第十二話 やんちゃで済むのか?
「あ、おはよう」
「どうも……早いですね」
一夜明け、今日は村の聞き込みだ。昨日は落とし子に遭遇はしたが、元凶の場所に帰るような仕草はしなかったし、情報がほとんど手に入らなかった。
可能性は少ないが、村で少しでも情報らしき物が手に入れば良いのだが。まあ村人に聞いて何か分かったらそれはそれで問題がある気がする。
「進捗あると良いけどな……」
「まあねー……意外とフラグが立つかもしれないよ?」
「そうだと良いですけどね、とりあえずやっていくしか無いか」
2人手分けをしながら村人に聞いていく。モンスターの特徴を伝えようとしたが、プレイヤーはキモいで済むがNPCの方はそうもいかない。自分が住んでいる所の近くにそんなモンスターがいるとなると恐怖でしかないので、俺達なら1対1でも十分倒せる事、見かけたら倒している事、後はキモさを若干抑え目で伝えた。
そのおかげか、村人は不安そうな反応をする人もいたが羊を襲ったモンスターの正体が分かった事、俺達が対処出来ている事に安堵している反応が多かった。伝えておいて何だが下手に怯えて変な動きをされるよりはマシだな。
結局聞き込みをしても村人の反応がそんな感じだったぐらいの収穫しかなく、モンスターに関する情報は皆無だった。そんなモンスター見た事も聞いた事も無いといった話が全てで、そのモンスターが前から生息している訳ではないのははっきりしたけど。
昨日タイガが言った通り、何か知っているなら事前に伝えてくるはずだよなあ。村の財産である羊に被害が出てるんだから一刻も早く解決して欲しいと思うのは村の総意のはずだ。あ、そういえば村に来た時に会ったおっさんに話聞いてないな。
「一応あの人にも聞いておくか」
村を出て最初に俺が来た方へと向かう。牧草地へと入り、少し進むと羊の群れとそれを後ろでまとめている人影が見えた。
「おーい、すみませーん」
「んあ?ああ、探索者さんか。何か進展でもあったのか?」
「進展というか、まあ……」
とりあえず他の村人にも話した事を伝える。聞いたおっさんの反応は他の村人と全く同じだったので、この人も特に何か知っていたりはしなさそうだな。
「正体はそんなだったのか……流石は探索者さんだなあ」
「いや森入ってウロウロしてだだけだし……」
「そもそも俺らはあの森には入らねぇよ、魔物が出るからな。幸いこっちに出てこないから今まで平和だったんだが」
「あー、そうらしいな」
その森に関する情報は他の村人の話で分かっていたからな。しかしこの村周辺の設定より、モンスターの情報が欲しい。
「それじゃあ、羊は狙って食らわれたわけじゃねぇのか」
「群れから少し離れた上に森の近くいた羊ばっかりなんだったっけ?」
「そうなんだよ。出来る限り離れさせてんだが、どうしても1体や2体は変に離れちまうんだよ」
「あっちに行けばもっと離れるんじゃないのか?」
ここは結構森に近い側だが、この牧草地は森から結構離れた所まで続いている。そこまでやれば多少群れから離れても、そうそう被害に合わないと思うのだが、そうもいかないのだろうか?
「それな……運の悪い事にあっち側は今休ませてるんだよ……あっちにやりたいのは山々なんだが、そうすっと羊達が飢えちまう」
「不幸が重なりまくってんな……」
無理矢理移動させても勝手にこっち側に来てしまって被害が増える可能性もあるか。羊を求めて森から離れた場所には出てこなそうだから、一先ずはまだ安心かな。
その後も色々聞いてみたが、特に大した情報は聞けなかった。タイガと1度合流しようと思い、村へと戻る。自分の担当分はこなしたから、情報を整理しないと。
「さてタイガはどこ……ん?」
村に入り、タイガを探そうとすると何やら視線を感じた。そちらに目を向けると、こちらを覗く視線が1つ。村の子どもが1人建物の陰からこちらを見ているのが確認出来た。
俺が気づいたのに気づいたのか、さっと建物の後ろへと隠れたが……色々とバレバレだな。顔の向きを戻して気づかれないように視線だけ動かすと、またその子どもがこちらを覗いていた。
「何だアレ……?」
特にあの子どもに何かをした覚えも無いし……あれ、見てるの俺だよな?自意識過剰……いや子どもが見てる向きからしてその先にいる何かなんて俺ぐらいだしそれは無いか。じっとこっち見てくるだけで何もしてこない……いや本当に何だアレ。害は無さそうなので、放置で良いか。
改めてタイガを探そうと移動すると、その子どもも色々な物の陰に移動しながらついてきた。移動している時にがっつり見えてるからバレバレなんだよな。すげえ、気になる。
「あ、いたいた」
「こっちも一通り終わったよ。じゃあ情報交換といこうか」
無事合流できたので手に入れた情報を互いに確認していく。まあタイガの方も大した情報は無いみたいで、俺の持っている情報と変わらなかった。そう簡単に分かったら苦労しないか。
「まあそんな感じだよね〜……」
「手詰まりだなあ」
「森を隈なく探していくしか無いのかな……その前に後ろにいる隠れているつもりのあの子ども何?」
「さあ……?村に戻ってきた辺りからストーキングしてるもんで」
タイガもあのバレバレなかくれんぼに気づいた様だ。バレないように子どもの方に視線を向けずに話しているが、流石にどうにかした方が良いかな。
「もう捕まえて何なのか聞いちゃおうか。森まで着いてこられたら危ないし」
「そうっすね」
タイガの言う通りで、仕方がないので子どもを捕まえるか。子どもの方へと向かおうとすると、こちらのしようとしている事に気づいたのか、逃げ出した。
「あっ、逃げ出した。てか速っ」
「しょうがない、こっちも追わないと」
逃げ出した子どもは子どもにしては、というか結構速かった。あの年齢で俺の年齢の平均レベルって凄くないか。だが、割と本気で追いかけ始めたタイガも速かった、4次職だからそりゃ速いわな。ステ振りはAGI高めなのかな。子どもは速いといっても、すぐに捕まった。身体能力が違いすぎるからなあ。
「くそ、放せっ!」
「はいはい、何で見てたか教えてくれれば放すよ」
「追いついた……それで?」
「……兄ちゃん達、森に出る化け物調べてるんだろ?」
「そうだよ」
「俺あの化け物どっから出てきたが知ってるぞ」
「マジで……?」
まさかの有力情報……?この子どもが?どんなフラグの立ち方だよ、面倒な……一応村に聞き込みしてたのは間違いじゃなかったのだろうか。
「嘘だと困るんだけど?」
「嘘じゃねぇよ。ちゃんと見たんだから……森の奥によ、古い祠があるらしいから少し前に行ってみたんだよ。そしたら岩で埋まってたんだ」
「……それで?」
「けど羊の件が起きた時に行ってみたら穴が空いてたんだ。そんでそこから化け物が出て来たんだよ」
「祠ねぇ……」
「それは何で知ったんだ?」
「家にある本に書いてあったんだよ」
「逃げた理由は?」
「勝手に森に、しかも最近入った事がバレたら父ちゃんに叱られる……!」
うん、まあ子どもにとってはその辺の化け物より親の方が怖いわな。とにかく結果オーライだな。この子ども、村長の子らしいので村長にも話を聞かないとな。もちろんこの子どもも連れていく。確実に叱られるのだろうが、どこから聞いたという話になると、どの道叱られるだろうし。叱られるなら早い方がまだ良いだろう。
それにしても祠か……隠していた雰囲気では無かったから、そも知らないか関連するとは考えていなかったとかかな。




