第三十話 シンプル
「いやー、相変わらず暑いな」
「ここは草原の時とは違って夜にはならないんですね……暑いです」
「なったとしても極寒に変わるだけだろうけどね……暑いなあ」
「俺としては暑いのより寒い方がまだマシだけどな。着込めば良いだけだし……いやここだと勝手が違うか」
着込む事自体は出来るのだろうが、システムやら何やらで制限されそうで面倒臭そうだな。そもそもそれ用の防具やらポーションやらはあるみたいだし。砂漠の夜はクソほど気温が下がるというが、それは地上のフィールドの方であるみたいだ。まあ環境対策の装備はその内考えれば良いかな。
俺達は今35階層にいるので、つまりはボス戦。さっさと進めて次へと行きたい。俺がどっかへ流されてしまったから中断してたからなあ。
「えっと、ここのボスは……?」
「砂で出来たゴーレムみたいだよ」
「コアを破壊すれば良いとか何とか言ってたな、イプシロンさんが」
コアが体の中を移動するタイプの様で、山程攻撃すれば何とかなると言っていた。この前の青龍と違って弱点が分かりやすいのはとてもありがたい。まあ階層も少し深くなってきたので油断はしない方が良いがそれはそれ、あの四神達よりは幾分楽だろう。まああの時はアポロさんという大火力があったのもあるか。うん、油断はしないから大丈夫だろう。
「あ、見えてきたね」
「あれかあ……」
見えてきた件のゴーレムは体長約3メートル、見た目は砂で出来た人型だった。顔当たりは3か所が窪んでいて顔の様に見えてこなくもない。なんだったっけシ、シミ……もう良いや思い出せん。とにかくすごいシンプルな見た目で、砂という流動性のあるもので作られているからかはっきりとした関節も見えず体型も寸胴だ。それにゆらゆらと動いていて、小さくすればどこかの土産屋にでもありそうだ。旅行時の勢いで買って後から後悔する感じだな。
「若干腕とか伸びるそうだから気をつけてね」
「了解」
「はい」
特に何かモーションがあるわけでもなくぬるっと戦闘開始。ゴーレムの方は事前情報通り腕や足は伸びる様で、完全に攻撃の延長線上から外れないと回避が難しいものだった。来ると分かっていればそこまで回避は難しくなかったが、選択肢が狭まる分面倒臭い。砂で出来ているのもあって攻撃は多彩だが、隠しフィールドで散々素早い攻撃は見てきたのでどうという事は無い。ショウとコトネさんは固まっているので存分に注意を引きつけてくれている。俺も攻撃の合間を縫って、ゴーレムの方に攻撃を当てていくが、全然コアに当たる気配は無い。
「ふっ、とっ……どこにあんだよ……!」
3メートルと微妙にでかいせいでくまなく攻撃を当てづらい。イプシロンさんによるとコアの移動速度はそこまで速く無く小さすぎるわけでも無いとのことなのでただ運が悪いだけか。攻撃し続けしていたせいかこっちにヘイトが移ったが、今までがそもそも範囲が広めだったので問題無い。動きにも慣れてきた……そこ!
「良し!」
ガキンという音と共に刀に感じる確かな手応え。ようやっとコアを探り当てる事に成功した。流石に1回では破壊できず、どっちにコアが動くかで数回外したがその後は命中した。そして無事コアを破壊、ゴーレムはドロップ品を残し散っていった。
「ふう、終わりっと」
「お疲れ、何か動き良くなってない?」
「そうですね、凄かったです」
「そうか?」
この前のボス連戦と、格上のアポロさんの動きを色々見てたからかな。結構参考になるところはあったし、目に見えて良くなってるなら良い経験だったんだなあ。
「じゃあどんどん進んで行こうか」
「次は森でしたっけ?」
「そうそう」
早速次の階層へ。転移した先は極めてテンプレートな森と言った感じで、一周回って人工的な感じが凄い。ドライタルの森はファンタジー感溢れる森だとしたら、ここはリアルで2、3時間移動したら辿り着けそうだ。更に少し辺りを見回しても完全に平地なので普通としか言いようが無い。
「森ですね……」
「森だ、という感想しか出てこないね」
他の2人も似た様な感想らしく、とりあえずいつもの通り雑に進んでいく。ここもというか、木で更に方向が分からないのでマッピングしても時間はかかりそうだ。草原や砂漠と違って目印をつけられなくもなさそうだがどうせ役に立たないだろうな。
「そこら辺どうなの?」
「数分で消えるみたいだよ。この広いマップじゃ全然足りないね」
「大変ですね……」
「そういえば昨日の隠しステージとやらで魔法手に入れたんでしょ?」
「え?ああそうだな」
隠しステージでの報酬の事か。確かに手に入れて説明文も読んだし、少し使ってみたはみたんだがなあ。
「結構使いづらいんだよ」
「使いづらい……?」
「へえ、発動条件が厳しいとか?」
「いや、どこにいようがどんな状況だろうが発動自体は出来るんだけどな。強化系なんだけど、普通に使っても2次職のジョブ補正に劣るというか」
「ふーん、一癖あるみたいだね。まあエクストラスキル程でないにせよ中々レアな部類だからそんなもんじゃない?」
「あれ、ショウも持ってるんだよな?」
「1つだけね。コウみたいに隠しステージで……みたいな特殊な手に入れ方じゃないからレアといえばレアだけど普通な方だよ。デメリットが微妙に重いから基本使わないけど」
「見た事無いからですからね」
ショウも似た様な類の魔法を持ってるらしいが、どういう経緯だったのやら。まあ後で聞けば良いか。そりゃ1個ぐらい奥の手は用意してるよなあ。
「考えてみるとなんでこう、コウばかりレアな事象に出くわすんだろうね……?」
「日頃の行いじゃね?」
「じゃあ僕はエクストラスキル10個ぐらい手に入れてるはずなんだけど?」
「何言ってんだコイツ」
「君こそね……!」
「お、お2人とも……きゃ!?」
冗談で暇を潰そうとしていたが、そうはいかずモンスターがやってきた様だった。強い風と共に俺達の間を通り抜けていったソレは、俺とコトネさん、ショウは見た目が分かりづらいだけだろうが切り傷をつけてダメージを与えてきていた。再度俺達に攻撃するためスピードが落ちたところをよく見ると3匹の鎌が付いた動物系のモンスターだった。
「鎌鼬?」
「イメージそのままみたいですね」
多分3匹セットなのだろう、その鎌鼬は方向転換し、こちらへとまた向かってきた。流石に来ると分かっていれば対処はまだしやすい。
「【抜刀】」
位置が丁度良かったので、2匹いっぺんに断ち切る事ができた。どうせなら3匹いっぺんに倒したかったが、そう上手くいったら苦労しないか。残った1匹は纏う風も弱々しく、動きも大分遅かったので楽に倒せた。
「一応回復しますね」
「ありがとう」
「……あ、見た事あると思ったら」
「どうした?」
「いや同じのが地上のフィールドにいたんだよ。あとアレ、3つで1匹らしいよ」
「へえ、オリジナルじゃないのか。というかそういうモンスターなんだろ?」
「いや1匹扱いじゃなくて、1匹なんだってさ」
「ん?は??」
クソよく分からない説明をどうもありがとう。すげぇ分かりづらいが、まあ分からなくもなくもない様な気がしないでもない。体が3つなのにどう1匹なんだか。そしてどう調べたんだ。ショウも詳しくは知らないらしいがその程度なら言わないで欲しかったなあ、結構気になってくる。迷宮の攻略終わったら調べている所に寄ってみるかな。後迷宮のモンスターって完全オリジナルじゃねぇのな。




