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『美少女と距離を置く方法』旧エピソード置き場  作者: 丸深まろやか


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31/36

X15 少年は贅沢する


本編より先に、作者ページの活動報告、8/18の記事『SSS⑤』を読むと、より楽しめる内容になっております。

作者名をクリックして作者ページへ飛ぶか、↓のURL


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/717526/blogkey/2631008/


をコピペすると、アクセスできます!


そっちを読まなくても楽しめます!



 とある日の夕食時。


「26番テーブルへどうぞー!」


 俺は理華と二人で、少しぶりに回転寿司へ来ていた。

 もともと出かけていた理華から、メッセージで誘われたのである。


 決して経済的な食事とはいえないが、満足度に対しての価格はかなり安いのが、回転寿司のいいところだ。

 たまに無性に食いたくなるのも憎い。


 店員に案内され、店の奥の方に位置するテーブルへ。


 時間が時間だけに、店内はかなり賑わっていた。

 が、それでも待ち時間なしで入れたのはかなりラッキーだったと言える。


 ところで。


「……ふむ」


「ん、どうしたんですか、廉さん」


「いや、この店のテーブル席に座るの、初めてだなと思って」


「えぇ……」


 俺の対面に腰を下ろしながら、理華は驚いた、というか、引いているような顔をした。

 そんな目で見られる筋合いはないぞ。


「いつもひとりで来てたんだから、仕方ないだろ」


「夏目さんと一緒に来たりはしないんですか」


「ないな。恭弥が相手なら、行くのは大抵ファミレスとか、ファストフードだし」


「それはまあ、たしかにそうなのかもしれませんが」


 言いながら、理華はコップを二つ取って、お茶の粉を両方に入れた。

 その間に、俺は二人分のおしぼりを出して、片方を理華に渡す。


「ありがとうございます」


「おう。そっちもありがとな」


「粉は二杯でよかったですか?」


「実は一杯派だ。二杯でも全然いいけどな」


「そうでしたか。では、次からはそうしますね」


「うん。理華は?」


「……私も一杯派です」


「お、おお」


 それはまた、相変わらずというかなんというか。


「なんだか、笑ってしまいますね。最初から、信じて一杯にしておけばよかったです」


「まあいいんじゃないか。どうせ、また一緒に来るだろうし」


 俺がそう言うと、理華は薄っすらと頬を緩めて、嬉しそうに笑った。

 その顔を見ていると、俺まで釣られて頬が緩んでしまう。

 それを誤魔化すように、俺はコップに口をつけて、まだ熱いお茶をちびちびと飲んだ。


「あ、エンガワが来ました」


「好きだよな、エンガワ」


「好きですよ。おいしいです。廉さんはまた最初はマグロですか」


「いや、今日は甘エビの気分だ」


「私も欲しいです、甘エビ。注文してしまいましょう」


 そんな会話をしながら、俺たちはのんびりと寿司を食った。

 さすがにこれだけ種類があると、ネタの好みもわりとバラけて、けれどもそれなりに一致した。


 こうしていると、自然と俺の頭の中には、初めて理華と学校外で遭遇した日のことが、思い出されてくるのだった。


「あの日も、このお店でしたね」


 理華も同じことを思っていたのか、お茶をひとくち飲んでから、ポツリと言った。


「だな。理華が俺をつけて来たんだっけか」


「違いますよ。廉さんが待ち伏せしていたんです」


 お互いに、冗談だとわかっている応酬。

 だからこそ反論することもなく、俺たちはまた寿司を口に入れた。


「そういえば、そんな話もしたなぁ。あれはつけ麺屋だったけど」


「驚きましたよ。本当にどこにでもいるんですから、廉さん」


「こっちのセリフだ。でも……まあ、正直ちょっと嬉しかった」


「……そうですね。私も、そうかもしれません」


 理解者を見つけたような気分だった。


 のちに友達になって、恋人にまでなるなんて、もちろん想像もしていなかった。

 けれど、俺はたしかにあの時、同類に会えたような気がしていたんだ。


 そしてそれは、きっと理華も同じだったのだろう。


「あ、見てください廉さん、これを」


 ふと、理華が注文用のタッチパネルを指差しながら言った。

 どことなく、頬が紅潮しているようにも見える。


「国産うなぎの蒲焼……一貫350円です……!」


「お、おぉ……」


 画面に映っているのは、シャリの上に茶色く輝くうなぎがずんっと鎮座した、今日の特選ネタの写真だった。


「なんて贅沢なネタなんだ……」


「……でも、おいしそうです」


「いや、待て理華。350円だぞ? 普通の皿が二貫で100円なんだから、こいつは一貫でほかの寿司七貫分の値段ってことだ……」


「わ、分かっています……! ですが……」


 俺の指摘にも、理華は震える指を引っ込めなかった。

 しかも、ゆっくりと注文ボタンに近づいている気さえする。


 まさか、こいつ……!


「た、頼むのか……?」


「だ、だって……! ……今日の特選ですよ」


「しかし、350円なんて大金を……!」


「……ここで食べなければ、きっと私は後悔します……! 明日の夕飯を、ちょっと節約すれば……!」


「そ、そうか……」


 どうやら、理華にもそれ相応の覚悟があるらしい。

 ならば、もう滅多なことは言うまい。

 それに、俺にだって食いたい気持ちはよくわかるのだ。


「……」


「で、では……」


 理華がパネルに触れると、ディスプレイが注文数を選ぶ画面に切り替わる。

 ゴクリと唾を飲み込んでから、理華の指が『注文確定』のボタンに触れて……。


「ま、待て!」


「ほあっ! な、なんですか!」


 ……。


「…………俺も食う」


「……」


 理華は目を見開いていた。

 が、そのまま深くうなずき、細い指でスッと注文数を『2』に変える。


 少しだけ俺と顔を見合わせてから、理華は今度こそ、確定ボタンを押した。


「……」


「……」


「ち、注文してしまった……」


「……もう引き返せません。こうなってしまった以上は、とにかく大事に食べましょう」


「そ、そうだな……」


 俺と理華は同時にため息をついて、それからゆっくりお茶を飲んだ。

 うなぎの前に気持ちを落ち着けるのと同時に、できるだけ口の中をフラットな状態にしておきたかったのだ。


 しばらくすると、自分たちの注文品だとわかる皿に載って、二つのうなぎ寿司がレーンを流れてきた。

 理華と手分けしてテーブルに移動させ、一つずつ自分たちの前に並べる。


 実物のうなぎは、画面で見るのと遜色ないどころか、ますます堂々とした輝きを放っていた。

 その威厳に、思わず箸を持つ手に力が入る。


「……で、では、さっそく」


「お、おう……」


 控えめに甘だれをかけて、箸で掴む。

 大事に、とは言ったものの、こういうのは大抵ひと口で食った方がうまい。

 理華とも意見が一致して、俺たちはうなぎを一息に口に入れた。


「……」


「……」


 香りや舌触りを確かめながら、じっくりと咀嚼する。

 うなぎの甘味と旨味が口の中に広がる。

 それでいて、時折覗くシャリの爽やかさが、うなぎのインパクトを程よく和らげているようだった。


 正直言って……これは。


「うまい……!」


「お……おいしいです……!」


 理華の目が、ウルウルとうるんでいた。

 たぶん、俺の目もそうなっていることだろう。

 そう思えてしまうほど、あまりにもうまい。

 さすが特選ネタ、350円だ……。


 噛みしめるように後味を楽しんでから、俺たちはまた同時にお茶を飲んだ。

 心なしか、お茶までちょっとうまくなったような気がする。

 ただの回転寿司のネタなのに、このうまさはどういうことだ、いったい。


「ふぅ……」


「……いい時間だったな」


「……そうですね。名残惜しいです」


 今のうなぎで、食欲的にも金額的にも満足していた俺は、皿を重ねてテーブルの隅に移動させた。

 理華も箸を置いて、自分の皿を数えている。


「帰るか、そろそろ」


「はい。ご馳走様でした」


「ご馳走様でした」


 学生らしく別々に会計を終わらせて、俺たちは店を出た。

 生温かい夜風が顔を撫でていく。


 すっかり暗くなっていた夜道を、二人で並んで歩いた。

 マンションまでは、だいたい15分ほどだ。


「廉さん」


「ん」


 理華の合図で、緩く手を繋ぐ。

 気温のせいもあってか、理華の手はほんのりと熱かった。


「いいですね、おいしいものを二人で食べるのも」


「そうだな。なんだかんだ言って」


「……覚えていますか。以前つけ麺屋さんで、私が言ったこと」


「……まあ」


 俺が頷くと、理華は少しだけ、手を握る力を強めたようだった。


「廉さんと一緒だと、やっぱりいつもより、おいしく感じるような気がします」


「……そうか」


「むぅ……。そうか、じゃないでしょう」


「ああはいはい、わかってるよ。そうだな」


「もうっ」


 ふんっとそっぽを向くように、理華は俺から顔をそらす。

 けれど、繋いだ手はしっかり握られていて、俺はその手を引っ張るように、自分の方に引き寄せた。


「また行こうな、外食」


「行きます」


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