第五話 不敬罪とかあったっけ
「流石にサブジョブを決めないといけないと思うんだ」
「まあ始めてから結構経っているしね。今更な感じがするぐらい」
「うるせえやい。クエストやらイベントやらでなあなあになってたんだよ」
「コトネさんは3次職の準備してるし、クルト君やアゲハちゃんはもう就いてるからね。遅いよねー」
「いやあ、だらだらやってると慣れてきてな、慣れって怖いな」
「あの、何にするか決めたんですか?」
「いや全然まだ。このゲームの先輩にぃ、意見を伺いたいなあって」
「何その気持ち悪い口調……まあ良いけど」
そもそも基本ジョブが10何種類かあったはずだが、イマイチ覚えてない。覚えているのは『剣士』、『銃士』、『戦士』、『弓士』、『生産者』、『盾士』、『魔術士』……ぐらいか、あと何あったっけ。とりあえずここら辺でおさらいしておきたい。
「一先ず基本ジョブは13種類で、『剣士』、『槍士』、『戦士』、『拳士』、『盾士』、『盗賊』、『魔術士』、『弓士』、『銃士』、『付与士』、『吟遊詩人』、『学士』、『生産者』だね。派生はまあ置いておこうか、面倒だからね」
「『吟遊詩人』のジョブのプレイヤーって全然見かけませんよね……」
「普通にいないからね……いても大きめのクランのサポーターの人ぐらいだし。他はほぼ趣味の人達……ゲームの中で趣味って言うのもアレだけど」
大規模なバフをかけられる特徴を持つ『吟遊詩人』だが、その真価はレイドなどの数十人単位でプレイヤーが集まる戦闘ではないと発揮されない。普通の戦闘でバフが欲しければ『付与士』でいい。更には『吟遊詩人』はちゃんとした歌やら演奏やらをする必要があり、そういう意味でも難易度は他のジョブより高いだろう。
俺は無理だな、歌うとか無理。楽器も出来ない。まあ音が届く範囲なら人数制限やバフデバフの数の制限無くかけられるというメリットもあるらしいが……どうなんだろうな。そもその規模の戦闘が基本無いからプレイヤー数が少ないのは当然か。
「さてコウはどうする?思い切って生産職?」
「思い切りすぎだろ。アタッカーでそれは流石に無いわ。エクストラスキルとかで組み合わせられるなら別だけど、そういうのあるのか?」
「無いね」
「変わり種だと……魔法職とか『弓士』とかですかね?」
「魔法はモモがいるから二番煎じになるし……弓士はどうすりゃいいんだ?というか2人とも何故邪道なのを?」
「面白いかなと思って」
「オイ」
とにかく気を衒うつもりは皆無だ。ここは無難というか、地力の底上げに繋がるジョブにしたい。ステータスならSTRが上がる『戦士』、AGIを伸ばしたいなら『盗賊』かな。『盗賊』は罠察知系のスキルがあるけどな……今更か。
「何か無難なのないのか?」
「まあ近接系で多いのは『戦士』かな。STRの補正高いし、デメリットはあるけどダメージ上げるスキルがメインだし」
「『戦士』かあ……そういえばアポロさんは?」
「いやー、あの人はね……だめだめ、サブジョブとか気にしてないみたいだし、参考にならないと思うよ」
「なるほど……そういや迷宮だとサブジョブ変えたって言ってたしな」
あの人の場合、リアルの武術関連の技術も混じってるだろうからジョブ構成に関しては確かに参考にならないか。
「じゃあ結局『戦士』……2次職は?」
「2次は『蛮族』、3次は『蛮将』だよ」
「字面がアレだな」
「それはしょうがないでしょ。条件の方はがんばってね」
「はあ、やらないとな……」
まあ目指す方向は決まったので良しとしよう。条件は後で教会で確認して、程々にこなしていこう。2、3日あれば何とかなるだろ。
「そういえばコトネさんは進捗どうなの?」
「あ、1人でこなせるものは終わりましたけど……基準を満たしたポーションをNPCに見せる必要がありまして……そこに行き着くまでの手続きみたいなのが面倒そうで……」
「あー……なんかあったね、そういうの。確かに面倒な手間かかるって聞いた気がするよ」
「へー、コネ系?」
「言ってしまえばそんな感じですね……それでもう少し時間がかかりそうです」
「偉い人でいいなら、1人いるけどな……」
「あ、それ良いんじゃない?」
「「え?」」
「それで妾を呼んだというわけか?」
「そうそう」
「そうそう、じゃないんじゃが!?これでも王女なんじゃが!普通そっちが来るもので、こっちが赴くものじゃないんじゃが!?」
「まあまあ、敬意を払われる行動は1度もしていないのですからしょうがないですよ」
「お主まで!?」
まさかのメイドさんが止めを刺した。いつもはメイドらしく後ろで佇んでいるのに、後ろからまさかの裏切り。というかあの人あんなキャラだったっけ?俺より立場的に色々危険じゃないかと思うのだが、まあ関係からして大丈夫なのだろう。というか話が大分ずれたな。
「急に呼びつけてしまってすみません……それであの、どうでしょうか?」
「ああ、別に気にせんでよい、次からちょっと配慮してくれればの。それで、何じゃったんじゃ?妾の立場がどうとか言っておった気がするが、何も詳しい事を聞いとらんのじゃが」
「あ、言ってなかったっけ」
「……打ち首にしてやろうかの?お主達の場合は死んでも蘇るから永久指名手配じゃぞ?」
……流石に扱いが雑すぎだったかな。確かに王女様にする扱いじゃなかったか。NPCで年齢的にはまだ子どもとはいえ少し気をつけるか。
改めてコトネさんの用件について話した。偉い人にお墨付きを貰えれば達成みたいな感じみたいで、わざわざ一般的な方法を使おうとして面倒な手間をかけるよりは今ある伝手を使えたら良いなという事だ。
「あー、なるほどの。それは妾でもどうにかなる案件じゃな。ほら、見せてみい」
「え、あ、はい……?」
あっさり承諾してくれたのは良いのだが、見せてどうにかなるのか?NPCの子どものジョブ関係の設定どうなってたかな、鑑定スキルがないと肉眼で見たところでどうにもならないはずだが。
「ナタリー、アレあったじゃろ」
「どうぞ」
と思ったら、メイドさんに何かを出すように命じ、王女の手に収まったのは細かい装飾の付いたモノクルだった。それを右眼につけてコトネさんのポーションを見ている。
「何アレ?」
「さ、さあ僕も見た事ないし……多分結構なアイテムじゃない?スキルが付いてるアイテムなんて聞いた事ないよ」
ショウも分からないか、まさかのNPC専用アイテム?そうじゃ無くても相当な値打ち物の可能性があるよな。ショウによると、所持しているスキルのレベルを1もしくは2上げる効果を持つ装備またはアイテムはあるらしいが、スキル自体を持つものは見た事ないらしい。
「……ふむ、『薬士』が作るポーションとしては上質な部類ではないかの?ナタリーはどうじゃ?」
「ええ、問題無いかと」
「確実とはいかずともそれなりの頻度で作れるのじゃろ?」
「あ、はい。このぐらいなら……」
「ならええの。えーと、どうするんじゃったかな……あ、紙紙……紙はないかの?」
「あ、ほら」
「ナイスじゃ……意外と上質な物が出てきたの?」
前にちょっと町をうろうろしてたら、使い道が無くなったとかで生産職プレイヤーが叩き売っていた物だからな。早く捌けさせたかったのか二束三文だったし、変な効果もついてなかったので衝動買いしてそのままだった。コピー用紙レベルで綺麗だったから、目についたんだよなあ。ちなみに10枚セットだった。一緒に出したインクは普通の物だけどな。
「良し、これでいいじゃろ。何かあったらまた呼ぶといい。それに関しては妾の不備じゃからの」
「あ、ありがとうございます」
そう言って質の証明を示す署名をコトネさんに渡した。色々とお世話になったので、お茶菓子やらでもてなした。試してみたところ無事3次職の『薬師』になれたそうで、不備無く終わった。さて、俺は俺の事をしないとな。




