち着いたのか、自分が座っていた場所に戻った。


「あーそれで……本当にそう言ったのかい?」


「ああ、ノイズ混じりだったけどそう言ってたのは間違いない」


「ガブリエルっていうと、コウがボロボロに負けたっていう?」


「言い方あれだけど、それそれ」


 モモが落ち着いたので、女性との戦闘について説明していく。途中からモモが紙を取り出して何かを描き始めたが、話を中断しなくても良さそうだったのでそのまま続けた。


「そんなに強かったんですか……」


「もう1回やっても、1人じゃ無理だろうなあ」


「……黒髪黒目だったんだっけ?」


「そうだけど……?」


 そう答えると、モモは今まで描いていた物に何かを付け足して俺達に見せてきた。紙に描かれていたのは人の顔で、今語っていた女性にそっくりだった。見た時と違い、こちらの方が生きている印象だが、まあそれは色々とあったからだろうな。


「モモって絵上手いんだな」


「そりゃどうも……それで?」


「あ、うん間違いない」


「当たりか……はあ」


 そう言ってモモは息を吐きながら椅子の背もたれに体重を預けた。説明が何も無いので、その心情を察するには色々と足りない。空気を読み、3人ともモモが話し始めるまで少し待った。

 数分後、感情の整理がついたのか顔を上げて話し始めた。


「髪と目の色は……ああ、翼もか。色は変わってるけど、ガブリエルで間違いないね」


「ガブリエルってあの男じゃないのか?」


「今はそうだね。でもアイツはただの盗っ人だよ。そこら辺に落ちてるクソの方がまだ見所がある」


 お言葉が汚うございます。何かややこしい説明をされたが、とりあえずはガブリエルというのは称号みたいなものなのだろうか。それをあのガブリエル(男)が奪ったと。


「じゃあずっとお前が探していたってのはその……面倒だな、女の方のガブリエルなのか?」


「確かに面倒だねぇ……まあ黒女で良いんじゃない?業腹だけど、今ガブリエルなのはあの男だからね」


「いやお前がそれで良いのか……そういえば陸地は大体調べたんじゃなかったのか?」


「いや……限界はあるさね。それにアイツがそんな所にいるなんてねぇ……そんな暗くて狭い場所嫌いなはずなのに」


 閉所兼暗所恐怖症……?ニュアンス的には恐怖症ってほどでもないみたいだな。それにしても随分な弱点だな。まあ確実に正気じゃなかったし、盲点か。


「あの、天使と悪魔は敵対してるんじゃ?知り合いから聞いた事をまとめるとそんな感じだったはずなんですけど」


「それは結果だねぇ。というか敵対というわけでもないし。昔は仲間みたいなもんだったさ」


「仲間……?」


 ショウがイプシロンさんとか、まあその辺の人達から聞いたであろう情報をまとめるとそんな感じだったのだろうが、実情は違うみたいだ。というか仲間とはどういう事なんだろうか。


「マスター、ウリエル覚えているかい?」


「ウリエル……あ、炎の?」


「そうそう。ガブ……黒女を探していたのはウリエルから聞いたからさ。その時には接触できない状況だったからね。まあどこに行ったか分からなかったから、今まで見つけられなかったんだけど……奇縁というか」


「なるほど」


 あの時はやっぱり助けてくれたのだろうか。まあ俺をじゃなくて、モモをだろうけど。それにしても天使側のはずのウリエルが情報を流したって事は天使も1枚岩じゃないのか。


「とにかく、今はその黒女さんを何とかしなくちゃいけないね」


「そうですね、どのぐらいそこにいたんでしょうか……?」


「やっと見つけたんだ。マスター、早速案内してくれないかい?」


「……いや、まだデスペナ終わってないし、装備も戻ってきてないんだけど」


 皆さん、やる気を出している時に申し訳ないのですが、俺が全く準備できていません。


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