第三十三話 リベンジ
「それじゃよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
「アポロさんがいるなら百人力ですね」
話はまとまったのでいざ迷宮、最下層のボスのところへ。アポロさんが加わってくれた事により火力は激増、怖い物無し……と言いたいが、油断はしていられないというか頼りすぎると寄生っぽくなるし。邪魔にならない程度に程々に積極性を持っていこう。階層の移動は問題無し、マッピングが済んでいる所に出たので最短で行ける。道中のモンスターや罠は大体アポロさんがなんとかしてしまい……してくれたのでサクサク、いやほんとにサクサク進めた。そんな感じですぐに着き、ボスと相対する。
「動き出しましたね……」
初撃はアポロさん、直接ではなく斬撃による攻撃だが、真正面からの攻撃は流石に防がれた。1人増えたのでコトネさんのフォローもしやすくなったので、今回はショウも前に出る。30分という縛りがある以上、タンクだろうが少しでも火力を上げないと意味がない。大盾を扱う以上、それなりにSTRはあるんだし、得意技の盾投げでもすれば多少はダメージになる。まあこの戦いでそんな事したらデスペナにするけど。
アポロさんはいつもの通り斬撃を飛ばして中距離から攻めている。ここは処理能力を圧迫させるために事前に考えた通り、さっさと使ったほうが良いか。
「【貫牙剣】!」
これなら相手は受けるでもなく避ける選択肢しか取れない。もちろん受けるより避ける方が手間なので、その分アポロさんへの対処が疎かになるわけだ。いくら最下層のボスとはいえ、モンスターなので1個体としてはプレイヤー1人強いのは当然だがそれでもただの人型、攻撃もシンプルなものしかない。対処はまだ大分楽なものになってきている。銃弾は離れている場合にしか使ってこないのでショウのヘイト操作でアポロさんに向いても何とかなっている。
「そらっ!」
そして避けるにもこの状況では限界はあり、左手に持っていたバヨネットを断ち切り、攻撃手段の1つを奪う事に成功した。ボスが使う武器なのだから結構な強度があるはずだが、【貫牙剣】の前には何の意味もない。
「よしっ!」
「おお、コウナイス……うわぁ」
「そう簡単にはいきませんか」
破壊した、破壊はしたんだが、懐……懐がどこかは知らないがどこかから新しく同じバヨネットを取り出し、こちらへと振り下ろしてきた。
「おおっとォ!?」
確かにそう上手くいくとは思ってはいなかったが、ほぼノータイムで新しい武器を取り出して攻撃してくるとは思わなかった。何とか避けようとしたが1発喰らってしまった。しかも右腕……幸い千切れてはいないので回復すれば何とかなるか?
「コウさん早く回復を……!」
「すんません!」
急いで後ろに下がりコトネさんの回復を受ける。威力が高いせいで見た目は大した傷じゃないが大分動かしづらくなった。こういう時リアルさは厄介だな。
「終わりました!」
「ありがとう!」
HPは全快にはなっていないが、腕は十分動く様になった。これまた急いで前へと戻り攻撃に加わる。ショウは負担が増えたせいでダメージの減りが速い。時間制限制なだけあって、タンクとかの耐久よりのプレイヤーは不利だなこれ。避けタンクの方が向いてる気がするな。回復している間に【貫牙剣】の効果が切れたから注意を引くにも脅威度が足りなくなった。
「戻った!」
「じゃあ少し下がるね。1本ぐらいポーション飲んどかないと……」
「速、めにお願いします……!」
結局向かっているのが2人だから攻撃が当たりにくくなった。相手に若干の余裕があるから、俺にしろアポロさんの攻撃にしろきちんと対処されてしまう。経過した時間は8分。されど約3分の1が過ぎようとしているが、果たしてこれは順調なのか。ともかく、このまま続けていくしかないよな。戦闘自体は2回目だし、1回目も歯が立たなくとも30分目一杯戦ってはいたので攻撃も剣銃の2種類しかないからパターンも慣れてきた。まあそれで攻撃を掻い潜って反撃できるのかというとそれは別問題なので、アポロさんが攻撃できる様に相手の余裕を無くす様にする事ぐらいしかできない。たまに位置の問題でショウに向かう銃弾が掠めるからなかなかにヒヤヒヤする。
「【刺突】」
「【抜刀】!」
両側から同時にスキルを使って攻撃してみても割と防がれる。衝撃自体は伝わっている様で多少ダメージにはなっているだろうし、攻撃が1度も当たっていないわけではないので動きに支障が出るほどじゃないにしろ所々に罅が入ってる。剣の達人(亜種)を相手にする事なんてそうそう無いからやりづらい。剣系の強いプレイヤーとはちょっと違うんだよなあ。
「アポロさん、『黒炎』とかは……?」
「5分しか持たないので、デメリットからしてラストにしたいですね。他のは……SPMPの関係で……」
「そうですよねー……」
こっちはもうすぐ【貫牙剣】はもうすぐ使えるが、すぐ使うのは微妙だな。ラストにとっておいた方が良いだろう。スキルを使うならSPも温存しないといけないので【空走場】も使えない。足場で拘束しようとしても素早い上に体の大きさ的に不可能だな。
「それっ!」
攻撃しようとしてきたボスをショウが無理矢理弾く。アポロさんと2人で挟む様に繰り返し攻撃を行うと、それなりにまともなダメージが入った。そのまま当たり続けばよかったんだが、当たったのは1回だけでその後は防がれて距離を離された。はてさてどうしようか。
「3人で押し込んでこれか」
「本当にダメージ当てづらいよね……」
「1人だった時より動きが速くなっている様な……?」
「え?本当ですか?」
何か不穏な事をアポロさんが言い始めたが、まさか人数とかによって若干ステータスが上がったりするのか?アポロさんが加わった事で一安心かと思ったがそうでも無くなってきた。30分間に合うかな。数秒でも動きを封じる事が出来ればもう少しマシになるんだが。プリーズ魔法要員、まあどうせ引っ張りだこなんだろうから期待しない方が良いか。そもそも今挑んでいる俺たちにはどうしようもない。いっその事事俺が抱き締めて俺ごと……いや無理か、色々足りない。まあそもそも無傷で勝てると思っていないので腕の1本ぐらい捨てる覚悟で行こう。押し込めば多少ダメージが入る事は分かったので、連携を若干無視して押しまくる。フレンドリーファイアなカスダメが入る様になったが、気にしていられないか。しかし思っていたより効果が出ている様でボスの被弾率が上がった。こんな効果あるとは思わなかったな。
「後5分です!」
「『黒炎』!」
「【貫牙剣】!」
いつの間にか後5分。味方の攻撃も気にしないといけなかったので気づかず、コトネさんが知らせてくれて助かった。アポロさんの強化された攻撃の余波をくぐり抜けながらボスの武器を狙っていく。ほぼノータイムで新しく取り出せるとしても、取り出すという挙動で攻撃の頻度が下がるので繰り返していけば……!
「よしっ!」
ダメージが蓄積したのかアポロさんの一撃で右腕が破壊された。しかも所々でショートし始めたし、それなりに弱ってきた。これ以上のチャンスはないので、体勢が揺らいだ隙を突き左腕を断ち切る。
「よしこれで……!」
攻撃手段は奪った。これで後は解体すれば良いだけと思ったらボスの胸部装甲が開き始めた。ここで30分経ったか……!
「後もう少しなのに……」
兎にも角にも体勢が悪すぎる。このままだと真っ先に俺とアポロさんがやられる。アタッカーがいなくなれば最後のヤケクソもできねぇし。アポロさんも攻撃する前にビームでやられそうな体勢だ。そんな事を考えていたら、ボスの方へと走ってくるコトネさんが見えた。背中側なのでボスも反応していない。一体何を?
「えいっ!!」
通常ならコトネさんのステータスでは何ともならないはずだが弱っている上に両腕を無くして重心がブレている状態なのもあり、コトネさんの杖による一撃でほんの少しボスの体勢が変わった。ほんの少しだが、アポロさんには十分。射線には俺がいるが屈めば良いだけだ。
「ふっ!」
まあ避け切れずに左手が巻き込まれたがそこは死な安、アポロさんの一撃によって強制即死ビームを発射しかけたボスは大ダメージを喰らった。床に倒れ込むより前にエフェクトとなって散っていき、倒せた事の証明となった。




