第三十二話 舐めプが過ぎた
「いやー、長かったね」
「やっと10階層目ですもんね」
この迷宮、その最後の9階層を進み、ようやく最下層である50階層へと辿り着いた。今までは5階層毎にボスがいたのだが、45階層にはいなかった。途中なら疑問にも思うけど最後の10階層と考えればまあ納得出来なくもない。途中までの9階層分は色々とあったといえばあったが、モンスターが強くて苦戦する事が多かったとか何回か罠にかかって死んでやり直す羽目になったとかぐらいなんだよなあ。というか結局ここまで罠対策無しでここまで進めたのは我ながら凄いと思う。確かに何回か死んで時間はかかったが、それでも進めなくなったわけじゃなくここまで来れた。物理系のトラップはよくよく見ればそれっぽい不自然さがあったし、それを見逃してもギリギリ対処出来るぐらいには慣れてしまっていた。まあそれでも完全にとはいかなかったが、大量に持ったポーションでなんとかした。いやー、なんとかなるもんだ。
「えっとボスは分からないんでしたっけ?」
「そうそう。イプシロンさんが戦ったのはエクストラモンスターらしいし、情報は多少出ているみたいだけどタダで教えて貰えたのは人型ってだけだったよ」
「まあ人型なのはこれまでで予想出来るけどな……最後ぐらい普通に払っても良かったんじゃねぇの?」
「いやー、検証が不十分らしくて払うには微妙っぽいんだよね。とにかく失敗するまではとりあえず挑戦してみないとね」
「そうですか……」
「まあ1回ぐらいはな」
そうこう話しているうちにボス部屋の前まで着いた。準備は良し、回数制限があるわけでも無し、駄目で元々で行ってみよう。
「まあ人型だよな」
いざ部屋に入ると、その中心に立っていたのは今まで見た人型の機械系モンスターで、更にそれをアップグレードした様な見た目だった。身長は大体2メートルちょい、ボスにしては意外と小さいが、それがまた厄介そうな感じを醸し出している。ボスとかそういうのを強くするのは巨大化するのが1番だが、逆に小さくなると強キャラ感が出る気がする。リボルバー式にした銃剣と言うべき武器を両手に装備している。少し見づらいが大体6発ぐらい……?装弾数が分かりやすいのはありがたいが、1発の威力は高そうだ。
「普通に気をつけようか。気楽にね」
「うーん、ラスボス感。何回か失敗しそうだなあ……」
ボスの両目に光が灯り、こちらへと視線を向けてくる。流石にそのまま様子を見てはいられないので先手必勝とばかりに攻撃する。しかし、【抜刀】を発動させた一撃でも難なくバヨネットの刃の部分で、しかも一丁で防がれた。空いているもう片方のバヨネットで斬りかかって来たので後ろに飛び下がり避ける。
「どう?」
「いやー、無理無理。速いし重いし、動きがモンスターってよりNPCっぽい。エクストラスキル込みでも足りないんじゃない?」
「そりゃ大変だ……どうしよう?」
「ど、どうしましょうか?」
距離を離したため、今度は銃弾を放って来た。とっさにショウの後ろに隠れるが、盾に当たった音が今まで1番鈍いし大きい。
「うわちょ、ちょっとコトネさん回復お願い!」
「は、はい!」
音通り結構な威力だったのかショウのHPの減りがとんでもない。ほとんどの攻撃の威力が高いか、厄介というかボスだからというか。このままだと削られてショウが死ぬな。リロードの隙はあったのでそこを突いて攻撃してみるがこれもまた防がれる。流石に出し惜しみはしてられないか……!」
「【貫牙剣】!」
これなら防がれないと思ったが、そしたら全て避けられた。そりゃ防ぐ方がまだ簡単だろうが、完全に避けられるぐらい余裕あるのかよ。流石にそこまで俺のステータスが足りていないとは思わなかった。いや、本当にどうしようか?
それから数十分経ったわけだが、全然相手のHPを削れてはいない。俺達全員死んではいないが結構消耗している。最初から初見クリア出来るとは思っていなかったが、それでも甘く見すぎていたようだ。多分負けると思うので行動パターンやら色々情報集めに専念している。
時間は……もうすぐ30分か、いや今丁度になったな。
「あれ?」
ボスは避けるのはいつでも出来るのだろうが、それでも大袈裟に避け俺との距離をとった。おかしいと思い様子を見た所、ボスの胸部装甲が展開し、砲口が出てきた。そして放たれたのはビーム砲で、最初に喰らったのはショウとコトネさんだった。ショウはスキルを発動させた様だったが、それをものともせず貫きデスペナになった。放った体勢のままこちらへと向きを変えてくる。限界はあると思って逃げるが、その甲斐虚しくもれなく俺もデスペナになった。360度かよォ。
「はい!反省会!」
「ドンドンパフパフ〜」
「わ、わー?」
別に無理に乗らなくても良いんだよ、コトネさん。優しいのはありがたいが、ここは無視して全然問題無いからね……わざわざこうして振るのもそれはそれで問題か?
迷宮のラスボスにこっぴどくというか綺麗にやられた事を受け、反省会を開いている。まあほぼ舐めプみたいなパーティでここまで来れたのが奇跡みたいなもんだし、ちゃんと対策しないとなあ。
「というわけでボスの情報あらかた仕入れて来たよー」
「まあ情報は大事だよな、ネタバレとか気にしてられないし」
「えっと、それで……?」
「まずはあれ、30分縛りみたいだよ。30分経ったら最後のビームで即終了」
「ええ、まさかの……あの強さじゃ鬼畜すぎない?」
「それは……難易度高いですね」
まさかのラスボスで時間制限付きかあ。難易度高めってか、分かりやすい上げ方してきたな。30分経った時点で強制敗北とかキツいな。
「じゃあそもそも俺達じゃ火力が足りなすぎるな。せめてもう1人ぐらい……」
「できれば2人は欲しいよね」
「空いている人とかいるんですか?」
「うーん、クリアしてる人はいるだろうけどその場合素材集めとかしてそうだからね……」
「相手の動きが良すぎて当たらないのも問題なんだよな。レベルを上げようにも2、3上げたところで焼け石に水だし」
エクストラスキル込みなら多少のレベル差は何とか出来るが地力が足りなすぎる。そもそもモンスターに技量で負けている時点で勝てる見込みがゼロ。NPCにやられるなんて、流石に……いや色々負けてるな、最近のVRは凄いなあ……いやAIの方か?
「他何か情報は?」
「えっと、あのバヨネットの装弾数は6、リロードで若干隙が出来るからなるべくそこを突くって感じだね。攻撃手段は奇天烈なのは無いらしいから普通に戦って大丈夫」
「大丈夫ってか小細工あったらそれこそ無理だろ」
確かに攻撃はバヨネットのニ刀流で、近距離にいる相手には銃の方は使ってこない。まあ離れると普通に使ってくるので斬られて死ぬか撃たれて死ぬかなんだが……どっちも精度が高すぎて話にならない。時間制限がある以上、火力で押し込んだ方が良いんだがなあ……どうしたものやら。
「そういや、アポロさんはどうしたんだろうな?」
「もうクリアしてたりするんじゃない?」
「いえ、まだです」
「わっ!?」
「い、いつの間に?」
「今です。名前を呼ぶのが聞こえまして」
「あ、ああなるほど……意外ですね、もうクリアしているものかと」
「50階層のボスの事ですよね?打ち合っていると30分経ってしまいまして。もう少しあれば倒せるんですが……」
いや少し時間を足すだけで勝てるのは凄くないか?それにしてもアポロさんがクリアしていないのは意外……いやそもソロだったよな、意外と考えるのはヤバい。
「というわけで組みませんか?」
「「え?」」
「それは良いんじゃないでしょうか!火力の問題ならアポロさんも安心ですよね?」
「それはそうだね……」
コトネさんは諸手を上げて賛成、俺達は反対じゃないが提案が意外でな。
「何で俺達のパーティと?」
「不足は無いと思いますけど……理由を挙げるなら直近で一緒に戦ったコウさんがいるからとかですかね……?」
「ああ、なるほど……」
普通にちゃんとした理由だった。まあそりゃそうだよな、こちらもアポロさんが加わってくれるなら火力は十分だ。アポロさんもあと一押しが欲しいだけだから俺達でも大丈夫だろう。若干おこぼれ感がなくもないが、キニシナイ。正攻法でクリア出来るならそれが1番だろう。




