第十三話 Tidy Hooligan
「いやまさかこんなところで会えるとはねぇ、ショウ……見たところ引率かい?珍しい」
いきなり襲ってきたプレイヤーは雑に伸ばした赤毛にいかにもアウトローといった格好、おそらくカットラスであろう武器を肩に担ぎ野生味のある笑みを浮かべている。
「ああ、リアフレだよ。折角糸集めしてたのに……まさかこっちに来るとはね?」
「ポールスターの連中が山脈方面に移ったからね、しょうがないから反対側に来たのさ……ちゃんと明らかに初心者してるやつはPKしないさ」
ああスタンスがちゃんとしてるタイプの集団なのね?一応こちら初心者2名いるんですけど……「ショウがいるなら見逃すのは無しだね」あら、こっち向いてる。目線で伝わった?因縁があるというよりは高レベルプレイヤーがいると例外みたいな感じかな……見逃してはくれないのか。
「自己紹介ぐらいはしておこうか。Tidy HooliganっていうPKクランのリーダーをやってるカリファだよ、よろしく。ま、この後キルするけどね」
「あと戦士系最上位職業『戦王』でレベル93、あとは……エクストラスキル持ちだよ」
「あ、昨日94になったよ」
マジかーエクストラスキル持ちかー。なーんかそんなに数いないはずなのにこんなにぽんぽんエクストラスキル持ちに会うんだよ。相手の持っているエクストラスキルについてはショウも知らないらしい。隙をついて『貫牙剣』で致命傷負わせて逃げられるかなとか思ってたけど……流石に分が悪いか……
「……一応聞くけど他のお仲間は?近くにはいないようだけど」
「いつも通り数人ずつ散らばっているからすぐには来ないよ……来るかい?」
「このまま抵抗しないのも気に食わないからね……!2人とも逃げるのは無理そうだからちょっと足掻いてみない?」
「わ、分かりました……!」
おお、コトネさんもやる気だ。明らかに格上なのに戦意を失わない人は割と好きだ。俺もみすみす時間をかけて集めたアイテムを奪われるのは癪だから精一杯抵抗してみようか。
「あ、コウ悪いけど使うとしたらタイミングは任せてくれる?」
タイミング……?あっエクストラスキルのことか!確かにショウの方が相手の手の内をまだ知っているからな、ここは素直に任せた方がいいだろう。頷きを返し刀を抜く、あれ体が光っ……あ、コトネさんのバフか、ありがたい。
「さて、準備はもういいかい?」
わざわざ待ってくれているとは余裕だな、実際に余裕なんだろうが。さてどう攻めるか……ええい、突撃!
……レベル60以上も差があるプレイヤーに勝てわけないじゃーん!完全に遊ばれてるよこれ。全然本気出してないはずなのに速いし、攻撃が重い……!ショウが防いでくれなかったら何回か死んでいた。武器の耐久値もゴリゴリ減ってるし、ワンチャンすらなさそうだけどなー、諦めたくないなー。
「へえ、思ったより持ち堪えるじゃないか、よく避けられるねえ」
「……そりゃっ……どうもっ……!」
適当に遊ばれているからかろうじて死んでいないが本気を出されたら確実に死ぬ。というか今まで一回もスキル使われてないな、どうしたものか。コトネさんも絶えずバフをかけ直したり回復を飛ばしたりしてくれているが下手に攻撃をくらうと即死だろう。
「こっちを無視しないでほしいなっ……!」
ショウがカリファの後ろから大盾を振りかぶるがなんなく受け流される。視線がショウの方を向いたので刀で刺突を繰り出すが、読まれていたのか体を少し逸らすだけで避けられ腹に蹴りをもろにくらった。
「ぐふっ」
「大丈夫ですか!?」
偶然か……まあわざとだろう、コトネさんの近くに吹き飛ばされたので駆け寄ってきたコトネさんが回復魔法をかけてくれる。
「……さて次はどうするつもりだい?」
……本当にどうしようか。今エクストラスキル使ってもな、効果範囲が刀身だから当たる前に反撃くらいそうだし……あれ、コトネさん左腕で抱えていらっしゃるものは一体なんでしょう?とても嫌な予感がするのですが?
「コウさん……一か八か賭けをしませんか?ショウさんには許可を取ってあります」
……なるほどそういうことか。たしかにこれなら状況を変える一手になるかもしれないな。
「よし、じゃあやってみようか」
「はい!」
ん?左腕に抱えた虫を掲げて?あ、カリファの顔色が変わった、そりゃ知ってるか。てか、その掲げたの……叩きつけたァ!
「ギィィィィィィ!」
叩きつけられた衝撃で鳴き声を上げながら何かを放出している感じがする。
「うわ、お前らまじかよ……!」
うっわ、すげえガサガサ音がする、っていうかいっぱい来た!?
「思ってたより結構来たね、とりあえず固まって向かってくるのは迎撃ね!」
うわ、いつの間に。判断は的確なので、向かってくる虫モンスターについてはショウが防ぎ俺が攻撃して倒していく。カリファの方にもモンスターが向かっているがこのフィールドのモンスターでは少しの時間稼ぎぐらいにしかならず薙ぎ払いながらこちらへと着実に進んでくる。
「逃げるのは無理そうですね……!」
「やっぱり倒すしかないか」
「今更だけどPK倒しても問題ないよな?」
「大丈夫大丈夫!どんどんやっちゃって!」
やれるならやっとるわ!……この状況だと隙が作りづらいな、なんかもう一手……あれ、なんか地響きが。
「……いやいやまさか、これは運が良いの……か?」
「ギチチチチチチチチチ!!!」
進路上の木を吹き飛ばしながらこちらへと突っ込んでくる15m級のクワガタ。うわ、可能性があるのは聞いていたけど本当に来るんだ、迫力すごっ。
「チッ、余計なものまで呼び出してくれたな!」
おっ、カリファの方にヘイトが向いた、このまま足止めしてくれると助かるのだが。
「いやできればこっちに来て欲しかったんだ、僕たちを追いかけるのに邪魔だからね……だからあっちに向かうと」
カリファの方へと視線を向けるとクワガタの攻撃を避けながらウィンドウを操作し、カトラスをしまい岩から削り出した様な大剣を取り出した。
「戦士系のジョブは他のジョブと比べて他の補正がほとんどない代わりに攻撃力の補正が高い、そして最上位のものとなれば……」
「【オーヴァードライブ】!!!」
カリファの持つ大剣から大きな光のエフェクトが出、勢いよくクワガタ目掛けてそれを振り下ろす。序盤のフィールドのモンスターとはいえそれなり強いはずのクワガタ。その硬そうな外骨格はエフェクトの迸る大剣によってあっけなく両断された。カッケェなあれ、最上位職業にもなるとあんなことできる様になるのか……クワガタが一撃で倒されたよ。
いつの間にか引き寄せられた虫もいなくなっている。これで振り出しに戻ったな。カリファは大剣から最初のカトラスに替え、こちらへと寄ってくる。
「……さて結構遊んだからもういいかな?まさかあのギミック利用してくるとは思わなかったが、クワガタがこっちに来たのは残念だったな……そろそろキルさせてもらおうか」
ショウの目論見バレてーら。ここからどうするか……まだエクストラスキルが残っているが、ショウにタイミングを任せてるからな。
「……いや、最後にもうひと足掻きさせてもらおうかな……!【シールドバッシュ】!」
何か思いついたのかそもそも考えていたのかショウが盾を地面にぶつけ、大量の土煙が舞う。「コウ!今!」あー、そういうことね!てかこれだとどこにいるか分からなくても相手に俺が来るってわかっちゃうじゃん……ええい、ままよ!姿勢を低くしながら思い切り駆け出す。見た感じそこまで移動してはいないはずだから……いたァ!
「っ!なにをする気かわからんがこっちだって見えてるんだよォ!【ディケイブースト】!」
多分攻撃に補正を加えるであろうスキルを発動したのか、カリファの持つカトラスが赤黒く光る。
「【貫牙剣】!」
「なっ!」
だが鼠の牙はあらゆるものを貫く!エクストラスキルのエフェクトを纏い上から振り下ろした刀がスキルのエフェクトを纏ったカトラスと衝突し……ほとんど抵抗なくカトラスを断ち切る。そしてその勢いのまま左足へと刀を向け斬り飛ばす。返す刀でさらに攻撃を仕掛けようとしたがさすがトップレベルのプレイヤー、しかも対プレイヤーに慣れているPKである、はるか格下にカトラスと左足を持っていかれて驚いているはずだが、俺に向かって半ばで折れたカトラスを叩きつけてくる。相手のスキルの効果はまだ続いているようで受けるわけにはいかないので攻撃を中断し、後ろに飛びのく。時間が経ったせいで土煙も晴れ、視界がクリアになる。




