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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第五章 過去の遺産の、清算を
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第十一話 明らかな敵


「じゃあとりあえず奥の方に行く?村に近い所は一応私が調べたし」


「じゃあそんな感じで」


「……私が仕切ってるけど大丈夫?一応メインはそっち何でしょ?」


「いや全然大丈夫ですよ。受けた経緯はともかく、やる事同じだし」


「そう?ならいっか」


 そういう事で、2人で森の奥へと進んで行く。ここは一応あるわけだが、この辺は割と平坦な地形の様で起伏が激しくなくて良かった。

 酸素が薄いとか高山病とかの仕様は無いみたいなので、高地ならではの面倒が無い。それにしても進んでみたは良いけど、手がかりの1つも見つからないな。


「特に何にも見当たらないね?」


「落とし子の1体や2体ぐらいはまた遭遇するかと思ったけどな……」


「あの落とし子がもう少し痕跡とか残してくれれば良いのにね。体がでかいなら木を薙ぎ倒して進んでいたりとか」


「それはそれで厄介そうな気がするなあ」


 あの落とし子は、サイズはモンスターの中でも大きめの部類に入るが、この森の木の間隔だと十分に動けるレベルだ。姿形は怪物の方のモンスターだったが、やたら痕跡を残す様な移動方法はしないみたいだ。結構な重量もあるはずだが、足跡らしきものも見当たらず、完全にお手上げ状態だ。


「そもそもさ、あのモンスターの見た目どうにかしてほしいよね」


「確かに苦手な人は逃げ出すタイプのデザインだよなあ」


 薄紫色の体に姿勢はガニ股の4足歩行だが、動きは既存の動物とかけ離れている。背中には大小様々な腕が生えており、モゾモゾと動きながら、一際大きい物はこちらへと攻撃するのに使われていた。顔の方は目は瞼が無く、ギョロギョロとたまに変な方向に視線がいくのにちゃんとこちらを追いかけてくるんだよな。口はやたらでかい上に人間臭く、違いといえば犬歯が無く全て臼歯なところだが、顔のバランスが合ってないせいでやたら気持ちが悪い。総評としては普通に気持ちが悪い、てかキモい。

 仮にドロップアイテムが凄い良い性能の装備になったとしても装備したくは無いぐらいにはキモい。小学生のプレイヤーとか泣き叫ぶんじゃないだろうか?ゾンビがハザードなゲームとは違う方向のキモさだったよなあ。


「耐えられなくても、近づきたくは無いよね〜。銃士系で良かったよ……」


「俺は近づかないといけないんだよな……あれ、思い出すと結構やばかったような」


「……頑張ってね。それにしても森の奥って言っても結構広いよね、視界も見渡せる訳じゃないし、どうしようか……?」


「敵の情報も少ないからなあ……まさかアレ1体で終わりなら苦労しないのに」


「それは絶対に無いと思うよ?名前でもう黒幕みたいなのが判明してるし、ドロップ無かった時点で村人に証明出来ないしね」


「だろうなあ……」


 散々歩き回っているが、無駄に時間を消耗している気がする。何かを見落としているのか、何かのフラグが必要なのか。考えたところで、実際にそれを見つけられないと話にならない。


「というか、他のモンスターも1体も見当たらないのはおかしくないか?」


「……そうだね、楽で良いやと思ってた自分が恥ずかしいよ。多分アレに食べられとかかな……だとしたら大分範囲が広いね。結構いるのかな?」


「数十体規模は勘弁してほしいな……噂をすれば?」


「うわ気持ち悪……」


 何やら崖下でグチョグチョと音がしたので、音を立てない様に覗いてみると落とし子が2体、何かのモンスターの死体を食べていた。土地神の落とし子なので、魔法的というか概念的というかそういう類の生物かと思ったら意外と普通に食事とかするんだな。

 それにしても食ってる部分はポリゴンやらのっぺりとした赤色オンリーだったりするが、現実だったらグロ画像だよな……シンプルな描写になってるおかげで逆に想像してしまう。グチョグチョと音が生々しいので、それもあって気持ち悪さが跳ね上がる。


「うわあ……どうする?」


「一応2体なんで1人1体ずつにはなりそうだけど」


「まあ倒せるなら残さず倒したほうが良い類のモンスターだよね。1体でも残ってるとクエスト失敗しそうだし、何かドロップするかもしれないし」


「じゃあやりますか?」


「もうちょっと様子を見ようか、少しでも情報は欲しいし……キモいけど」


「それは確かに」


 といっても、何か役立つ情報は得られなかった。こちらに気づく様子は無かったので安心して見ていられたが、まあ終始食べているだけだった。下にいる2体はモンスターを骨まで残さず完食した。たまにボリンボリン鳴っていたのは骨だったんだな……捕まったら確実に食いちぎられるな。


「分かれてどっか行きそうだな」


「分かれるって事はどこかに戻ったりはしないか……良しここで叩こうか。初撃は任せてね」


「あ、はい」


 そう言ってタイガが取り出したのは、身長程もある大型銃だった。割と現実の物に近そうなデザインで、格好良い。ファンタジーメインのこのゲームだと異質だが、これはこれでロマンがある。


「それじゃいくよ。あ、撃ったら私撲殺しか出来なくなるから……1体はちゃんと仕留めるよ!」


「了解です」


 タイガは下を狙える様に座って構え、1体に向かって数発撃った。大型なだけあって反動と音が凄かった。タイガに撃たれた1体は頭に2つの大きい穴を開けて動かなくなった。相応の威力の代償にタイガは装備変更は出来ても銃による攻撃は出来なくなったので、もう1体は俺が仕留めなくてはならない。

 あれだけ音がすれば生きているもう1体もこちらに気づき、こちらへと向かってきた。しかし、その前にこちらが動いている。


「【貫牙剣(アウラ)】」


 崖から飛び降り、崖を登ろうとしてきた落とし子に対して刀を振り下ろす。落とし子の方は餌が向こうから飛び込んできたとばかりに大きく口を開けたが、まあじっとしているおかげで綺麗に頭を叩っ斬る事が出来た。

 普通の生物では無い見た目だけど、構造的には普通の生物と同じ様で頭を両断されてしまえば普通に死ぬみたいだ。きちんとHPが設定してあるゲームだと頭を攻撃しようが0にならなければ死なないものもあるけど、こちらはちゃんと傷付ければちゃんと死ぬのでやりやすくてありがたい……まあそれはプレイヤーも同じか。やっぱり【貫牙剣】チート臭いよな。ちなみに今回もドロップはしなかった。ドロップは無いモンスターなんだろうな。


「お疲れ様〜」


「そっちもお見事で……それ凄いっすね」


「まあこの大きさだとデメリットとかも大きいから使い道限られるけどね。弾も色々あってちゃんと考えないと何も出来なくなって詰むからねー。さっきも割と倒せなかったらやばかったし」


「え、結構ギリギリだったのか」


「うん。まあ良い弾使った甲斐があったよ。凄い値が張るけど。銃士系って割と金をそのまま撃ってる感じがするんだよね」


「世知辛い……まあバランス調整してないとな」


「それにしても何も落とさなかったね」


「極低確率か、そも落とさないか……まあ後者だろうなあ」


「そうだよね……さて、後どうしようか?結構時間経っちゃったし、夜は……見えるとしても少しね」


「確かに……続きは明日にします?1日そこらで村がいきなり壊滅したりはしないはずだし」


「まあそんな感じしか無いかな……」


「村で聞き込みでもします?」


「何か知ってたらこんな事態にはならないと思うし、事前に知らせてくると思うけどね」


「じゃあ明日はそれから始めますか」


 とりあえず村を経由し、アハトミノへと戻る。タイガのクランの拠点も王都にあるそうで、王都に着いてから解散した。さて、大元を見つけて倒せるのやら。2人で出来るようなら良し、そうじゃなければ報告して完了だ。


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