第二十一話 一本道
「……アポロさん?」
「コウさん……何故ここに?」
砂に飲み込まれ、成す術なく流れ着いた先にいたのは「個人最強」とか呼ばれている、最近はコトネさんに色々付き合ってくれているアポロさんだった。アポロさんも何故ここに……アポロさんも流れ着いてきたのだろうか?
「アポロさんも流れて?」
「あ、はい……1人で進んでいたら足を取られて……」
「そうですか……1人」
うーん、1人でここまで進めるのか。まあアポロさんなら納得だけどな。
「……罠とかどうしてたんですか?」
「あ、罠はサブジョブ変えてスキルレベル上げました。マッピングもスクロールで何とかしたので」
「……レベル上げるの結構時間かかりますよね?」
「ずっとこもってたら上がりますよ……?」
「ソッスカ……」
ずっとってどのくらいなんだ。凄いとは思っていたが、廃人レベルじゃね?スキルは2、3ぐらいならまだしも6、7、ましてやそれ以上となると大分時間がかかるはずだが……どれだけこもってたんだか。時間聞くの怖いな。
「えっと……どのくらいここに?」
「あ、それは……」
詳細を聞いていくが、久しぶりに声を聞いたが少し大きくなっているような……気のせいか?まあ慣れたし会話する分には問題無いから別に良いかな。アポロさんによると落ちたのは2日前らしい。まさかの日単位かよ。
「あの連絡とかは……?ここシステム使えるみたいですけど」
「申し訳ないと思いまして……」
「いやシステム上ですけどフレンドなんですし……」
「それに助けて貰おうにもここに来れるか分かりませんし」
「そういえばそうだな……」
落ちれば良いのだろうが、そう単純な物ではないだろう。沈んだ所で普通にちゃんとした罠かもしれないし、ここに着くとは限らない。
それにここに着いた時はずっと真っ暗で、手探りでこの部屋を調べたが全く何の手がかりもなかったらしい。ランプを点けると扉らしき物を発見したけれど、攻撃してもびくともしなかった様だ。幸いというか当たり前というかログアウトはできたので、その後はちょくちょくログインしてみたそうだが進展はゼロ。今も一応ログインしたところ、何かに触れられていると思ったらこうして明かりがついたそうだ。触れたって俺か、そういえばこの部屋何処が光ってんだ?システムの範囲かな。それにしても俺が丁度落ちた時にログインしたのか、タイミング良いな。
「何で明るくなったんでしょうか……」
「俺が来たからか……?2人にならないと駄目だったのかな」
考えられるのはそのぐらいだし、今更考えてどうにかなるものでもないだろう。
「とりあえず他の人を呼べるのか確認しないとな……落ちたのどこら辺だったっけ」
連絡する前に自分が落ちた辺りはどこだったのかを思い出そうとする。場所が分からないと助けようもないはずだからな。
「あれ、パーティでいたのでは……?」
「え、今日は1人ですけど?」
「……?お1人でボスに?」
「いや……アポロさんどこで落ちました?」
「35階層です。ボスのところに行こうとしたら足を取られまして」
「俺……32階層ですね」
これはもう増援は望めないかな。1階層でもクソ広いのに5階層分は流石に無い。これで来れたらどんな豪運なんだか。コトネさん……いや分類違うか。
「助けは無理そうですね」
「そうですね、進むしかないか……」
唯一この状況をどうにかする手がかりである扉へと目を向ける。まあ進むしかないんだろうな。アポロさん1人の時は開かなかったんだろうが、明かりもついたし今なら開くだろう。早速扉に手を当て力を込める。多少抵抗はあったが、扉は開き、その先は1本道の通路だった。これも2人揃えば動く様になるのか仕様だな。
「……じゃあ進みますか」
「そうですね」
他に何も無いので2人でこの1本道を進んで行く。意外とこの道は長い様で、景色が全く変わらない。まあ分かれ道も罠も無いみたいなのでただ歩けば良いのでまだいいのだが、問題はこの状況で会話が全く無いことである。無理にでも会話がしたい訳では無いのだが、結構沈黙って辛いのな。あとこちらに視線を向けているのもそれに拍車をかけている。何故にこちらに目を向けているんですかね、怖いんですけれども。何か話題……そうだ。
「あー、最近コトネさんとパーティ組んでくれてるみたいで」
「え、あ、はい」
「……」
あっれぇ?さっきまで会話が成り立っていたはずなのに全然話が続かない。聞き方が悪かったのかな?
「どうですかコトネさんは。一応初心者ですけど大体はショウ……知り合いとかが色々教えたんですけど」
「あ、全然大丈夫ですよ。動きは慣れみたいなものですし。というか逆に一緒に組んでくれてありがたいと言いますか……」
良かった今度は多少話が続いた。
「それなら良かったですね。まあゲームのやり方は人それぞれなんで、俺が言うことじゃないんですけどね」
「わ、私で良かったんですかね……?」
「いや質の悪いプレイヤーじゃなければ……アポロさんが駄目な理由は全く無いですし」
「そ、そうですか……良かったです。あ、コトネさんとはリアルの……?」
「そうですね。友人でつるんでるんで」
「お、お友達……」
うーん、アポロさんの琴線がよく分からん。多少会話が続きこの雰囲気も和らいだ様な感じがするが、まだ道に変化は無い。今はゲームの中だからそこまで意識しなくても現実の競歩ぐらいの速度で歩ける。それなのに数分歩いてもまだ着かない。ここが地中のどの辺に位置しているのかは知らないが、これは完全に別マップだな。端から端まで行かないだろうがそれでも1階層にこんなでかい通路が埋まってはいないだろう。そもそも俺とアポロさんじゃ落ちた階層が違うからなあ。一体何なのだろうかここは。アポロさんはもちろん俺より長くやってるし、色々とユニークな体験もしているだろうから聞いてみるかな。
「アポロさんはここに何か心当たりは……?」
「えっと、多分隠しステージかな、ぐらいしか。前のイベントにも似た様な事がありまして。状況は何もかにも違いますけど」
「なるほど……」
隠しステージかあ……まあ予想通りというか可能性としてはそれぐらいなもんだろう。罠という線も無くはないが、パーティでも無い2人を用意した上、こんな長い通路を歩かせるのは趣向が違いすぎるか。若干あの鉄球を思い出すが、あれはちゃんとマップの内だったしな。慣れない考察を巡らせていくと、ついに道に変化があった。多少広くなった空間に他にもいくつか道が伸びている。道は4つ……それし俺達が来た道の向かいには閉じられた扉が1つあった。
「何か窪みがありますね」
アポロさんが何か見つけた様で、同じく扉に近づいてみると扉には何かのレリーフと何かをはめる様な4つの丸い窪みがあった。うーん、何となくここの主旨が分かった様な気がするぞ。




