特別授業5
数分後、竜也、凪はほぼ同時に目を覚ました。若干の痛みを節々に感じながら、2人は立ち上がり竜胆先生の前に集まる。
「お前らが起きるのに3分かかったぞ、残り時間が少ない・・・」
お前のせいだよ。と心の中で突っ込んだが、皆黙って竜胆先生の次の言葉を待つ。
「まぁ、あれだ。葵、藤林、桐生院、お前らは見込みがある。俺はこれからお前らを全力で育てる」
「「「「えええええーーー!!」」」」
生徒全員が声を揃えて叫んだ。それもそうだろう。教師という立場の者が、特定の生徒を贔屓にするとい言い放ったのだ。声を押さえつけることなど出来ないだろう。
「なんだよ!それ!教師がそんなこと言っていいのかよ!」
「そうよ!彼らだって手も足も出なかったじゃない!」
生徒達から口々に雑言が沸く。
「確かに実力で言えばお前ら全員似たようなものだった。だがこいつらは決して感情に左右されず俺を倒すことを考えていた」
「それに対してお前らはどうだ?怒りに任せて攻撃を仕掛け、勝てないとわかれば考えることを放棄し、ただ負けを受け入れた。今のお前らには国家魔導士としての素養が成っていない」
思い至る節があったのか、ほとんどの生徒が俯いていた。
「分かっただろ、明日から俺はこの3人を中心に授業を行う。これで特別授業は終わりだ。明日からの学校生活に備えて今日はもう帰るぞ」
竜胆先生が言い終わると同時にチャイムが鳴る。入学式ホームルーム終了の知らせだった。チャイムが鳴り終わると竜胆先生は教室から出ていく。残されたのは、明らかに落ち込んでいる生徒達と反応に困っている竜也、凛、凪の三人だけだった。
「くそ!新学期そうそう希望なしかよ…」
「いいよな、お前らは…」
先が見えない自分たちに対して、一年間成長の希望がある3人に対して恨みを込めながら、悲観の声を漏らす生徒達。この行動自体が彼らの悪い点だと気づくこと出来ていなようだ。
「悲観的にならないでくれ、竜胆先生は言っていただろう。今は素養が成っていないと。これから成長していけば竜胆先生も認めてくれるはずだ」
凪は、落ち込む生徒達を激励するため、先ほどの竜胆の言葉を引用した。実際、竜胆も生徒たちに気づきを与えるため、「今」という言葉をつけた。不器用なりにも、生徒たちの成長を促そうとする優しい男なのだ。
凪の言葉を聞いて、数名の生徒は多少元気を取り戻したが完全にではない。彼らのやる気を取り戻させるには、まだ何かが不足しているようだ。
「それにほら、実力は似たようなものと言っていたので、気持ちの持ちようで先生は認めてくれると思いますよ!」
「ええ、実際私と竜也より実力が上の者も多くいますし」
竜也と凛も凪に追従する形で、クラスメイト達を励ます。
生徒達は、竜胆先生に認められた3人から根拠に基づいた激励を受け、すっかりやる気を取り戻したようだ。瞳に光が戻っていた。
「ありがとう、それとさっきは悪かったな、愚痴を漏らしちまって」
一人の生徒が感謝と謝罪を口にしたことで、先ほどの愚行を行った者たちも同じように感謝と謝罪を述べていった。この一連の流れで、Bクラスに渦巻いていた邪険な空気は離散し、和やかな風が吹いていた。
廊下の壁にもたれ掛かり教室の会話を聞いていた竜胆先生は、ほんの少し口元を緩めると、職員室に向かって歩き出した。