第十話 『銃王』
正体不明のモンスターの調査を依頼は受けたは良いが、状況に切羽詰まった村長がたまたま訪れたプレイヤーに依頼してしまいクエストが被るという事態に陥ってしまった。
村側の事情を考えるとしょうがないと言うしかないので、とりあえず東の森に行き、そのプレイヤーを探す事にした。そうしたら時間はかかったが見つける事は出来た。謎の結構キモいモンスターと戦闘している状況ではあったが。
詳しい事は分からないが、ともかくそのモンスターを倒すべきなのは間違い無いだろう……見た目は完全に敵キャラだし。モンスターの方はこちらに気づいていないが、プレイヤーの方は気づいている。
流石に無断で参戦するのはマナー的に問題があるので、何となく身振り手振りで手伝おうかという意思を伝えた。それは伝わった様でこちらを見て頷いた。では、許可も出たし参戦しよう。
「【抜刀】!」
勢い良く飛び出し、モンスターがこちらに気付く前に右の後ろ足を斬り飛ばした。体はゴチャゴチャしているが、一応移動するための足は4本なので1本でも奪えば動きは鈍るはず。散々銃弾を浴びせられていたモンスターも、足の1本を奪われた不快さはそれを上回り、こちらへと向かって来た。
「【朧流し】」
大分短気な様で、暴れながら向かってくるが、このぐらいなら何とかいなせる。モンスターがこちらに向かって来たおかげでフリーになった女性プレイヤーの方は今まで持っていた銃をしまい、代わりに大口径の銃を取り出した。更には弾を取り出して装填し直している。何かするつもりなのは間違い無いので、もう少し耐えれば良い。
モンスターの攻撃はパワーはあったが単純で分かりやすい。多少反撃してみても僅かでも怯んだりはしないので結構タフだ。
女性プレイヤーの方は弾の込め直しは終わった様でモンスターの方に照準を合わせ始めた。しかしモンスターの方は暴れながらこちらに向かっている。1発を確実に当てるには結構難易度が高いんじゃないだろうか。図体はデカイので当たりはするだろうが、それが致命傷となるかは微妙だ。ここは1つ試してみるか。
「【レストリジェクト】」
後退するのを止め、立ち止まる。気にせず向かってきたモンスターの攻撃に合わせスキルを発動した。カウンタースキルの効果は十全に発揮して、その衝撃はモンスターの動きを数瞬止めた。女性プレイヤーの方もその隙は見逃さなかった様で、反動で体を退け反らせながらも銃を撃った。その弾は反動相応の威力があり、モンスターの頭にそれなりの大きさの風穴を開け、絶命される事に成功した。驚くべき事としてはモンスターから何もドロップしなかった事だ。消える時のエフェクトも普通のモンスターも違う感じがしたが……どういう事なんだか。
「ごめんね、助かったよ。鉢合わせたらいきなり襲ってくるし、慌ててて弾は普段使いの威力が低い奴だし変える暇無いしタフだし……何よりキモいし。本当何なのアレ……」
「そりゃあ不幸だった様で……まあ助けになったんなら良かったよ。えっと、あそこの村の村長に依頼を受けたプレイヤーで合ってるか?」
「そうだけど……君は?」
戦闘が終わり、一息ついてもいないが、とりあえずこちらの事情を説明した。依頼が被った点については妥協点を見つけられれば御の字だろう。人が良さそうだし、そもこっちは王女経由の正式な方だし。
「なるほどね……クエスト被っちゃったかあ。確かに村長さん焦ってるような感じはしたけど。一応クエスト表示はちゃんとしてるし、状況からしてバグでも無いだろうし……私が言うのもアレだけどどうする?」
「一応村長は両方報酬出すって言ってたし……まあ協力出来るならしたいんだよな。さっきの奴がクエスト関係?」
「多分ね。あんなキモいのこの辺で見た事無いし、アレが普通にいるフィールドはちょっと……」
流石にクエスト関係かアレは。戦ってみた感じ調査だけにしたとしても1人だと中々に大変そうだ。結構強い人みたいだし、協力出来るならした方がこのクエストは楽になるはず。
「最悪、こっちの依頼主に掛け合えば……最低限の報酬は何とかなると思うけど」
「それなら良いかな。引き受けたからには達成したいし……よろしくね。私はタイガ。ジョブは『銃王』、一応「C or S」って言うクランのリーダーやってる……本当に一応ね」
「コウです、よろしく……タイガ?」
「うん、タイガだけど?」
あれ、つい最近どっかで聞いた様な……えっと……あ、イプシロン!そうだ迷宮のエクストラモンスター倒したパーティにいたとか何とか。あ、いやクランリーダーって言ってたし、同名の可能性も……『銃王』で同名で別人は流石に無いか?このゲーム名前被りどうなってたっけ。
「えっと、イプシロンさんと迷宮攻略しました?」
「え゛。何で知ってるの……?「ポールスター」の人?」
「いや違うけど、本人から聞いて」
「あ、そうなの……まあ大丈夫かな、別に隠してる訳でもないし。という事はコウも持ってるのかな?」
「……まあそうですね」
確信があるっぽかったし、持ってる事自体は隠さなくても良いか。これから同じクエストで協力するんだし、アレコレ聞いたからそのぐらいは答えるべきだろう。答えには満足したようでそれ以上は聞いてこなかったし。
「それにしてもクランリーダーだったんで?イプシロンさんと協力したならフリーなのかと」
「あの時はフリーだったよ。イベントが終わった後に銃士系プレイヤーの知り合いで集まって作ったの。ポールスターとの繋がりも出来たし、改善というか強化されたおかげでPCAとも色々あったし……まさか私がリーダーになるとは思わなかったけど」
だからさっき、一応と念押ししてたのか。クランも最近出来たなら迷宮の経緯も納得だな。まあ『銃王』ならリーダーに据えられるのも分かる様な……リーダーは強い方が分かりやすいし。
「いや本当にあのイベントには感謝しかないよ。今まで何度ジョブを変えようと思ったか……続けてきて良かったよ」
「ああ、威力やら何やら色々と強化されたとかって……」
「そうなの!おかげでこの子もこんなに立派になって……!」
この子……?というか何やらスイッチが入った様な。そのままタイガは銃に関する仕様や、まだ微妙な時期の愚痴をこぼし始めた……濁流の様に。物凄く既視感があるので、長くなるんだろうなあ。また灰汁が強い人と出会ったな。
「それで……あ、ごめんね」
「ああいや、そんなに経って無いし、別に……話は分かりやすかったから」
話自体は10分程度で終わった。意外だったのは、愚痴はともかくジョブや武器に関する事は結構分かりやすかった事だ。銃士系に関しては知らない事の方が多いので結構タメになった。
「そ、そう……?それなら良かったけど」
「えっと、クエストの方だけど、さっきのアレ何だか知ってます?鑑定し忘れたのとドロップも無いんで」
「そういえばそうだね。さっきのは名前しか分からなかったよ。というか表示された感じからそれしか無いんじゃないかな?羊とかの犯人はアレだろうけど多分元凶じゃないと思うよ」
「マジか……」
その名前を聞いて見ると、あのモンスターの名前は「悪しき土地神の落とし子」だそうだ。固有名じゃないんだなと思う以前に、名前が全てを物語っている。パターンはいくつか思いつくが、大体経緯が見えたな。
「まあ大体察せるよね」
「その土地神を探し出して倒せば良いのか……神相手かあ」
「流石に神そのものじゃないと思うけどね」
「場所の心当たりとかあります?」
「全く。アレと遭遇したのもたまたまだし……多分他にもいるんじゃない?子だし」
「歩き回るしかないか」
現状見た目と名前しか手がかりが無いけど、まあクエストのクリア条件みたいなのが薄ら見えただけでも良しとしよう。心強い仲間も増えたし、調査だけではなく討伐もいけるかもしれないな。




