第十三話 村の記録
「じゃあ村長の家に行こうか」
「いると良いけどな……」
「この時間なら家にいると思うぞ……というか放せよ」
「また逃げられたら困るだろ?」
「逃げねぇよ……多分」
「多分て」
3人で村長の家へと向かう。また逃げられたら困るので子どもの首根っこを掴み連れている。不満そうだが、一応な……本当に逃げられたら困るし。祠やら何やら聞きたい事はあるけど、そも村長も知らなそうだしその本とやらを見せてもらった方が早そうだな。村長の家に着き、尋ねてみると出て来たのは村長さんだった。
「これは探索者の皆様……あの、リュドはどうして……?」
「あー、この子に色々聞きまして……とりあえず中に」
「あ、はい……何したんだお前」
「え、あー……」
「まあまあ、とりあえず」
「はあ」
とりあえずお邪魔させてもらい、事情を説明する。子ども……リュドが勝手に森に入っていた事を話した辺りで村長さんと、少し離れた所で話を聞いていた奥さんの雰囲気が一変した。というか奥さんの雰囲気はまるで修羅の様で、リュドを引きずって別の部屋へと連れて行った。リュドに助けを求めるような視線を向けられたが……まあ助けられる訳がないわな。こういう場合、家庭の最強生物は母親だし。怒れる母親に勝てる生物は存在しない。
「はあ、あの子は活発すぎて……まさかあんな事をしてたとは……お2人にもご迷惑をおかけした様で」
「迷惑というほどでは……リュド君のおかげで元凶の場所が分かったようなものですし」
「親としては何とも……それにしても祠ですか」
「はい、何かご存知ではないかと」
「それが私は何も……」
村長さんによると、そういう伝承は伝わっていないらしい。リュドが言ったように本自体はあるにはあるが、管理しているというだけで中身はほとんど把握していないらしい。
「まさかあの子が読めるとは」
「村長の子なら字の読み書きぐらいは出来るのでは?」
「いえ、おそらく読んだ物は大分古い物のはずで、言い回しが結構今と違うので……どこで覚えたのやら。とりあえずその本を持って来ますね」
そう言って村長さんは、部屋を出ていった。結局村長さんとの会話はタイガに丸投げしてしまった形になったな。まあ適材適所という言葉もあるし、丸投げした身でアレだが円滑に進んだからしょうがないかな。
「あの子結構頭良いんだね」
「やんちゃ小僧みたいな見た目なのにな……その設定いるか?」
「まあ良いんじゃない?個性豊かという意味では。実際そのおかげで今何とかなってる訳だし」
「そりゃそうか……」
出されたお茶を飲み、のんびり待っていると村長が1冊の本を持ってきた。いかにもといった古ぼけた本で、端が少し破れていたりしていた。本というか端に穴を開けて紐で縛っている……何だっけ、和本だっけ?それに近い感じだ……一応本だな。
「その本が?」
「リュドが読んでいた物だと思います。これだけ埃が取れていたので……ざっとですが中を一応確認したので合っていると思います」
村長によるとこの本は村の記録を記した物の1つだという。ある意味歴代村長の日記に近い物らしく、何か重要時が起こった時は、紙に記して保管してきたんだそうだ。今の村長もそうしているらしく、今回の1件も記録しているとか。
村長は本を開き、こちらへと差し出してきた。そのページにはこう書いてあった。
『◯月×日
今日の昼間、突如いきなり何が爆発した様な大きな音が鳴った。しかも、その音が鳴ったのは(掠れていて読めない)だ。放置してしまえば何が起こるか分からないので、若い者を集めて様子を見に行く事にした。すると、その場所は土や巨大な岩などで埋まり、恐れ多くも呼びかけてみたが、何の反応も無かった。
今までの事もあり、連れてきた若者の多くはこのまま放置しようと次々に言い始めたが、まだ生きておられた場合にはどんな惨劇が起こるか分からない。入り口の洞窟は途中から完全に埋まっていてどうにもならない。
確か奥の、あの方が住んでいる場所は縦穴があって陽の光が差し込む様になっていたはずだ。もしかしたらそこは元のままかと思って若者に崖を登り、様子を見にいってもらった。だが、そこも原型を留めず壊れており完全に埋まっていたそうだ。その若者が嘘をついているという事もあるまい。なぜなら次に選ばれたのはその若者の……いや、言うまい。
とにかく、こうなってしまっては私達にできる事は何も無い。もしかするとあの方なら自力で出てきてしまうかもしれないが、その時はもはや諦めるしかないだろう。
その日は村人全員が集まり宴会となった。何せあの方から解放されたかもしれないのだ。縦穴を確認した若者も家族と泣いて喜んでいた。
昔の様にまた魔物が出てくるかもしれないが、今日はまだ考えなくても良いだろう。今までの様に村の者を犠牲にする必要は無くなったのだから。
後日、洞窟の埋まってしまった所に祠を作っておいた。一応あの方は魔物から村を守ってくれては……いたはず。これで安らかに眠ってくれると良いのだが。まあ作ったは良いが今までの事が事だ、村の誰も行かんだろう。儂も行かないし。どうせその内みんな忘れるだろう』
「おい、オチ」
「最後で雰囲気ぶち壊しだね……気持ちは分からなくもないけど」
「まさかこんな事が村に起こっていたなんて」
「見事に忘れられていたな」
にしても散々な内容だったな。表現は誤魔化していたが、多分若者の身内が誰かが生贄になる予定だった様だ。それも近いうちにな。そりゃあ泣いて喜ぶはずだ。オチは少しアレだったが、確かに悪しき土地神なんて名前になるはずだ。
「本当に神様じゃなくて知能の高いモンスターだったんじゃないかな。大体そういうタイプのモンスターって強いし」
「本当に神なら生き埋めになんてならないだろうしな。まあ実際は生きていて、少しずつ掘り進めて、最近やっとってか」
「まさかこの村に復讐を……?」
「そうだとしてもまだ先かと。多分今は普通に弱っていて、力を溜めているとか」
「あの落とし子でその辺の魔物を喰らって回って、栄養を……的な」
「じゃあ羊達はたまたま……」
「まあ憶測ですけどね。けどそれでこうなった訳ですし、もし被害が無かったら……」
完全に復活した土地神が、村に復讐しに来る可能性は十分にある、か。その土地神の強さは分からないが、あの落とし子が数体いるだけでもこの村は滅ぶだろう。その後はプレイヤーやらが集まって討伐されるだろうが、まあ村が滅ぶんじゃなあ。
「というか凄いよね、生き埋めになってたのに今まで生きているって……これ何年前の物なんです?」
「えっと……1500年ぐらい前の物かと」
「……保存状態良すぎないか、この本」
「まあそこら辺は気にしてもしょうがないよ……あの、他に本はありますよね?」
「はい、管理は代々していますので。中身は分からないのでどれがどの本であるかは……」
正体は分かったけど、特徴はこの記述だけでは分からない。他の本を読めば、能力が分かるかもしれないし、そうしたら対策もしやすくなる。村長さんに本が置いてあった部屋に案内してもらった。どの本がどんな内容なのかは分からないそうなので時間をかけてみていくしかないだろうが、その価値はきっとあるはずだ。随分面倒な事になったけど、無策で突っ込むよりは余程マシなはずだ。




