第二十六話 青龍
青龍のいる部屋に着き目に入ったのは、最初に確認して通り、鱗の様な物こそ青いが鱗の下の体は完全に木でできた東洋龍だった。本当に龍なのか怪しいところだな。今までの3体はまだちゃんと生物してたが、木なのか龍なのか。
「じゃあ気張りましょうか」
「そうですね」
戦闘が始まって十数分経った。これまで3体の中ボス的なモンスターを倒してきたわけだが、俺とアポロさんの臨時パーティからすれば1番厄介なのはこの青龍なのは間違いなかった。だが朱雀の様に触れたら危険というわけでも、玄武の様に変に素早くなったり白虎の様にやたら硬かったりするわけでもない。というか結構スッパリ斬れる。いやもうスパスパ斬れまくる。若干楽しくなってくるぐらいに。しかし状況は全く楽しくなく、斬れたそばから生えてきて元通り。再生にしても何かを消費している様子もなく、ギミックタイプの敵の様だ。
「はあ……何か分かりました?」
「いえ……あまりこういった事は得意ではないので、斬って倒せるなら楽なのですが」
確かにそうだが、色々と物騒な言い回しですね。さてどうしようかな、この手の敵は何処かにコアみたいな物があるのが定番だが、とりあえず見える部分にはそれらしい物やヒントも無い。まあ目に見えてそういう場所があったら興醒めだし、青龍からしたら心臓剥き出しだから流石に無い。どうしたら出現というか判明させるのかヒントが無いのでどうしたものか。
「とりあえずこのまま斬っていきましょうか。コアが物理的にあるなら可能性は無くも無いだろうし」
「そうしましょう、それなら得意分野です」
そうしてアポロさんと斬っていくが、青龍がへばる様子は全く無い。それどころか逆にどんどん体長が伸びていっている様な?斬りまくっているのは悪手だったと感じなくもないが、そも他に方法が考えつかない。こういう時ショウみたいな考察が得意な奴がいてくれると助かるんだが。他のゲームで似た様なモンスターの経験はあってもそれがそのまんま活かせるわけじゃない。アポロさんも得意じゃないみたいだし、まあそもそもいないのでしょうがない。足りない頭を回して、青龍の攻撃を避けながら考える。アポロさんが今もざんばらりんと斬りまくっているが、コアとかそういう事に当たる気配は無い。流石にこれだけ斬って当たらないのは考えづらく、体の中を移動しているとしてもそれは無いはず?じゃあどこに……部屋?辺りを見回してみるが、他の部屋と同じく特に何かがあるわけではないみたいだ。何か怪しい部分があるとかそういう物も無い。あー何なんだか……あれ?一瞬見えたが、青龍の尾の先から細い枝みたいなのが生えており、床へと続いていた。こちらの攻撃もあまり避けずあの場所から動かなかったのはそれが理由か。上手い事隠していた様だが、アポロさんの猛攻のおかげで一瞬見る事ができた。よく見てた甲斐があった。アポロさんに伝えないと。
「アポロさん!根元!」
「根……?あっ、なるほど」
超簡潔に言ったが、それは伝わった様で攻撃する場所を床付近に集中し始めた。青龍も危険が迫っているので攻撃が激しくなるが、攻撃に俺も加わり攻撃する余裕をなるべく無くしていく。体の脆さが仇となり、アポロさんの一撃によって尾から伸びていた細い枝はスッパリと断ち切られた。青龍はその後も多少暴れていたが、やがて動きを止めて崩れ落ちた。その体はどんどんと枯れていき、朽ちていった。
「倒……したんでしょうか?」
「いや第2形態は……?まさかの無いタイプ?」
「いえ、玉がドロップして無いですね」
アポロさんの言う通り、肝心の玉がドロップしていない。それに青龍の体は朽ちてはいったが消えずにそのまま残っている。本当に死んだのならとっくにエフェクトになってドロップ品に変わるはずである。それが無いという事はつまり青龍はまだ死んでいない。身構えていると部屋が揺れ始め、床の所々に罅が入っていった。
「地震……いやこれは」
「出現シーンですかね?」
これで第2形態かあ、どう出てくるんだか。地響きの音が止み床から飛び出してきたのは大量の青龍だった。ヤマタノオロチ的な……いや龍だし、尾はどこだよ。体は8本以上あるし、えーと?大体12、3本?
「多くね……?」
「少々厄介ですね……」
少々で済むの?それもやばくない?いやまあアポロさんならと納得できてしまうかもしれないが、俺の方はやばいんじゃないか?というか、どうやったら勝てるんだ。状況が進んだのは良いのだが、さっきよりも悪化してるんだが。
「というかコアどこ?」
「多分あれ……かと?」
そう言ってアポロさんが指差した先には1番奥の龍の首、見た目が何かちょっと豪華な感じがするのがいた。そしてその龍の首には額の部分には綺麗な青い玉が。うーんアレだな、絶対アレだ。あからさますぎてダミーの可能性がプンプンするが、とりあえず目標はアレで良いか。
「まず周りの首を何とかしないとな……」
「いえ将を射んと欲すれば……将を叩っ斬った方が速いです」
「ええ……?」
何か凄い頭の悪そうというかそれが出来るなら苦労しない発言と共にアポロさんが斬撃を放つ。しかしそのままならコアに直撃したであろう斬撃は、別の龍の首2本が邪魔をした事により届く事はなかった。まあ流石にそうなるよなあ、すぐ倒せるなら苦労しないか。というか斬られた2本も元通りになったし、数は固定か。数が増えた代わりに多少脆くなっているみたいだから避けるか破壊して近づけってか。
「とりあえず斬って射線を空けないと……!」
「近づいたらそれはそれで囲まれたりするしな……」
周りの首の1つに一太刀入れてみたところ、【貫牙剣】無しの俺でも4、5回攻撃すれば首を斬れるぐらいには脆かった。とりあえず何とか斬って隙を作るしかないので2人で斬っていくが、全然作れる気配が無い。首の再生の速度がクソ速い上に、コアのある首と他の首の位置交換までするから面倒な事この上ない。
「……しょうがないですね。コウさん10秒作ってくれませんか?」
「え、あ、はい。えー……【貫牙剣】」
何をやるのかは知らないが何とかしてくれるんだろう。アポロさんに向かっていく首を斬り飛ばし時間を稼ぐ。【貫牙剣】なら効率も上がるので13、いや12対1なら10秒ぐらいは……あ、ちょっとキツい。
「……『黒天』」
アポロさんがそう口にした瞬間、アポロさんの刀が黒い炎に包まれた。うわ、カッケェな。スキル、いや魔法かな?何だアレ。
「ハァ……!」
アポロさんが刀を振り、炎を纏った斬撃が首を5本斬り飛ばし、さらに燃やしていく。強化具合がおかしくねぇ?ま、まあこれで倒せそうだ。
「コウさん、コアはお願いします」
「了解……!」
よく分からないが、アポロさんはあまり移動できない様で、俺がやるしかないみたいだ。【貫牙剣】の残り時間も十分、問題は無しだ。アポロさんの強化された斬撃のサポートのおかげで先程までとは段違いに近づきやすくなっている。コアのある首にいよいよ接近し、コアを狙うが残っていた首が割り込んでくる。だがこれぐらいなら難無く断ち切れる。斬った首を足場にしてコアへと飛びかかる。
「ふっ!!」
コアはすっぱりと斬れ、全ての龍の首は倒れていく。ダミーなんて事はないようで、そのまま散っていき玉は問題無くドロップした。これで4体倒したわけだから先へと進めるな。アポロさんの炎もいつの間にか消えているが、何故か動かない。
「アポロさん?」
「あ、すみません……ゲホッ!」
「うわっ!?」
まさかの吐血、いや吐エフェクト。いきなりどうしたんで?




