5、妻
妻との夫婦関係は、娘が生きていた時には既に破綻していた。
会話は子供を介してしかせず、寝室はわけて、仕事のある日は顔を合わせることもなかった。
お互いに話し合ったわけではないが、子供にはバレないよう行動していた。
そもそも喧嘩をしているわけではないのだ。
生活費はいい値を渡し、私の洗濯物も常にされていた。
食事については朝早く夜遅いため、家族で食べる機会はなく、
朝は飲み物だけ、夜は軽くとって帰ってきて少し食べる、といった程度のものだった。
どちらが悪いかと言われれば私が悪いのだ。
ほぼ家におらず、彼女を労うようなことは日常的になかった。
私自身も「ご苦労様」とか言われたことはないが、働いて稼ぐことは当然だと思っており、
そういったことに必要性を感じていなかった。
会う時間が減り、雑談が減り、会話が減っていった。
娘が生まれてからは休日もほぼそちらに時間を割いていた。
お風呂や食事の世話は平日できないイベントのため嬉々として行った。
さらに悪いことに私の脳が満足してしまったのか、男性機能がほぼなくなってしまった。
求められても一向に役に立たず、専用のクリニックで投薬等も行ったが改善しなかった。
他にも手段はあったのかもしれないが、私自身に燃え上がる感情がなくすぐに通わなくなった。
不妊治療とはまた違うのだ、高い費用を支払ってはたす意義を感じていなかった。
妻は毎日泣いているようだ。
葬儀の時もほとんど役に立たなかった。
他の子の学校の支度はしているようだが、
日中も布団からでてこずじーっとしていることが多いらしい。
先日長男がそう言っていた。
私は娘がいなくなってから彼女の部屋にほとんど入っていないためよく様子がわからない。
こういった場合、声を掛け合うのが夫婦なのだろうが、既に何年も会話していないのに何を話すのだろう。
葬儀の際に私が掛けられた言葉のようなものを掛けるのだろうか。
怒りというほどではないが、煩わしさのような物がある。
娘の死の手続きをほとんど丸投げしてただ寝室で泣いていた彼女。
私だって何もしたくなかったのに。
最近自室にカギをかけて仕事にいくようになった。
部屋に遺骨が置いてあるからだ。
自分の墓すら用意していなかった、娘の墓の用意があるはずがない。
当初仏間に置いていたが、妻が寝室に持っていってしまう。
火葬場にも来なかったのに勘弁してほしい。
骨壺もどうするか考えなければ。