竜胆叶威
放課後
「凛、竜胆先生の情報持ってるか?」
「初めて見た顔だったわ、でも、恐らくは元国家魔導士だし、父に聞けばわかると思うわ」
華鱗高校のクラスを持つ教師は皆、元国家魔導士である。国家魔導士とは王国に仕える存在であるため、現国王である凛の父親は、竜胆先生の存在を知っている可能性は十分にある。
「俺も家で調べてみる。あの若さで華鱗教師っていうのも、不可解だしな」
「そうね、あっ!もう迎えが来ているみたいだし、話はここまでね」
「あぁ、また明日な」
「えぇ、また明日」
凛は現国王、親望皇の一人娘だ。国王と次期国王候補には、姓名は存在しない。王位は代々長男が世襲することになっており、現在の次期国王最有力候補は、凛の3つ上の兄である天望皇子となっている。凛に姓名が存在する理由は、王位継承権を保持していないことにある。法律上は一般国民と変わらない、ただ王族出身という危険な立場であるため、護衛が一生つくことになる。
翌日
「おはよう、竜也」
「おう、おはよう」
今日も今日とて竜也は、凜より遅く登校してくる。二人で決めた約束の時間内ではあるが、ギリギリに来ることは竜也の性分のようだ。
「竜胆先生のこと何か分かったか?」
「いえ・・・。父は何か知っているようだったけれど、教えてくれなかったわ」
「ますます変だな」
国家魔導士の過去の公開名簿にも名前は載っていなかった。だが、華鱗高校の担任である故に、国家魔導士ではないなどありえない。学校側から、教師の募集要項が変わった連絡も一切ないので、まず間違いなく竜胆先生は元国家魔導士のはずだ。にも関わらず国家魔導士としての経歴が見つからなかったのだ。
「直接聞いてみるしかないか」
「そうね」
謎は究明できるどころか一層深まっている。モヤがかかったまま二人は教室に向かう。ただ例え教室につき竜胆先生に話を聞いたところで、この霧は晴れないだろうと謎の確信をもっていた。
キーンコーンカーンコーン、朝礼のチャイムが鳴っているが、未だ竜胆先生は姿を見せない。数秒間、チャイムの音が鳴り続け、録音されていた音は途絶えた。その瞬間、竜胆先生は教室の引き戸を開け、中に入ってきた。入学式のホームルームの時と同様に、今回もきっちりと時間通りに登場した。良く言えば、時間にきっちり、悪く言えば怠惰だろう。ただ、時間調整の技術が高い故、彼の授業には無駄がなく高水準の内容である。
竜胆先生が登場したことで朝礼が始まった。ホームルームの時のように、足早に挨拶を行い、早々に朝礼が終了した。朝礼には基本的に決まった時間は無いため、現在1限開始まで、かなりの時間が残っている。
「一限開始まで時間もある、質問があればなんでも聞くぞ」
華鱗高校は入学時点で高校卒業までの学力を皆持っている。華鱗は、勉学を一切行わない、卒業までひたすら魔法技術と国家魔導士としての精神を鍛える。そのため、教化別の担任は存在しない。そうなれば必然的に担任がほぼすべての授業を請け負うことになるのだ。
「質問よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「竜胆先生は、元国家魔導士なのでしょうか?」
「あぁ、去年まで現役だったぞ」
「ではなぜ、国家魔導士の過去の名簿に情報が記載されていないのですか?」
「わざわざ調べたのか?だがそれは教えられない」
凜は昨日から気になっていた質問をした。竜胆先生は、やはり元国家魔導士のようだ。だが、名簿に情報がない理由ははぐらかされてしまった。いくら追及しようとも教えてはくれないだろう。
「すいません、俺からも質問いいですか?」
「いいぞ」
「竜胆先生は華鱗高校の卒業生ですか?」
「いや違う、俺は十二天高校出身だ」
Bクラスの空気が凍り付いた。竜也と凛を除くすべての生徒が険しい顔つきになる。二人は周りの反応に少し当惑していた。十二天高校、ある意味有名な学校ではあるが、なぜここまで不穏な雰囲気になるのか理解できないのだ。
「すみません、僕からも質問があります。十二天高校とはどんな学校なのですか?」
竜也と凛は不思議に思った。十二天高校は華鱗高校と同等の知名度がある。ただ悪の巣窟、不良校としての知名度であるが。
『十二天高校』、完全寮生の私立高校である。この学園出身で、国家魔導士になった者はほとんどとして存在しない。実績を見れば就職率、進学率も異常に少なく、高魔連での実績は皆無だ。だがこれだけでは、不良校とは言えない。悪名が広く認知されている理由には、二つの理由がある。一つは生徒達の凶暴性、十二天高校の生徒は完全寮生活を行っているため、校外に実害を出すことはないが、校舎は荒れ放題、毎日のように学園敷地内から罵声と爆音、土煙が上がっている。二つ目の原因は、十二天高校の大元にある。十二天高校の運営は『獄龍会』と呼ばれる組織が運営している。獄龍会は、表向き貿易会社として活動しているが、実態は暴力団と変わらず、グラム王国の殆どの国民は、その事実を知っているのだ。
だが、Bクラスの反応はその事実を差し引いてもおかしい。
「桐生院さん、なぜ皆驚いているのですか?」
「そうか、新入生の君たちは知らないか。十二天高校は、昨年の高魔連で我々を倒した高校だ」
「「!!!」」
二人はとてつもない衝撃を受けた。昨年の高魔連において、優勝にも準優勝にも十二天高校の名前は載っていなかった。二人は無意識のうちに、昨年優勝した林琳高校か、準優勝した鴎凱高校が華鱗高校を打ち破ったと考えていたのだ。十二天高校が華鱗高校を倒していたなど一遍たりとも考えていなかったのだ。
「それで先生十二天高校とはどんなものなのですか?」
「十二天高校は、元孤児が多く集まる学校だよ。獄龍会に直接スカウトされた孤児たちがな」




