第七話 近づく夏休み
思わぬ収穫があったが、気を取り直して火山の方へと向かう。アゲハが作ってくれた新装備のおかげで、前に訪れた時はあんなに暑かった火山フィールドも快適に進めている。まあ快適といっても長時間フィールドにいると脱水症状という面倒な状態異常になるので注意は必要だ。現実ほどの必要は無いが、適度に水分補給をしていこう。
【ディケイブースト】を使う方の条件はSPを使い過ぎなければ、その内達成するだろう。問題は【レストリジェクト】を使う方だ。『侍』の時は【抜刀】と同時に【貫牙剣】を使う事で随分と楽が出来た。
一応【貫牙剣】を発動して試してみたが、カウントされてはいなかった。今回も楽ができるかと思ったが、そう上手くはいかなかった。つまりは真面目にやらないといけないわけだ。そう考えると面倒な感じがするけどそこは偉大なる先輩プレイヤー達の情報である。
ここ火山フィールドにはスマラカタゴーレムという攻撃力は高いが耐久力はとても低いモンスターがいるらしい。【レストリジェクト】は相手の攻撃の威力と自分のSTRを参照してカウンターの威力が上がるので、まさにこの状況にもってこいのモンスターだ。
しかも使う武器が剣だろうが刀だろうが斧だろうが、余程タイミングを外さなければ十分に倒せる程に難易度が低かったので推奨されるのも納得だった。攻撃モーションも分かりやすく、慣れれば気を抜いてこなせるレベルだ。まさにこの為に生み出された様なモンスターだな。
「見た目は完全にその物なんだけどな……」
ちなみに名前のスマラカタはエメラルドの語源らしいが、このモンスターの場合は比喩表現らしく、金銭的価値は皆無だそうだ。見た目と性質が似ているだけな上に、プレイヤーからジョブ条件を満たす為のモンスターとしか認知されておらず何とも不憫な感じがする。雪山の方も似た感じのモンスターがいるので、あり得ないだろうがもし遭遇したら親近感でも湧くんじゃないだろうか?
検証勢によるとHPはこちらの方が低いが防御力は少し高く、結局はどっこいどっこいらしい。先人による恩恵はありがたい事この上ない。
スマラカタゴーレムの出現率は結構高く、サクサク進められている。ずっと同じ事をしていると飽きるので休憩がてら頼まれた素材の採取をしたり、特に関係無いモンスターを倒したりした。
【ディケイブースト】の条件の方は失敗作で行うようにし、規定のダメージ量を目指していく。失敗作なのでやけに脆かったりする物もあったが、まあ在庫の数からして問題無いだろう。
「まあしかし、飽きるな……」
火山に留まり同じ相手に同じ事を繰り返していると休憩を挟んでも飽きるので、雪山の方へと移動した。もちろん装備を耐暑から耐寒の方に切り替えるのを忘れない。雪山での目的のモンスターはスマラカタゴーレムの色違いだった。色は赤色、ここは一面白のフィールドなので分かりやすくてありがたいが、名前が矛盾しているような。まあそこら辺は気にしていても仕方がない。早速やって行こう、違いはステータスの少々と色だけのはず。
「……あれ、それだけじゃ来た意味無くね」
気分転換で場所を移ったはずなのに、大して違いが無かった。HPと防御力が少し違ってるというが、そんなに差を感じない。ほぼ火山の時とやってる事同じだな。景色が違うからまだマシか。
「【ディケイブースト】……お、ピッタリ」
【レストリジェクト】の達成数も【ディケイブースト】の与ダメージ量も何とかなった。表示されている合計ダメージ量が目標値ピッタリだったのには運を変な感じに使った気がするが、そこはまあ起きた事なのでしょうがないか。後は大量にモンスターを倒せば良いのだけだ。達成するにはもう1日かかったが3次職になる為の条件は全て達成出来た。教会に行き、無事サブジョブが戦士系3次職の『蛮将』になった。
これで今できる強化は終わりかな。装備の方は……余地が無いわけではない。しかし、そこを拘り始めると地獄なので今のところは諦めよう。どんな生産職プレイヤーでも理想の装備を作れる確率はとても低い。拘るにしても妥協点は重要だ。
「じゃあ2日で終わらせたの?結構頑張ったね……」
「昨日の夜までかかったけどな」
「それなりに量があるからね……3次職は単純なだけまだ良いけど」
「お疲れ様です」
今俺達は学校の図書室にいる。うちの高校の図書室は結構遅い時間まで開いているので、勉強するにはもってこいだ。席数が多いのも合わさり、利用者も多い。中には駄弁っている生徒も居るにはいるが、声量は程々に抑えられているので迷惑にはなっていなかった。
蔵書数も多く、ラノベやマンガも中々に揃えられているので結構充実しているのではないだろうか。まあほとんど発行年が7、80年ぐらい前の物で中にはプレミアが付いてそうな物もあった。まとめて売ったらそれなりの額になりそうだな。
そして俺達は、端の方のテーブルに固まりせっせと課題をこなしている。池田や西田さんも一緒である。期末試験も終わりもうすぐ夏休み。ちらほらと夏休みの課題が提示され始めているので、今日は丁度全員暇があったので協力して片付けている。
今片付けてしまえば、もれなく煩わされる物の無い夏休みが待っている。中学の時と違い、あまり接点が無かった坂下さんに西田さんも加わり分からない部分を聞けば答えもしくはヒントを頂戴できるのでサクサク片付く。隣に座っている坂下さんの説明はとても分かりやすいのでありがたい。教師とか向いているんじゃないだろうか?頭良いといえば翔斗もいるが、翔斗に教わるのは何か癪に触るから頼らない。
「……何かこっちに来る視線多くない?」
「そうですか……?」
「そりゃそうでしょ。琴音ちゃんと陽葵ちゃんがいるんだから」
「あ、成る程。確かにそうか」
美人2人がいればそりゃ注目は集まるか。坂下さんは中学の時もそんな感じだったし、西田さんもそんなだったとか。翔斗も顔面偏差値高めだし、なんだこの面子。池田はまあ2人に比べたら……うわ怖い、睨まれた。思考を察知してくるんじゃない。まあ失礼な思考したこっちが悪いけど。あれ、そうなると俺の立ち位置……うーん、気にしたら負けか。この状況でよくありそうな何だアイツ的な視線が無いのが幸いか?まあ気にしないようにすれば気にならない程度の視線なので課題の処理を続けよう。今苦労すれば快適な夏休みが手に入る……!
「そういえば夏休みどうする?」
「何かで集まるとか?ゲーム……池田が駄目か」
「え、私だけハブる気?最低〜」
「面倒だからそれ止めろ……」
「ゲームはいつでも出来るからね……まあ無難に海とか?」
「海ですか、それは良いですね」
確かに海は無難だな。割と西田さんも乗り気な様で、反対する者は誰もいない。折角の夏休みなら何かしたいしな。
「高校生になったんだから、近場じゃなくてそこそこ遠くて綺麗な所とか行きたいよね」
「とにかく海はともかく、遠出は良いかもしれませんね。日帰りでも朝早くなら色々選択肢はありますし」
計画っぽいものは出来ていくが、具体的な事は全く決めていない。誰も口にしていないが、課題が全て終わってからという雰囲気になっている。まあやる事終わらせた方が色々立てやすいというものだ。あと夏イベもあるだろうし。
「そういやまだ告知来ないな」
「夏イベ?8月入ってからとかじゃない?」
「そうかもしれませんね」
「内容なんだろうな……こっちも海?」
「運営は山派かもしれないよ。まさかの両方とか……移動が大変だね」
「あとはもうすぐ1周年ですね」
「9月だっけ?」
「そうそう」
ゲームなら何かしらやるだろうな。受験のせいで開始初日からできなかったし……余裕かましてプレイしていた翔斗が憎い。あ、マグマに落とすんだったっけ。いつ落とそうか、今なら出来るだろ……けど迷宮の時に間抜けな顔見れたから別に良いかな……?




