表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の降る惑星を、  作者: 若野輪
5/15

特別授業

学級長は決まったが、ホームルーム終了まで30分以上残っている。全てのことを最短で終了させたため当然といえば当然である。しかし残りの時間をどのように過ごしていいか生徒は誰も知らない。先輩たちもこのようなホームルームは初めてだったようだ、どうすべきか考えあぐねているようだった。


「さて決めることは決めたし、ここからは俺個人の特別授業を行う・・・」


竜胆先生は突然特別授業を行うと発表した。いくら学業が熱心と言われている華鱗高校といえども、入学式、それも最初のホームルームで授業を行った前例はない。つまり今「特別授業を行う」と発言した男は異例なのである。


「先生、特別授業とは何を行うのでしょうか?」


凪は、クラスの代表として皆が抱いていた当然の疑問を竜胆先生ぶつけた。


「うーん、残りは丁度30分か。一人1分ずつ俺と演武(えんぶ)を行ってもらう。最後の5分には授業の総括をするから、後5分以内に戦う順番を決めてくれ・・・」


演武。体術・魔法、己の持つすべてを用いて対戦する競技であり、高魔連の主要種目となっている競技である。この教師は、それを今から行うと言った。その発言は、Bクラスに属するすべての生徒にとって不快なものであった。演武とは、先に記したように、己の全力を全て出して戦うものだ。どんな人間であれ、実力を100%出した状態で20分はもたない。これはボクシングでインターバル無しに殴り合いを続けるようなものだ。そんなこと常人では、いや常人でなくとも出来る者は存在しないだろう。だからこそ、Bクラスの生徒は衝撃を受け、そして憤りを感じたのだ。


「先生、失礼を承知でいいますが、我々はBクラスの生徒です。Aクラスには及ばないにしてもそれに近い実力はあるつもりです。先ほどの発言は、我々など本気で相手をするほどの相手でもないと言っているように受け取れるのですが」


Bクラスの生徒が憤りを感じた所以は、正に今の発言にある。全力で20分も戦い続けることは出来ない。にも関わらず、竜胆先生が、この特別授業を提案したと言うことは、Bクラスの生徒に対して全力を出す必要が無いと言っているようなものだった。


「その通りだが、何か間違っているか?・・・」


この教師に悪意も罪悪感も一切ない。ただ事実を述べただけと言わんばかりの表情であった。


「っ、わかりました」


凪は、竜胆先生の返答と態度を受けて苦い顔をしたが、何とか返事だけは返すことができた。面と向かって自分たちの実力を卑下されたのだ、凪の腸は地獄の窯の如く煮えくり返っていた。しかし、それを己の理性のみで抑え込んだのは学級長として流石といえる。


与えられた5分の時間を利用して生徒たちは演武の順番を決めていた。先ほどの竜胆先生の発言を受けていら立っていた者が数名いたようだ。彼らが先陣を切ることがあっさりと決まった。残りの生徒も徐々に演武の順番を決めていく。残り時間1分ほどになった時には、竜也、凛、凪以外の生徒の順番は決まっていた。演武の残りの枠は、18番目、19番目、20番目である。この三つを残して三人の話し合いは停滞していた。誰が一番最後になるかで、3名ともが最後を希望したためだ。だが、残り時間も少ない。期限に迫られた3人はジャンケンで順番を決める事にしたようだ。意気込みながら各々が手を出した。結果は、竜也が18番、凛が19番、凪が20番となった。


「よし、順番は決まったようだし。早速やるか・・・」


竜胆先生が、懐から小さな結晶を取り出すと簡易演武場が出現した。この結晶は、教師にそれぞれ配布される魔道具であり、中には一つだけ物を収納することが出来る。ただ華鱗高校の教師に配られている結晶にはすべて簡易演武場が収納されている。竜胆先生は今それを発動したのだ。


初戦の生徒である柄薔薇 焔(えばら ほむら)は、サッカー場ほどはある演武場の端にあるスタート位置に立ち、竜胆先生の発言をまっていた。


「いつでもいいぞ・・・」


竜胆先生は構えも取らず、息を吐くように開演の合図をだした。


数刻前の発言と今の発言を受けて怒りが頂点に達したのであろう、焔は手の平に小さな炎を作りだすと自身の顔の前に向かって投げた。その小さな炎はそこで停止し空中でゆらゆらと煌めいていた。次の瞬間、焔は炎に向かって大きく息を吐き出した。炎はそれに合わせて瞬時に巨大化し、竜胆先生に向かって勢いよく向かっていく。焔の最大火力である炎魔法に風魔法を組み合わせた豪炎は、確実に竜胆先生を捉えた。…はずだった。


「いい魔法だな、だがまだまだだ・・・」


竜胆先生はいつの間にか、焔の後ろに移動していた。焔は突然背後から声を掛けられたことに驚くと同時に、反射的に拳を繰り出そうとしていた。生物がもつ生存本能のようなものだろう。しかし無意志に出た拳は、またもや空を切った。完全に遊ばれていることを嫌でも自覚してしまった焔は、苛立ちながらも竜胆先生を探す。だがその瞬間、背後から気配を感じたと同時に意識を失った。竜胆先生のハイキックが焔の側頭部を捉えたのだ。


「つぎ・・・」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ