第十話 エンカウントめっちゃ強い人
「なんか殺風景ね」
町に入るとアゲハがそれとなく呟く。確かに鍛治をするだけの町ですって感じだもんなあ。建物の外観がどこも同じ様なせいで道に迷いそうだ。
「じゃあ町に着いたし、とりあえずパーティは解除しようか」
このゲームはパーティメンバーを変更する時は一旦解散しないといけないのでリーダーになっているショウがウィンドウを操作してパーティを解散する。
「今回はありがとうございました。おかげで予定より早く次の街に来れたので」
「いやいいよ、たまたまパーティに2人空きがあっただけだし。まあまた装備でも作ってくれれば」
「それはもちろんです、気に入ってくれたなら僕も嬉しいので」
「私もありがたいわね……そういえばこの町縫製系の素材あるのかしら?」
「この町はやや鍛治よりなだけだからね、裁縫系の素材ももちろん流れてくるよ。量は反対のフィーアルの方が多いけど取り合いになったことはないし……次の町、王都の先は森というか雨林だから更に幅は広がるね」
「そうなんですか、じゃあレベルを上げるだけなら大丈夫なんですね」
「そうだね……ああ、貸出の生産スペースは向こうのほうにあるからそっちにいくといいよ。素材の取引所もそこにあるから」
「わかりました、じゃあ僕たちはこれで……また機会があればお願いします」
「ああ、また」
そう言って二人は生産スペースのある方へ歩いて行った。さて、これからどうしようか?
「さて、これからだけど……時間が時間だから一旦解散にしようか」
「確かにそろそろお昼ご飯の時間ですからね……」
確かに飯を抜くほど切羽詰まってないし、快適にゲームをするには健全な生活があってこそ。今日母さん家にいるしちゃんと昼飯を食うとしようか。
「一旦ってことは午後またやる感じか?」
「うん、コウはともかくコトネさんの予定が空いてればね……フィーアル側とか行ったり素材集めたりしようかなって」
「私は全然大丈夫ですよ。入学式まで特にすることもないので」
「あれ、同じ高校だったよね?課題って配られなかった?」
昨日入学手続きと同時に入学式までにやっておけと渡された課題があったはず……?
「あ、あのそれは昨日終わらせたので……これに集中したかったので、はい」
ええ、あの量を半日で?大して多くは無かったけどそれでも半日で終わる量じゃなかったはずだが……そんなにこのゲームに興味があったのか……初心者だからといってうかうかしてるとあっという間に抜かされそうだ、スタイルも違うしそも競争しているわけでもないが、俺も抜かされない様に頑張ろう。
「見当違いな方向へ考えている気がする……」
「ん?なんか言ったか?」
「いやなんでもないよ、じゃあ2人とも大丈夫みたいだから午後は色々周りながら素材集めとかレベル上げとかしようか……まあ2時ぐらいでいいかな?自由時間も含めて」
「あ、はい……!」
「おう……じゃあコトネさんまた」
「は、はい!お気をつけて!」
……俺は昼飯食べるのに危険を伴うと思われてるのか?
昼飯はリゾットでした。だから朝パンだったのかー……ただ今1時、まだ余裕があるので町をうろつくか、少しフィールドに出るか……何かあるといけないので町をうろつくか。
「と言ってもなあ……見るものないんだよなあ」
ほぼ生産施設ぐらいしかないし普通の住居みたいなのもあるにはあるが特に見て回るほどの物でもない……ちょっとフィールド出てみるか!
……というわけでやって来た荒野フィールドです。王都へと続くフィールドだが時間が時間なので奥に進む気もボスを倒すつもりもない。適当に二、三体倒すぐらいにしておこう。というか岩場の次は荒野か。フィーアル側は森の次は湿地らしいのでこっちは随分と見渡しやすい。モンスターの位置が分かりやすいのはありがたいのだが殺風景のがなあ。フィールドの特性だからしょうがないのだが、もう少し後で森に行くので考えないようにしよう。
「なんか手頃なモンスターいねえかなあ……」
……さっき見渡しやすいと言ったが実際にフィールドを歩いてみると岩やらなんやらで割と死角が多い。さっきは町を出たところから見ていたので、町が少し高台みたいになっていたのでそう見えたんだろう。これ、いきなり飛び出してくるみたいなモンスターの行動パターンとかあるんだろうなあ……なんかガサガサ聞こえるから多分いるのだろうな。音の感じからシステム的なものではなく相手も動き回ってるだけなんだろう……そこら辺も妥協せずに考えられているからこのゲームはすごいなあ。さて、モンスターが接近しているので武器を抜いておこう。なんか音が変わったからこちらに気づいたのかな?
身構えていると岩の陰から蜘蛛のモンスターが飛び出してくる。口を開け食らいついてくるので左に跳び刀で斬りつける。
「ギシャァァ!」
そこまでの強度ではなかったのか足を断ち切ることができた。動きもそこまで速くないみたいなので数分で倒せるだろう。
「さてどんな素材が獲れるか、危っ!」
体勢を立て直しこちらを向いた蜘蛛モンスターに向き、攻撃しようとし……蜘蛛の向こう側から斬撃らしき衝撃波が飛んできて蜘蛛が真っ二つになった。
「え……何……?」
確実に絶命したであろう蜘蛛がエフェクトとなって消えていき、向こう側が見えるようになると少し離れたところに武器を持った……多分女性プレイヤーがいるのが見えた。するとそのプレイヤーはこちらに気づいたのか走ってこちらにやってくる。髪型は目が大体隠れるぐらいの前髪に後ろはポニーテールの青髪になっていて、動きやすい和服みたいな装備と腰に鍔のついた刀をさしている。俺の前まで来るとこちらの前まで来て申し訳なさそうにこちらを見てくる。
「………………」
しかし何も言わない。髪の隙間からずっとではないがこちらを見て、口を開いては閉じるを繰り返しているので何か言おうとしているのかとは思うが……?
「えっと、あの……?」
「……………………その、もしかして戦闘してまし……た?」
「あー、蜘蛛のせいで見えませんでした?」
すごい小声だったがなんとか聞き取ることができた。横槍だったのを気にしているみたいだが、死角になって見えなかったようなので俺は目的があったわけでも、レアなモンスターだったわけでもないのでそこまで気にはしてない。
「そ、その……あの蜘蛛のから出る糸を集めていたので……見かけたらすぐ切るようにしていたので……よく確認してなかったんです……ごめんなさい」
「いや、あの蜘蛛に大してこだわりはないので別にいいですよ。攻撃に巻き込まれたわけでもないので……」
というか多分高レベルプレイヤーなんだろうけどあの距離から斬撃飛ばして真っ二つにできるってすごくないか?上のジョブになるとそういうスキルとか手に入るのだろうか。
「そ、それでもお邪魔してしまったのに変わりはないので……その……」
「あー、じゃあ……今蜘蛛真っ二つにしてましたけどジョブのスキルとかなんです?」
「え、あっ……さっきのはジョブのスキルではなくて……エクストラモンスターを倒すと得られるスキルで……詳しい内容はすみません」
「ああ、いえいえ、エクストラスキルだったら詳細話せないのは分かるのでジョブスキルじゃないのが分かっただけでありがたいです。」
まあ調べてなかっただけでWikiとかに載ってそうだけど……他のエクストラスキルが見れただけでも儲け物だろう。
「えっと……それだけだと大した情報じゃないので……えっと……」
「い、いや本当に大丈夫ですよ?あのぐらいのモンスターならまた見つければいいですし」
「えっと……えっと……」
あーこれ聞こえてない?どうしよう悪い人ではないとは思うんだけどなー……なんかウィンドウ操作してるけどまさかアイテム渡してくるとか?本当にそこまでしてくれる必要はないんだけどなあ。
「あっ、もうこんな時間……!どうしよう……あっそうだ…………あのこれ」
そう言って鱗みたいなものを始めとした色々なアイテムを渡してくる。
「えっと?」
「こ、これ少し前に素材集めしてた時の副産物で……あ、でも目的の物じゃなかっただけなのでゴミとかじゃなくて……あっ、売ってもまとまった額にはなると思うのでこんなお詫びですみません!」
「いや貰いすぎ貰いすぎ、というかなくても大丈夫なんだけど」
「よ、用事がありましてもう町に戻らないと……本当に失礼しました!」
言うのが早いかすごい速度でドライタルではない次の町がある方向へと走っていく。そういや名前聞いてないや、町の外だとプレイヤーネーム表示されないからなあ。てかこの大量のアイテムどうしよう?確かに今の俺には十分役立つだろうけど量が多すぎて罪悪感が……そんな気にすることじゃないと思うけどな。まあまた会えるかどうかもわからないししょうがないからありがたく貰っておこう……まだ時間あるし気を取り直して一体ぐらいは倒してみるか、今度はこんなことにならないよな?