第三話 やな奇遇
「何かと縁があるねぇ?」
「ハ、ハロー?」
「……挙動も言動も不自然になってるよ?」
そりゃあ挙動も言動も不自然なるわ。何でこうも会うんだかな。森に春イベにこれだろ……?春イベはまあイベントだったからプレイヤーも集まるし確率は高かったのだろう。しかしだだっ広いフィールドの中で会う確率は中々のものでないだろうか?ショウによると見境無いPKはしないとの事だし、実際森の時もそんな感じだったのは覚えている。だがPKはそもそもあまりお関わりになりたくない部類なんだよなあ。
「せっかく会ったんだから何か話でもしないかい?」
「そう言ってPKしたりは?」
「しないしない。ウチはやられない限りクラン単位でしかPKはしないルールなんだよ。個人でしてたら至る所で復讐されるからね。クランって言っても、寄ってたかってはしない主義だし。こういうのはお互いに楽しまないとねぇ」
「お互いに……?」
被害者の方は……あ、あの時はショウがいたせいか。初心者プレイヤーは標的にしないって言っていた様な気がするし、標的になるプレイヤーは逃げようと思えば逃げられるか。今ほど運が悪くなければ基本的に問題無いだろう。PKはペナルティはそれなりに重いが、禁止はされていない。半年経って、PK集団として残っている時点で、他のプレイヤーからの認識がどうなってるかは十分察せる。プレイスタイルは千差万別だから文句はそれ自体は全く文句は無いが、そもこうして関わっている状況はどうにかならんものか。
「というわけで逃げ道をあからさまに探るのはやめてくれないかい?」
「……まあしょうがないか」
「それでここには?」
「……新装備の素材集めだよ。あ、始めたばかりだから大した物は持ってないぞ」
「だからしないって……ふうん装備、まあそんな時期かね。クランで動いている時に是非遭遇したいもんだ。殺り甲斐があると嬉しいけど」
「戦闘狂かよ……」
「別に対モンスターより対人の方が趣味なだけさね。互いに色々と失うPKの方が真面目にやってくれるだろう?このゲームがもうちょっと対人戦に力入れてくれてたらまた別なんだけどねぇ」
そういう事なら別ゲーの方が……いや話題になって様々な人が集まるからか?対人戦メインでパッと思いつくのは格ゲーとかFPSとかだが、わざわざこっちって事は拳や銃じゃなくて剣とかが良いって事もあるのだろうか。格ゲーは武器所持キャラもいなくは無いけど基本素手だし。FPSは銃火器以外を使う奴はいるのだろうか、そっち系はやった事ないから分かんないわ。まあPvPはこのゲームじゃ副題ですらないし、力があまり入っていないのはしょうがないか。
「あれそういやPKのペナルティってどのぐらい重いんだ?」
「おや知らないのかい……まあ興味が無ければ調べないか。木端は大体それなりの金、持ってなかったらアイテムやら装備やら没収されておしまい。私みたいに賞金がつくとその分と更に色々持ってかれるのさあ。この前は結構持ってかれたよ、アハハ」
「ハ、ハハ……そ、そりゃ大変そうで」
「まあ常に貯蓄はしてあるからね、1回や2回やられても大丈夫な様にしてあるよ。この前のももう取り戻したし」
「ソウッスカ」
あれだけの金を没収されて大丈夫って相当だな。金額相当の素材だとしてもどれだけ集めたのやら。
「じゃあ迷宮イベはそれなりに金になったんじゃ?」
「ああ結構良かったよ。NPCの目もあるからこっそり列に並ぶのは面倒だったけど。踏破を達成できなかったのは悔しかったね、あのエクストラモンスターめ……」
カリファはやられた口だったのか。というかトップ争いは割と接戦だったんだな。PKは、カリファとかは指名手配にはなっているが、追われているというより要注意人物みたいな扱いなのかな。まあ伊達にトッププレイヤーだけあってカリファも迷宮は踏破したんだな。エクストラモンスターは倒せなかったみたいだけどあの人型ボスは1回で倒したらしい。
「そういえばあんたのとこにNPCが住んでるよねぇ?」
「うぇっ?」
突然だったので思わず変な声が出た。急な話題転換もそうだが、あまり他人に突かれたくない話題なのでどうしたものか。雲行きが怪しくなってきたぞ、逃げる準備をしておこうかな……?
「……屋敷の管理とかプレイヤーだと手が回らないじゃん?」
「ちらと見ただけだけど、明らかにそういう類の格好じゃない上に、ブラブラと市場で物を物色しているNPCが?」
「ハハハ……」
「後はあのアポロが出入りしているらしいじゃないか」
「あれは部屋貸してるだけだし……てか、よくご存知で……?」
「いやそれはクソ程噂になってるけど」
「え、マジで……?」
「どこの誘いにも応じなかったのにねぇ……もちろんうちにも。趣味じゃないってさ」
「まあそうだろうなあ……」
うーん、色々目立ってるなあ。まさかストーカーかと一瞬思ったけど、流石にそれは無かったか。噂になっているのはモモではなくアポロさんの方みたいだ。まあアポロさんは目立つからしょうがないとして問題はモモだな。そりゃ容姿はそこらの一般人Aじゃ収まりきらないレベルでキャラが立ってるし、豪邸やらがある地区から出入りしていれば目立つのもやむを得ないか。イプシロンさんとこのベルゼバブみたいに食ってるだけで外に出ないならそれはそれで楽だが、外に出るなとは言えないしな。マモンは……NPCの従者やってるし一周回って違和感無いのか。えー、どうしよ。
「色々溜め込んでいるみたいだねぇ、吐いてもらえると面白いんだけど」
「ハハハ、特にそんなものはナイヨ。というか脅迫みたくなってるぞ……肩に担いでいる剣を下ろしてくれよ、怖いんだけど」
「そんなつもりは無いんだけどねぇ」
好戦的な笑みを浮かべておられるので、とてもそうは見えないのですが。なんか危なくなってきた感じがするからさっさと切り上げて離れよう、うんそうしよう。
「じゃあそろそろ素材集めに戻ろうかな!」
「……切り上げるにしてももうちょい良いやり方は思いつかなかったのかい?」
「思いつかんかった。んじゃ!」
「あっ……こんな雑な方法に、まあ良いか」
全速力で逃げたら何とかなった。まああいつも本気で追いかけはしてこなかったのもあるか。色々とボロが出た自覚はあるから、あちらとしては満足なのだろう。
気を取り直して素材を採りに移動しよう。鉱石はこの前の迷宮イベで潤沢にストックがあるし、モンスターを狩るだけだ。対象のモンスターは運良く俺のスタイルなら割と有利なので楽そうだ。実際エクストラスキルを使えばすっぱり一撃だったのでサクサク集まった。もちろん使う時は人目を気にしたよ。レアドロップも結構さっさと出てくれたから1日で全て集まった。
「というわけで頼んだ」
「頼まれました。腕が鳴りますね!」
「これだけあれば失敗しない……というかこれで失敗したら笑いものだわ」
「頑張ってくれ〜」
生産職2人に素材と今使っている装備を渡し、出来上がりを待つ。流石にこれは数日待たないとしっかりした物は出来上がらないので暫くお預けだな。
「楽しみですね」
「新装備だからなあ、どんな感じになるんだか」
クルト達のレベルや技量は問題無いだろうし、出来上がりの品質は大丈夫だろう。
「うーん……」
「どうしたショウ?」
「いや僕も装備とか新しくした方が良いかなあと思って」
「それ結構こだわった良い物だって言ってなかったか?」
「いやー、そうなんだけどね。ぶっちゃっけ言うとコウ達のそういうの見てたらちょっとしたくなるじゃん」
「ぶっちゃっけたな……分からなくもないが」
まあ性能良くても長い間付けているとたまには変えたくなるよな。しかし、ショウの場合集める素材も大変な物ばかりだろうし本気で変えるとしたら結構時間かかるだろうな。それはショウも分かっている様だけど。
「まあ……とりあえず後で良いかな。そもそもまずは期末の事考えないと」
「あ、そうだった」
「忘れてたの?」
「いや現実逃避」
わー、テストだ面倒くせぇ。




