第十二話 inフィーアルの森with……
「なんというか……結構明るいですねこの森」
森に入ってから少し経ち、気持ち下り坂になってきたような気がするぐらいまで進んできた。奥へと進むたびに生えている樹の感覚がまばらになっていくが、その分樹が巨大なものになっていくので死角がそこまで少なくなったわけではなかった。あとは樹の密度が小さくなったおかげで、当然空を塞ぐ葉の密度も小さくなったので差し込む光も増え入った時より大分明るくなっている。おかげで隅々まで見渡しやすくなり、モンスターもはっきりみやすくなったのでありがたい。途中でモンスターも虫はもちろん鹿みたいなものまで出たが、そこまで強いモンスターではなかったのでは相も変わらずコトネさんの出番がない。うーん、これでいいんだろうか?
「そうですね……というかさっきはびっくりしたよな」
「そうだねいきなり出くわすとは……最初に言っておいてよかったよ」
そう、事前にショウが注意した通り虫モンスターに遭遇しても攻撃してこない場合は突いて確認していたところなんとその中の1匹が件のアトラクトバタフライの幼虫だったのだ。いや、本当に驚いたもので思わずぶっ叩きそうなったわ、いやー危なかった。
「なんだっけ、えー……まあいいや強いクワガタ見かけないなあ?」
「設定的にそんなに数が多いわけじゃないしなによりそうそう遭遇したらたまらないよ……このメンバーじゃ大分厄介だし……コウのエクストラスキルがあってもね」
そりゃ俺だって通常のモンスターなら全部が全部勝てると思っているわけじゃないが、そんなに厄介なのかそのクワガタ。レベル上げたら挑戦してみたいわー。
「えっとタランドゥススタッグビートルでしたっけ……?」
「ああ、そうだそうだコトネさん記憶力いいんだね……そういえば定期テストも上の方に載ってたような」
「いっいえいえいえいえ、お、お役に立てたなら幸いです!
」
「……さて!それなりに進んで来たから素材集めと洒落込もうか」
そういやそんな目的だったな……なに集めんだっけ?
「えっと何を集めるんでしょうか?」
「端的に言うと糸だね。蚕から取れる感じの」
「……わざわざここで?まだ序盤だろ、ここ」
疑問は当然だろうとばかりにショウが説明を始める。主に防具の素材となり、服系のものでは一番重要な素材である糸。大体のゲームは終盤で手に入れられるものが一番性能や補正があったりするものだがこのゲームは絹と羊毛が防御力の面では一番高く羊毛は10番目、つまり最後の町の手前の山脈フィールドに生息している羊からとれる物が一番質が良いらしい。
別の町で羊の放牧をしている所もあるがここで蚕のモンスターからとれる絹の方がよほど性能が良いみたいでそこの糸は需要は低いみたいだ……まあそもそも食肉メインの産業らしいので毛の方は住民のちょっとお高めな服用扱いの様だ。なので山脈フィールドに行けることができるようになるまではここで糸を集めて装備を作るのが一般になっている。
ちなみに綿は防御力はそこまで高くないが属性などの耐性をつけるをつけやすい性質を持っているそうだ。そもそも防御力という点にこだわるなら鎧を装備するのが1番だが、まあ動きにくくなるので普通に需要があるという。
「……まあ集める理由としてはこんな感じだね。綿は特定のモンスターの対策をするときぐらいしか必要ならないからね」
「けどこんな序盤で手に入れられるのは良いですね」
「集める理由は分かったからその蚕のモンスターはどんな感じなんだ?」
「うん、名前は安直だけどシルクモス。幼虫じゃなくて成虫を倒すと糸が手に入るよ、そもそも幼虫が見つかったことないけど。体は結構でかくて30センチぐらいで色は白……あ、いた。ちょうど良……あー、コウ倒してみてよ」
ショウの視線の先には確かに30センチぐらいな白い蛾がいた。30センチって実際に見ると意外とでかかったりするよな……ショウの言い方が若干不穏だが倒してみないと分からないか。
「ふっ」
刀を抜き目標に近づいて一閃。まあ耐久力はそもそも高くないのだろう特に抵抗もなくすんなり切ることができ、エフェクトとなって散っていった。不穏に聞こえたのは俺の気にしすぎだったか?……うーわ、顔になんかベチャッとついたァ!!!うっわなんだこれこれ素材!?いや下に繊維っぽいアイテム落ちてるから違うわいやほんとなんだこれ!?あ、取ろうとしたら手までくっついた粘着力強っ。
「ぶふっ、まさか顔につくなんてっ……面白すぎ、腕とかにつけばいいなとか思ってたけど……笑える……ふふっ」
殺すぞコラァ!!!エクストラスキルでさっきの蛾と同じく真っ二つにしてやろうか!?……てか、これいつ取れるの?
「あ、あの大丈夫ですか?えっと私も手伝いましょうか?」
いやー、コトネさん良い人だな、それに比べてあの男は……確かもう少し進むと火山フィールドがあるらしいからマグマにでも落としてやろうか、装備ロストってするのかな。
「ぶふっ……コトネさん使える魔法の中にピュリファイっていうのが、ぶふっあるはずだからかけてあげてくれる……ぶふっ」
何ツボにはまってるんだこいつ。そんなに面白いか、ええ?そんなことを考えているうちに魔法の準備が終わったのかコトネさんは俺に向けて魔法を発動する。なんか清らかそうな光とともに俺の顔についた……粘液じゃないな、なんかベチャッとしたやつが消えていく。
「あー、ありがとう、助かったよ」
「は、初めてお役に立てたので、はい、こちらこそありがとうございます、本当に」
ほら、見てよこの低姿勢。そこまで謙遜しなくても良いと思うけど見習ってほしいね、ほらどこかの未だに笑ってる人。
「おい、笑ってないで説明しろや」
「いやごめんごめん。あのモンスターはね成虫になっても糸を出す能力があってね倒すとその糸がドロップするわけだけど嫌がらせなのかなんなのか、死ぬと体の中にある糸になってない物質を飛び散らせるんだよ」
なんだそれ、本当に嫌がらせでしかないな。生存するために糸を出して相手の動きを鈍らせるとかならまだ分かるが死んだ後にそれってそうする意味があまり分からん。
「そう簡単に集めさせないようにってことでしょうか?」
まあ設定というよりかは運営の嫌がらせだろうなあ。そう簡単に乱獲させて装備を作らせないようにってことかもしれないが……攻撃が当たりにくいとか数を少なくするとかもう少し方法なかったのだろうか。
「結果としては実際に見て良かったでしょ?というわけで始めていこうか、コトネさんのSTRでも十分に通用するからね。あと普通のモンスターもいるから離れすぎないように」
それからは素材を集めるために各自分かれて……というよりはその蛾を見つけるために人手が必要なだけなので結局は普通に3人でフィールドを進んでいく。木に止まっていたりするやつはアトラクトバタフライの幼虫が化けている可能性もあるので注意して確認していく。途中でクワガタ……タランドゥススタッグビートルとすれ違ったがおもってたりよりでかかった、15mぐらいあった。もろに突撃とか食らったらピンポン玉みたいに吹っ飛びそうだな。
あれから数時間経ったが意外とそれなりの数を集めることができた。3人でも意外と集まるものだな。ショウは装備を変える必要はないので俺とコトネさんの2人分だがこの数あれば生産に失敗しなければギリギリ足りるぐらいの数らしい。
「ん?……今フィーアル手前の森だけど……マジで?あ〜……うん、ありがとう」
ショウがフレンドから連絡が来たらしく話し込んでいる。なにやら驚いているが緊急事態でも起きたのだろうか?
「あー、2人とも急で悪いけど急いで……フィールドボス倒してないからツヴァイアットか。とにかく町に向かおうか」
「えっと何か起きたんですか?」
ふざけているわけではなさそうなのでとりあえずモンスターに注意しながら歩いて行く。なにが起きてるのかは俺もコトネさんもわからないので歩きながらショウに尋ねる。なんでも一番規模が大きいPKクランがここに狩場を移したとかでとりあえずとばかりに現在進行形でプレイヤーに被害が出てるらしい。規模が大きいだけあってそれなりの実力のあるPKが多く、出くわしたら今の俺たちじゃ確実にやられるという。
「いやー、タイミングが悪いね、ここでやられたらせっかく集めたアイテムがパーになっちゃうから」
このゲームのPKの利点は3割程の金とアイテムがばらまかれる様でここのようにアイテムを多めに集めることが多いフィールドを狙えば利益が多いみたいだ。その代わり町に入れなくなったりPK行為を繰り返していくと賞金がついたりするらしいが。
「近々場所を移すみたいな話は聞いていたけどまさかこのフィールドのしかも今日とは……会いたくないなあ」
「へえ?誰に会いたくないって?」
「そりゃ君……っ!【ルーフガード】!」
樹の上に潜んでいたのか見た目からして後衛なコトネさん目掛けて飛びかかってきた攻撃をスキルを発動させたショウが庇う。辺りを見回してみても攻撃してきたやつ1人みたいだが……ショウの反応からして相当強いやつであろうことがわかる。
「……まさかよりにもよって君とはね……カリファ。他のPKならまだなんとかなるかなと思ってたのに……」
おや、お知り合い?なんとか見逃してくれないかなあ……?