第三十一話 うざいゴリラ
「それで、こっちのボスは……?」
「ゴリラだって」
「ゴ、ゴリラ?」
「うん、ゴリラ」
「ゴリラですか……」
この森フィールドのボスはゴリラという情報だが、全然イメージに合わない。ジャングルとかに生息していそうなイメージで、残念ながらこの森は普通の……日本でいう普通の森である。東南アジアとか南米とかの方だと、普通の森の意味が違うからね。なのでこの森でゴリラというには若干チグハグな気がする感じがするわけだが、まあそこら辺は無視無視。いつものイプシロンさん情報だと周りの木々を巧みに移動しながらの単純パワータイプらしい。シンプルな為対策は立てやすいか、シンプルだからこそ強いはずだ。ギミックタイプとかならそこを突けば一気に弱体化とか倒せたりするもんだがこういう場合は普通に強いっていう逆に面倒なタイプだからな。ゴブリンだってレベルが100になればそれなりに強いだろう……ちょっと違うかな?
何はともあれ、そのゴリラさえ倒せばこの迷宮も残すところ10階層、遂にゴールが見えてきた。
「後のステージはダンジョン風だってね」
「多いけどそれがメインだからなあ。まあドロップも銃士系統以外にも活用できるみたいだから考えられていなくもないし」
とにかく頑張りましょう……ほら」
コトネさんが指さした先には多少木の間隔が広くなっているスペースがあり、ボスやプレイヤーの移動にあまり邪魔にならない感じとなっていた。完全な広場となっていないのはボスが木で移動するためかな。そしてそこの大体真ん中辺りにはゴリラがいた。
「まんまゴリラだな」
「本当にモンスターなのかな……」
「一応ボスモンスターですし……」
見た目は完全に図鑑とかで見るゴリラ。強いて言えば現実のものより大きいかなと言ったところか?
「ウッホーー!!」
こちらに気づいたゴリラは雄叫びをあげドラミングをし始めた。
「あからさまにゴリラを主張してるぞ、アイツ」
「リアルはウホじゃないらしいよ……うわっ!」
ボスゴリラは飛び上がり、その勢いでこちらへと拳を振り下ろしてこちらへと攻撃してきた。パワーというか物理的なステータスが高いのだろう、想定していたよりも大分素早い攻撃で間一髪避けるという自体になってしまった。振り下ろしてきた拳の威力も高く、派手に地面がひび割れている。
「いやー、気をつけた方が良いね。そもレベルで言えば2人より高いんだし」
「それもそうですね。結構機敏なゴリラですね」
初撃を躱されたゴリラは木に飛び移り、移動している。その動きはとても機敏で追いかけるのが厄介だ。シンプルなだけにやりにくいな。
「ウホッ!」
「そらっ!」
こちらへと向かってきた攻撃を躱し、返す刀でダメージを与える。体の強度はそれなりだったが、それなりで済んだ。ダメージらしいダメージは普通に与えられたので倒す事自体は可能だな。ショウも1度攻撃を受けた様で、ショウの防御力でも中々のダメージだったらしく、攻撃を受けるのは悪手だな。
「ウホッ、ウホッ」
「うわ、イラつく」
行動パターンはゴリラというかギャグっぽいゴリラだな、アレ。DPSが低い俺達を笑っているのか枝からぶら下がりこちらを向いて挑発してくる。表情豊かすぎて普通にイラつく。というか木の枝頑丈だな。まあアタッカーの俺のレベルが低いのもあるだろうからとにかく攻撃を当てていかないとやってられん。
「ショウ、面倒だから楽しよう」
「え?あー、そうだね。良いんじゃない?イラつくし」
ショウの同意も得たので、早速【貫牙剣】を使う。楽なスキルに頼りすぎるのもどうかというスタンスだったが、使う時は使うべきだな。よーし、スパッといっちゃうぞ!
「ウホ?」
さっきと同じ様に向かってきたゴリラに向かって一閃、完全に油断していたのだろうか首をすっぱり断てた。ギャグ的ゴリラ思考のせいなのか【貫牙剣】にも察知しなかったな。悪い意味で猿頭だったなあ。
「よっし、一撃」
「お見事お見事」
「凄かったですね」
凄いのはスキルの方なんだよなあ。ぶっ壊れだよ本当。イラつくゴリラも倒せたし、次に進もう。
「まあ進もうか」
「そうだね」
「そんでもってダンジョン風になるんだな」
人の手が入ったレンガ調の綺麗な壁。床も綺麗だが、所々に罠が仕掛けられているのだから厄介なものだ。明かりは松明がかかっているタイプのものもあるが、このゲームは謎の明かり方式である。構造は単純だが、結局罠の対策をしていないため中々にハードモードだ……いやまあ、自業自得なんだけどね。
「この先10階層同じでしたよね」
「そうそう。敵モンスターも機械系なんだけど……」
「どうかしました?」
「ああいや……あっ、ほら百聞は一見にしかずだよ」
通路を曲がってやって来たのは、機械系は機械系でもこれまでの四足歩行型や動物型と違って人型だった。手にはメカメカしい剣を持っており、中々厄介そうだ。
「人型かあ……」
「バリエーション豊富ですね」
「ほら来るよ」
階層が深いのと1体で出現するのもあって、その動きは中々素早く一撃は重かった。初撃は俺の方に向かって来たので刀で受けたが、結構な衝撃が伝わってきた。ここまで来るともうそこらのモンスターでも気は抜けなさそうだ。
「【刺突】!」
先手は取られたが勢いのある攻撃で体勢が崩れればと思ったが、難なく防がれた。くそっ、自信無くしそう……!このまま攻めたとしても時間はかかりそうなので大人しくショウの後ろへと下がる。
「流石に手強くなってるね」
「これが後10階層か……キツいな」
敵モンスターは剣を振りかぶり、こちらへと迫ってくる。すかさずショウが盾で防ぐが何やら相手の剣の様子がおかしい。光っ……いや熱だこれ。
「ちょっとォ!?」
「うわ、【抜刀】!」
このままだとショウの盾がやばそうなので顔面に向かってスキルを発動する。流石にもろに当たったので一気に引き剥がせた。
「大丈夫か?」
「ああうん、思ったより。それでも耐久はそれなりに削られたけどね」
「そうか……というか、ヒートソードとはな」
「ちょっとくすぐられるけど……さっさと倒さないとね」
熱を使った攻撃は一時的なもので、改めて目を向けた時には既に元の剣の状態に戻っていた。そこからは打ち合いとなったが、そこは手強いとはいえただのモンスター、行動パターンにも限界があり慣れればダメージをそれなりに叩き込める様になった。もちろんショウも盾で弾き飛ばしたりと援護してくれているので、人体の急所辺りを重点的に攻撃すれば倒せた。ドロップした物はモンスターが持っていた剣の劣化版の様な剣だった。
「なんかショボくなってる……」
「まあドロップ品なんてそんなもんでしょ」
「ここから強化していくんでしょうね……」
「そうだよなあ……じゃあ進むか」
相手の強さも分かったし、ドロップ品も傾向は今までと同じ様な感じだろう。思いがけず武器を手に入れたわけだが、強化しようにも金はかかるだろうし、そも装備出来ないしな。ちなみに武器丸ごとのドロップは結構なレアだったみたいだ。




