第十八話 バ火力
「ねぇ!それいつまで持つ!?」
「あと1分!」
「ああもう、どうすれば良いのよ!」
「ハハハ、餌ゴトキガドウニカデキルト思ッタカ!!」
「うっぜぇ!」
特に何も起こらずに4分が経過してしまった。このままでは【貫牙剣】の効果が切れてしまい、陽動と攻撃がしづらくなる。
土地神の方は俺に斬られ、タイガに蜂の巣になる勢いで撃たれているのにすぐに再生してしまう。何の変化も無いので、これでは効いているのか効いていないのかが全く分からない。そ
もそもギミックなのか何なのかヒントが少なすぎるんだよ、プレイヤー全員考察得意だと思うなよ……!起動のスイッチ足元にあったのに気づかずに散々周りを探し回ったなんて事もあったぐらいだ。答えを知った時のあの虚無感といったらもう……いや現実逃避をしている場合じゃない。
まあ特に思いつかないんだが……会話でも試みるか?
「おい!あー……そうだ、何で生贄に子どもを選んでたんだ!?」
「ハハハ、ア?ソンナモノ若イ餌ノ方ガ瑞々シイカラニ決マッテオロウガ。中々美味カッタゾ」
おっし、会話に応じた。言っている内容はクソ以下だけど。割とスタンダードな感じのクソ具合だが、それはそれでイラッとくる。
「アア、忌々シイ!アノ黒イ光ガ落チテ来ナケレバ、長イ間生キ埋メニナル屈辱ヲ味合ワズニスンダモノヲ!!」
「黒い光……?」
「餌ノ連中モ我ガ自ラ守ッテヤッタクセニ、恩ヲ忘レテ助ケニモ来ナカッタ!」
「守ってって……自演だろうに」
「ナニヲォ!!?」
「凄い効いてるね……」
「煽り耐性低すぎだろ」
テキトーにそれっぽい事を言っているだけなのだが、効果は抜群だった。
先程までと違い土地神はワナワナと体を震わせているが、これで状況が変わるのだろうか。確かに変化がありはしたけど、そもそも相手の再生をどうにかしなくちゃいけない。挑発するにしてもさせすぎると何が起こるか分からないし。
「あと何かあります?村の記録から察せる事なんてこれぐらいだけど」
「大体そんなものでしょ……関係無いけど黒い光って何だろうね?」
土地神が生き埋めになった原因をさらっと話したが、それしか分からないので多少の考察すらできない。自然現象では無い事だけは察せるけど。全部終わったら調べてみるのも良いかな。
「というか、もう雑に馬鹿すれば良いんじゃない?やーい!バーカ、バーカ!キモいんだよ、キャラデザ何とかしてくれー!!」
「オノレェェ!!餌ゴトキガァ!!」
「えっ、それで良いの!?」
何となく会話が成立していたと思ったら、フラグの方だったのか?挑発するだけで良かったのかな。
土地神の方は人間でいう青筋を立て、体を縮め始めた。攻撃も止んだので少し余裕が生まれたが、どういう風に変わるのやら。タイガの罵倒の内容がアレだったので少し気が抜けそうになるけどまだまだ油断は出来ない。
土地神の煽り耐性が低すぎたのかストーリー進行だったのか、どっちだろうな。まあプライドが成層圏を突き抜けるぐらい高そうだし、餌と呼んでいる人間から挑発されたらそらキレるわな。
「どうなるかな?」
「まあ普通に考えたら第2形態か?」
体を縮め始めた土地神は、ゴキュゴキュと嫌な音を立てながら体を変形させている。体はだいぶ縮んだので的は小さくなったが、それでもそれなりに大きい。最初がデカすぎだっただけか。
変形が終わった土地神は、4足歩行は落とし子と変わらず、背中の腕は少なくなった。その数は6本だが、1本1本は結構な大きさがあった。色々と変化はあったが見た目のキモさは変わらなかった。
「フシュゥーー……餌ガァ……喰ライニ行ッテクレルワァ……!」
「なんか不穏な事言い始めたけど……!?」
「あー、村に行くのか……時間制限付き?」
何か防衛戦みたいな事になってきた様な。時間をかけすぎると村に被害が出てゲームオーバーなんて事はごめんだ。もしかしたら別の方法の進行もあったのかもしれないが……思いつなかったし、何より村に向かうとしてもそれより先に倒せば良い。
「キシャァァァ!!」
「どんどん理性が無くなってるな……」
「ともかく外に出ない様にしないと」
土地神の方はついに言葉すら話さなくなり、文字通りのモンスターと化した。タイガの言う通り外に出ない様にしなければいけないが、土地神の大きさだとあの洞窟を通れないはず。
「あ、こっちに見向きもしない!」
「先に出ないと不味いな……」
どうするのかと思ったら、攻撃しているこちらに見向きもせず、暴れ回りながら一目散に外に出る洞窟へと移動していく。何をするにせよ、このままだと土地神で埋まってしまうので俺達が出られなくなる。なので、その前に洞窟へと滑り込み、道を塞がれる事は何とか阻止した。
「どんどん掘ってるな」
「あの勢いだと数分で外に出ちゃうね……攻撃する?」
「あ、お願いします」
俺だとあの状態の土地神には攻撃できないので、タイガに頼るしかない。
「効き始めた!」
タイガは取り出した機関銃で攻撃すると、それを受けた土地神は苦しみ始めた。傷跡は小さいが治る気配も無く、ダメージになっている事が分かる。俺も攻撃したいのは山々なのだが、土地神の掘り進めている動きのせいで迂闊に近づけないし、一方的に攻撃されている事に業を煮やしたのか土地神が背中の腕の何本かを使ってこちらに攻撃し始めてきたので更に近づけなくなった。
「【朧流し】」
撃つ事に集中しているタイガに来る攻撃を邪魔にならない様に受け流す。多少ダメージは入ったが、それでもタイガが直接攻撃されるよりはマシだ。これ以上離れると弾のダメージが激減するらしいので、土地神の腕が届かない場所まで移動する事も出来ない。
「……これ、アイツが外に出る前に倒せると思う?」
「いや、まだまだ元気いっぱいみたいだし……」
落とし子と同じくタフな様で、それなりのダメージを与えた今でも洞窟を掘るスピードは些かの衰えも感じさせない。後ろを振り返ると薄らと外の光が見え始めたので、この調子だと外に出してしまう事になる。
HPが0になるといきなりバタンと倒れるタイプなら動きが衰えないのも分かるが、その考えに頼るのは中々にリスキーだ。もしかしたら外に出ても真っ直ぐ村に向かわず、戦闘らしい戦闘になるかもしれないが……あー、だったら良いなを考えても仕方が無い。とにかく村に被害を出さなければ良い!
「もう外だよ……!」
「外に出さないのは無理か!」
そうこうしている内に、外に出てしまった。土地神が外に出るまでにはもう少し時間があるが、その時間で倒すのは無理だろう。村に向かわれるのもアウト、変な方向に進まれて行方不明になるのは問題点が多すぎる。
「外ならまだ近づける様になるから……奥の手だそう。出し惜しみ出来ないし」
「なら私も出そうかな。そういえばまだ実戦で使った事ないんだよね」
時間が無いのはお互いに分かっているから、準備をするために少し距離を取る。俺のは土地神が出て少し大人しくならないと攻撃しようが無いので、先に奥の手を出すのはタイガだ。もしその奥の手で先に倒されてしまうと俺の立つ瀬がないが、そうも言ってられないか。タイガはクールタイムが終わっていないはずの重機関銃を取り出した。撃てないはずだが、どうするのやら。
「……【永填倉】!」




