第十一話 森の手引き
「おっ来た来た」
「あれ、早いね。モンスターでも倒してたのかい?」
「まあ、そんなところだ」
「……まさかまたエクストラモンスターと遭遇したとかないよね?」
「いや流石にそれはないわ」
まあエクストラスキルを持ってる謎のプレイヤーとは会ったけどな。あの後少し探したら同じ蜘蛛のモンスターを見つけたもので、それを倒して戻ってきた。倒してみた感じやっぱりあそこまで謝られることじゃなかったなあ……高レベルプレイヤーみたいだったしもしかしたら知ってるかもしれないな。
「青髪で小柄で刀を装備した和服もどきのプレイヤー?」
「そうそう、射程長めの斬撃を飛ばしてな、蜘蛛が真っ二つだった」
「うーん、多分それアポロさんじゃないかなあ?」
「アポロ?」
「うん、基本ソロで動いているプレイヤーでね、少し前にあった闘技大会のイベントの個人戦で優勝した人だよ」
個人戦で優勝か……どうりで手慣れてたり、あんな大量のアイテム持ってたりするわけだ。それだけ実力があればソロで素材集めもこなせるか。
「それに彼女、エクストラスキルを複数持ってるらしくてね、最低でも3つ持ってるみたいなんだけど……1つは集団で討伐したから大体の特徴はわかってるけど他の2つはソロで倒したのかあまりわかってないんだ」
「3つかそれはすごいな……初日組でも遭遇したことすらないプレイヤーもいるんだろ?」
「そうだね、僕はたまたま1回討伐に参加できたことがあるけど、もちろんスキルは手に入れられなかったからね……タンクが活躍できるタイプじゃなかったのがね……知り合いのタンクに1人エクストラスキルを持ってる人がいるからもう運としか言いようがないね」
「そんなるとプレイ初日で遭遇してしかも倒せたのは奇跡だな」
「本当にね……そういえば話を戻すけど聞いたところ彼女と会話したのかい?」
「そりゃしたけど……どういうことだ?」
なにやらショウが言うには彼女……アポロさんはソロで活動しているのもあって滅多に人目につかずしかもその雰囲気あって寡黙で人付き合いをあまりしない印象になっているらしい。確かに話していた時もあんまり表情動いていなかったしそうなってしまったのはわからなくもないが……寡黙?まさか声が小さすぎて聞こえなかったとか?最初聞き取りづらかったし……そうなるとなんとなく残念な感じがするな、悪い人ではなかったし伝わってる印象も相まって近寄り難くなってるみたいだし、まあ本人がどう思っているかによるけど。
「結局この大量に渡されたアイテムどうしようか?」
「別にお詫びとして貰ったんだから、好きにすればいいんじゃない?過剰だとは思うけど」
「そうするしかないか……これどの辺の素材?」
「違うものもあるけど……うわ大体8、9番目の町あたりのだよ。よほど金に困らない限り死蔵だね……今装備にしても良くないしね」
今装備にしても装備の補正に振り回されそうだからな、地道にレベルを上げていくというか慣れていかないとVRゲームは普通に足を掬われることがあるからな。
「す、すみません!私時間聞き間違えましたか!?」
ショウと話しているうちにコトネさんが来たみたいだ……なんか最初に会った時もこんなやりとりした気がするな。
「あはは、大丈夫だよ……今20分前だね、いやみんな集まるの早いなあ、早くて悪いことはないしもう行くかい?」
「ああいいんじゃないか?……コトネさんは?アイテムとか大丈夫?」
「は、はい!コ、コウさんのおかげでほとんど使ってないので!」
いやあコトネさんは元気だな、中学の時はおとなしい印象だったが普段はあんな感じなのか、それとも興味のあるゲームで気分が上がっているのかどちらにせよ元気なのは良いことだ。全員の意見も一致したのでパーティを組んでとりあえずツヴァイアットへと向かう。ツヴァイアットとフィーアルの間にある山を通ってもいけるみたいだが、平均レベルが高いためいまは1回ツヴァイアットへ戻った方が早いそうだ。道すがら遭遇したモンスターを倒したり、話に花を咲かせたりしてフィーアルへと続く森フィールドの入り口へと到着した。
「……見た目は普通の森だな、普通の基準知らないけど」
「そう見えるでしょ?けどこのフィールドは実は盆地でね、最初に入った時は驚いたよ」
森の外から見るとほぼ平坦な森に見えるが、その実は中心に近づくごとに下り坂になっており木々も巨大になっていくと言う。中心部になると下手なビルぐらいの高さと太さらしい……確かに驚くだろうが若干ネタバレじゃね?まあ俺はネタバレそこまで気にしないタイプだから話したんだろうけど。
「それでね、森だけあって虫のモンスターも出るけど基本的にはいきなり攻撃しないで欲しいんだ……あっ、コトネさんはそもそも虫大丈夫?」
「あ、はい大体の物は大丈夫です、触るのは種類によりますけど……でも、その台所の悪魔はちょっと……」
「大丈夫大丈夫、このフィールドには出ないから」
……違うフィールドには出るのか……出ただけで騒ぐほど苦手ではないが普通に嫌いではあるのでできるなら遭遇したくないものだ。
「てかいきなり攻撃するなってデバフでもかけてくるのか?」
「んー、ある意味デバフみたいなものかな。アトラクトバタフライっていうのがいるんだけどその幼虫が本当に質が悪くてね……」
……アトラクトバタフライ、その名の通り他の虫が好むフェロモン的なものを放出して虫を惹きつけ身を守るらしい。これだけならまだしも更に擬態能力があるらしく、飛ぶことはできないが見た目を様々なモンスターに変えることができ、これが質が悪いとされる原因みたいだ。原理は幻覚みたいで何かしらでで優しく突けば数秒解けるだけで済むのでいきなり攻撃するプレイヤーはほとんどいないようだ。
「あの……確かに厄介だとは思いますけどそんなに数を呼ぶんですか?」
「数は……場所にもよるけど20体近くだね。このフィールドの適正レベルだったらパーティでも全滅する可能性はあるし、何より割と高確率でやばいのが出るんだよ」
なんとそのアトラクトバタフライの幼虫が出すフェロモンはこの森の生態系の頂点であるタランドゥススタッグビートルというショウが言うには結構でかいクワガタも引き寄せるらしく、しかも推奨レベルがこの森のものより10も上になるほど強いらしい。そりゃあ質が悪いと言う評価も納得だわ。
「ん?フィールドボスって梟なんだろ?生態系の頂点はクワガタなのか」
「ま、厄介だったり際立って強かったりするのが虫なだけで動物のモンスターも普通にいるからね……ちなみにそのクワガタをトレインしてボス梟にぶつけてみたら呆気なく捕食されたみたいだよ」
「一応フィールドボスなのに……なんか可哀想ですね」
「まあその場合先には進めないけどね、誰かさんは心当たりあるんじゃない?」
喧嘩売ってるのかこいつ。まあね、俺はエクストラスキルを持ってるから、持ってないこいつにマウントを取れるからね、そう考えればほら冷静!
「ははは、エクストラスキル持ってない奴がよく吠えるじゃないか〜」
「初期ジョブの君が僕に勝てるとでも?タンクだから君を押しつぶすぐらいのSTRぐらいはあるんだよ?」
「墓穴を掘ったな、いくら高レベルでもタンクの速度は高が知れている。そして俺には防御力無視のエクストラスキルがありたとえお前でも簡単に解体できるのだよ!」
「ぐっ……生意気な」
うん、全然冷静じゃないね。自分で思っていたより肉食ハムスターのせいで次のエリア行けなかったこと気にしてたみたいだわ……さてどう収拾つけようか。
「あ、あのよく分からないですけど喧嘩はその辺で……」
いたわ収拾つけられる人……ごめんね一瞬忘れてた。
「……じゃあそろそろ気を取り直して森に入ろうか」
「そうだな、この件は2度と触れないこととしようか……コトネさんごめんね、ありがとう」
「ひぇい、どういたしまひて」
「うーん、これは好感度が上がった扱いでいいのか……?」
「ん?なんか言ったか?」
「イヤナンデモ。じゃあ虫をあまり刺激させなければいいから午前と同じでコウ先頭ね」
「へいへい」
さーて鬼が出るか蛇が出るか……まあ虫か。




