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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第五章 過去の遺産の、清算を
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第八話 来たる厄介事


「あー……良し」


 さて、いつもの通りログイン。基本的に装備のままベッドにダイブしてログアウトしているので問題無い。このゲームがいくらリアリティがあるとはいえ、皺ができたり、寝癖がついたりする様な面倒な事は無かった。そもログアウト時は設定上寝ている扱いになっているけど寝ている訳では無いらしい。寝る事自体は出来けど、健康上推奨されていない。まあその時は多少寝相らしいものがあったりするそうだけど。気を取り直して持ち物の確認をする。


「えー……あっやべ」


 3次職になってから数日経ち、ほぼ毎日レベル上げに精を出していた。昨日も夜遅くまでレベル上げをしていたのでポーションの手持ちがほぼ無かった。確認しておいて良かったなあ。いざという時に回復手段のポーションが無いなんて目も当てられない。


「さて今日もレベル上げだな」


 レベル上げの過程で集まる素材で金策も出来る。イベント関係の告知もまだだし、今の内に励んでおかないとな。そう思い部屋を出たが廊下の奥の方の、おそらくモモの部屋からゴタゴタと音がしている。ドアも開いており、流石に何をやっているのか気になったので覗いてみると、魔法を使って本やら何やらを浮かせて移動させていた。


「何やってんだ……?」


「あ?ああマスターか。何ってそりゃ部屋の掃除だよ。見て分からないかい?」


「いやまあ、分かるけどさ」


 魔法の無駄遣いっぽく見えるが、何にせよ器用だな。リアルでも出来たら便利なんだけどなあ。


「にしても色々物多くなったな?」


「いやあ、最初から整理しておけば良かったねぇ。おかげで今この有様だよ」


 本やら資料やら、確かにごった返している。流石にゴミ部屋みたいな状況では無いけどどこに何があるのかは分からないだろうな。最近はずっと何かを調べている様だったっけ。


「そういえば何を調べてるんだ?」


「前にも言ったと思うけど、探し者さ。マスターのおかげで色々と調べやすくなったからね。陸地は大体調べたはずなんだけどねぇ……」


「じゃあ海とか?」


「それは絶対に無い」


「アッハイ」


 有無を言わせない勢いだった。うーん、詳しく聞いてみるか?まあけど大体調べたはずなら俺がいても役には立たないか。何かフラグっぽい物も必要そうだし。探し物じゃなくて探し者か、誰なんだろうな。


「じゃあ手伝おうか?部屋の掃除」


「いや大丈夫だよ。気持ちだけ貰っておくよ」


「……まあそうだよな」


 魔法で浮かせられた本などが本棚に綺麗に収納されていく。下手に手を出したらその方が時間がかかりそうだ。特に出来る事も無さそうなので、モモの部屋を離れ下へと降りる。するとタイミングよくというか、来客を知らせるベルが鳴った。


「客……?屋敷には……うわ、俺とモモだけかよ」


 屋敷の中には俺とモモしかいなかったので、モモは忙しそうなので俺が出るしかないか。レベル上げはいつでも出来るので1日ぐらいどうという事はない。

 玄関のドアを開けると、そこにいたのはここの住人以外で1番ここに出入りしている第3王女様のシャーロットと、お付きと護衛も兼ねているメイドさんだった。来客が来たらとりあえず王女様かなと思うぐらいの頻度で来ているので、特に驚きも無い。


「おお、いたの。良かった良かった」


「そうか、まあとりあえず中でな」


 いつもの暇潰しではなくて、何やら用件があるみたいだ。立ち話をする理由も無く、いつもの談話室へ。普通なら茶でも出すところだが、ウチの場合メイドさんが用意している。今となっては中に入ると同時にさっと厨房へと入って、お茶の準備をしている。まあメイドさんが淹れた方が100倍美味いし、シャーロットが脱走して来た時以外はそんな感じだしな。


「それで、今日はどうしたんだ?」


「今日は王女として来たのじゃ。まあ国からの依頼じゃの」


「国……?」


「まあ国といってもそんな仰々しいものでは無いがの。一応色々経由した結果そうなった感じじゃし」


 いつもより真剣な感じだなとは思ったが、依頼、つまりはクエストだったか。依頼といえば少し前の領主の娘のゴタゴタ以来だな。少し長い話になりそうだったのでこの前買ったトリモチさんのケーキを出す。これで話の流れ次第では良い条件とか引き出せたら良いな……そう上手くいくかな。


「お、おお!?これはもしや……」


「え?ああ、「ペルティカ」のケーキだよ。この前運良く買い溜めできてな」


「ほう、これは良いのう!妾でも中々食せなんだ」


 思っていたより効果は抜群だったな。さっきまでの多少の真剣さは何処かへと飛んでいき、シャーロットの雰囲気は年頃相応となっていた。しまったな、効果がありすぎて話が中断してしまった。というかどれだけ人気があるんだトリモチさんのスイーツ。良い物食ってるはずの王族までこの反応とは恐るべし……とりあえずケーキ食うか。


「……」


 視線を感じて顔を上げてみると、ふやけた顔でケーキを食べているシャーロットの斜め後ろでメイドさんがこちらを向いていた。厳密には俺のケーキをだな。カタギのイメージがないメイドさんでもケーキは欲しいのかな。


「……いります?」


「ではお言葉に甘えて」


 試しに1つ差し出してみると、凄い勢いで移動して食べ始めた。どうやって移動したのか見えなかったな……どれだけ速く動いたんだろうか。それにしてもそんなにケーキ食べたかったのか……あまり感情を表情に出さないタイプのキャラのはずだが、食べている今は若干目が輝いて見える。というかメイドが王女様と同じ席に着いているけど大丈夫なのか?今までの事を思い返すと今更か。

 ケーキも食べ終わったし、そろそろ用件に入るのかな。どんなクエスト内容なんだか。


「ふう……馳走になったの。では帰るかの」


「いやいやいやいや……依頼って何だよ」


「はっ、そうじゃった。ケーキが美味すぎてすっかり忘れてたのじゃ……お主策士じゃの」


「いやおい……」


 フリかと思ったらマジだった。シャーロットは気を取り直して座り、1枚の紙を出してきた。


「これは?」


「依頼書じゃ」


 紙をよく見てみると、村に出没するという正体不明の魔物についての調査もしくは討伐依頼と書いてあった。ああ、そういう感じのクエストか。


「村ってどこの?」


「アハトミノ側の山脈に羊の放牧をしている村があっての。もちろん特産品は羊の毛と肉じゃ」


「ジンギスカンか」


「え?」


「いや何でもない……で、その羊がモンスターに襲われたとか?」


「そうじゃの。被害が出始めたのは最近らしいが、その魔物自体の目撃証言が無くての、現場から何かしらの生物によるもの……とぐらいしか分からないのじゃ」


「それは、俺とかで良いのか?騎士団とかが……」


「流石に情報が少なすぎての。まあ、今はお主しかいない様じゃが討伐では無くても調査で完了とするし大丈夫じゃろ」


「まあ調査ぐらいなら……最悪そのモンスターの特徴が分かるぐらいでもいいんだろ?」


「まあそうじゃの」


 とりあえずは原因の調査、討伐も出来れば万々歳と言ったところか。調査でも報酬は出るが、討伐なら結構な上乗せが出るとか出ないとか……まあ内容次第らしい。村の安全が第一と念押しされたので無理はしないでおくか。その村は羊毛羊肉の名産地だかで、なるべく早く何とかしたいらしい。ショウ達はいないが、とりあえず行ってみない事には始まらないか。村の詳しい場所を聞き、マップを確認する。


「それじゃ早速行こうかな」


「頼んだぞ、出来れば早めに正体だけでもの」


「分かったよ」


 人に被害が出始めたら目も当てられないよな。色々気になる点はあるけど、それは現地で聞けば良い。そこのフィールドで出るモンスターのレベルはそこそこ高いみたいだが、村があるだけあって比較的安全なルートがあるらしい。さて、鬼が出るか蛇が出るか……俺1人で討伐できる範囲だとなお良し。


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― 新着の感想 ―
[一言] 来た理由さえ忘れさせるほどのケーキ……………
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