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星の降る惑星を、  作者: 若野輪
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華鱗入学式

4年後、華鱗(かりん)高校入学式


華鱗高校は国家魔導士の排出率1位を誇る名門である。


国家魔導士とは、王国直属の兵士であると共に政治、祭りごとに直接関わる重要な役職である。しかし、その特別な立場を得ることは極めて難しく、年間で国家魔導士の地位に就ける者は十数人しかいない。その針穴のごとく小さな門はほとんどとして華鱗高校の卒業生である。ここで一つ疑問が生まれる。高校生を卒業したばかりの若きものが国家魔導士の資格を与える事に対する不安と大学卒業生の方が優れているのではというものだ。しかしこのロジックには一つの答えが存在する。華鱗高校において大学進学とは一つの敗北なのである。国家魔導士になることを諦め、夢を閉ざしたものが新たな可能性を求めて進学する、謂わば、華鱗高校を卒業した者たちが大学に進むことは、自分の実力の限界を悟った形なのである。若きものが国家魔導士になることにも理由が存在する。国家魔導士にも階級は当然存在し、年功序列ではないが、新人は年長者や実力者の言動に従うことになる。若きうちから様々なことを学ぶことで長期に渡る厳格な仕事のサイクルを構築することが可能になるのだ。


「晴れて華高生(はなこうせい)か…」


竜也が校門の前に立ち独り言をつぶやく。桜が舞い散るなかで仁王立ちするその姿は、美しかった。以前のような幼さは消え立派な男性に移り変わっていた。当然として声変わりは過ぎており、低音であるが澄み切った優しい音を出していた。


「竜也!予定時間を5分も過ぎているわよ!」


凛、王家の血を受け継ぐ故か、はたまた彼女の生まれ持った才覚故か、彼女もまた「」高校に進学していた。身長は依然と変りないが、顔つきや女性特有の体つきは明らかに成長していた。子どもの頃から美しかった容姿はさらに磨きがかかり、絵画のような完成された美を体現していた。


「いいだろ、遅刻はしてないし」

「当たり前よ!この学園で遅刻なんてしたら一発で退学よ!」


この学園は校則が常軌を逸したレベルであり、罰も厳格である。平民、貴族、王族それらに一切の区別がなく皆等しく罰せられる。この学園の良いところであるが、弱肉強食を前面に押し出した慈悲が存在しない校風は、常人では到底耐えられないものとなっている。


「はぁ、まあいいわ、早くクラスを確認して体育館に向かいましょう」

「おう、そうだな」


二人は校門の近くにある掲示板に向かって歩き出した。掲示板の周りには人だかりが出来ており、近づくのはなかなか困難であった。新入生は皆華鱗高校に入学できたことに誇りを持っており、歓喜していたのだろう。合格通知が届いてから今日の入学式まで興奮が収まっていない。かくゆう竜也と凛も他の生徒ほどではないが、気が高ぶっていた。


「ほら、竜也が遅いせいでクラスの確認だけでも一苦労よ」

「そこは悪かったよ」

「そう、わかればいいのよ…」


竜也は自分に非がある場合は素直に謝ることができる。しかし、自分自身の行動に非がない、またはそう思っている間は、何があろうとも己を曲げない、そこが良いところであり悪いところでもあるのだ。


掲示板の前で騒いでいた生徒たちも疎らになり、二人が入る隙間が空いたようだ。掲示板の近くで軽く談笑していた二人はクラスの確認のため掲示板の前に立った。AクラスからFクラスまでのクラス表を前にして、二人は自分の名前を探すためゆっくりと目を動かしていた。少し時間がたったころ、二人の目はほぼ同時に停止した。二人の瞳の先に映っているのはBクラスと書かれた紙。二人はBクラスに割り振られたことを確認した後、体育館に向かってまた足を動かし始めた。


「Aクラスは無理だったか…」

「仕様がないわよ、今年のAクラス入りした1年は一人だけみたいだし。Bクラスは私達二人だけだから次席と3席は確定しているのだし、そんなに落ち込まなくてもいいのよ」


竜也は日々の訓練で実力を大きく飛躍させていた。華鱗高校入学前の3年間はすべての公式試合で勝利を収めていたのだ。ただ一度、町で出会った一人の男との野良試合の敗北を除いてではあるが。


「そうだな、3年以内にAクラスに上がれば良いし、上がれなくても国家魔導士になれればそれでいいしな」

「そうね」


二人とも納得はしていたが心の内に燻る悔しさを消せずにいた。これは、二人にとって久しく感じていなかった感情だ。同世代の中で頭一つ飛びぬけていた二人にとって、同級生に明確に負けたという事実はそれだけ衝撃的であった。強きものは敗北による苦悩を理解出来ない。弱きものの立場を経験していない二人にとって今回の敗北は一つの大きな経験を与えてくれたようだ。闘志が永遠と湧き出ている。二人は入学式が始まる前に一つ成長し、やる気に満ち溢れた表情をしていた。


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