希望
翌日、目が覚めた時には村は酷い状態になっていた。魔法により建物は傷つき、村の半分以上が燃えてしまっていた。
「これは全て俺がやったのか」
俺は自分が悪魔に操られ、暴れてしまったことに恐れた。俺はすぐにこの村を出ることにした。ここにいるとエリカのことを思い出して辛いからだ。
「さようなら、エリカ、君のことは大好きだったよ。」
そうして、村を去ろうとしたとき誰かに後ろから声をかけられた。
「この村に何があったんだ、魔物にでも襲われたのか。」
その声には聞き覚えがあったレオンたちだ。いつもなら使い魔で逐一状況を把握していたが、悪魔に心を乗っ取られていたので彼らの状況を気にする余裕がなかった。
「どうした、なぜ黙って背を向けている。こっちを見ろ」
俺はこんな時のために用意していた仮面を身につけ振り返った。
「なぜ仮面をしている。その仮面を外して素顔を見せろ、言うことをきかないなら俺たちはお前を敵と判断する」
俺とレオンたちはお互いをじっと見ていた。そしてレオンたちは、従う気のない俺の態度を見て交戦体制に変わった。
後ろの魔法使いたちが俺に向けて魔法を放ってきた。俺はすぐさまにそれぞれの魔法を相殺する魔法を放った。そして今度はお返しに魔法を放った。
その魔法は騎士のマックスの盾で防がれた。
「レオンこいつは危険だ、気を付けろよ」
「そのようだな」
俺はさっきの一撃で少し怪我をして引いてくれることを望んでいたが、そう簡単にはいかないようだ。
魔法で煙幕を張って逃げることも考えたが、盗賊のライクの偵察能力は高くすぐにまた追いつかれ、交戦することになる。
なので俺がとるべき選択肢は二つになる。一つはレオンたちを負傷させ、撤退させるか。二つ目はライクを俺のことを追えない状態にして俺が魔法で逃げるかだ。
一つ目はあまりしたくない、レオンたちを相手に手加減して負傷させるのは難しい。それに下手をすると俺の方が危険だ。だから必然的に俺がとる方法は二つ目になる。
俺は攻撃範囲の広い爆発魔法を詠唱した。それを見たレオンたちは防御の体制を取る。
「みんな爆発魔法だ、盾になるものに身を隠せ」
各々が別々の建物の影に隠れる俺はそれを狙っていた。爆発魔法の放つ方向を地面に向け土煙を発生させ、風の魔法を使いレオンたちに土煙を送りこみ、視界を奪った。
「煙で前が見えない、風の魔法で吹き飛ばせ」
レオンの指示で魔法使いたちが風の魔法を詠唱し始める。その間に俺はライクに近づき
麻痺の魔法で動けなくした。そして風の魔法で煙が晴れたとき、レオンは俺のすぐ近くにいた。どうやら俺の考えが読まれていたようだ。
「ライクに貴様何をした」
レオンは素早く剣を振りかぶって来る、俺はとっさに避けようとしたが仮面は叩き切られた。俺を見たレオンの表情が変わった。
「アレクなのか、一体どうしたんだその黒い髪にその体、まるで化け物だ、それに何をしているんだ。この村がこんなことになったのは君がやったのか。」
「この村がこんな目にあったのは俺のせいだ、だけどお前にとやかく言われる言われはない」
「どういう意味だ」
「俺がこんな姿になったのも、この村が襲われた原因も元をたどればお前のせいだ」
「俺のせいなのか」
レオンの表情が曇った。
「そうだお前が俺の言葉を聞かず、俺をパーティーから追放し、間違った考えのまま行動した」
レオンは何も言わなかった。
「レオン、お前に話すことは何もない。俺に関わるな!」
俺は魔法で煙を発生させ姿を眩ました。
レオンたちと別れた後、俺は後悔していた。エリカを失って村を破壊したことで心に余裕がなかったとは言え、 レオンに言った言葉はただの逆恨みだ。
ここまでの行動は全て俺が自分で決めてやってきたことだ。なのにこの惨状を自分のせいだと思いたくなかった俺は、原因をレオンのせいにしてしまった。
(俺は最低だな)
そして一つの結論を出した。レオンに俺の存在が気づかれた以上、もはや一刻の猶予もない、俺はもう迷ったりしない魔王を倒したあとはこの世界のためにすぐに自害することを決めた。
俺は道中に出てきた魔物を遠慮なく倒し魔王のもとにまでたどり着いた。
魔王は恐るべき魔力と強靭な肉体を兼ね備えていた。魔王の放つプレッシャーは強大で覚悟を決めてきたはずなのに足がすくみ、体は逃げろと叫んでいるようだ。
「ここまで来るのは勇者だと思っていたが、なんだ悪魔もどきか何の用だ」
「ここでお前を倒して全てを終わらせる、何もかもだ」
「倒す? 笑わせてくれる、貴様ごときに敗れるほど落ちぶれてはおらんさ」
「無茶でもやらなきゃいけないんだよ、俺には約束があるからな」
魔王との戦いは何時間にも及んだ。魔王の体力は確実に削っているがこちらの攻撃には決定打が欠けていた。やはり聖剣を持つ勇者であるレオンの力がないと奴を倒すのはかなり困難なのだろう。だけど、俺には今さらレオンに助けを求めることはできない、そう考えていた時に誰かの声が聞こえた。
「アレク、お前の言う通り俺は間違っていた。俺はお前に謝らなければいけない。すまなかった。だからお前も一人で何もかもやろうなんて馬鹿なことは止めろ」
駆けつけてきたのはレオンたちだった。
「レオンなんでここに来たんだ、俺に構うなと言ったろ」
「マックスとライクの二人が教えてくれたんだ」
俺はマックスとライクを睨んだ。
「マックス、ライク絶対に秘密しろって言っただろ」
「お前の無茶してる姿が見てられなかったんだ」
「そうだよ、一人で抱え込むなよ。俺たちは仲間だろ」
「お前らなあ、もう勝手にしろ俺は知らん」
「そうさせてもらうぜ」
俺はレオンたちと共闘することにした。足りなかった最後の欠片が揃い、魔王との戦いは俺たちの方に流れが傾いていた。
「おい、レオン俺が奴を抑える。お前はその隙に聖剣を奴の心臓に突き刺せ」
「ああ、頼んだぞアレク」
俺に残された最後の力を振り絞り、魔王を拘束した。そして聖剣は今までにない輝きを見せた。
「これで終わりだ。」
レオンが魔王に聖剣を突き刺した瞬間、魔王の体は光輝きながら朽ち果てていく。
「ここまでか、まさか人間ごときが我を倒すとは面白い、面白いぞ、フハハハ」
そう言いながら、魔王は消えていった。
魔王を倒したあと、俺はやっと肩の荷が下りた。
「なあレオン、まさか本当に魔王を倒してしまうなんてな」
「なに言ってるんだアレク、俺はパーティー組んだ頃から俺たちならやれるって信じてたぜ」
「嘘吐くなよ、最初はゴブリンの群れにだって苦戦してこれはダメかもしれないって言ってたの覚えてるからな」
「そういえばそうだったかも知れないな。なあアレク、俺の元に戻って来てくれないか。やっぱりお前がいてくれないと調子出なくてさ」
「レオンその気持ちは嬉しいが、実はおれは、う、ぐああ、悪魔めこんな時に」
「どうした大丈夫か、しっかりしろ」
(やっとこのときが来たぜ、お前はもうすぐ俺様に喰い尽くされる)
悪魔が俺の体を完全に乗っ取るつもりだ、もしそうなればこの世界はまた荒れ果てた世界になるそれだけは駄目だ。
「レオン、俺を殺してくれ、もうすぐ俺の意識は悪魔に乗っ取られる。今は抵抗するので精一杯だ。頼む親友のお前に殺してほしいんだ」
「嫌だ、そんなの嫌だ、何か手はないのか。諦めるなよ」
「もう時間がないんだ、頼む早くしてくれ、俺はこれから平和になる世界を壊したくない、早く俺の最後の頼みだ」
「俺は絶対にお前を許さないからな」
俺の体に聖剣の刃が突き刺さった。
レオンは泣いていた。
「ふざけんなよ。俺はお前をパーティーから追放したとき、本当は安心していたんだ。これで親友のお前を危険な目に遭わせずにすむって、なのにお前は俺の代わりに無茶して悪魔なんかと契約してバカじゃないのか。」
「ごめんなレオン、でもお前が辛そうにしてるのを見てられなかったんだよ」
「世界が平和になってもお前もイオナも失った俺にどうやって生きろっていうんだよ。そんなの寂しいじゃねえかよ。」
「レオン、昔、約束したことを覚えてるか」
「ああ、二人でこの世界を誰も悲しまなくてすむ世界にしようって」
「その約束守れそうにないや、ごめんな、あとはお前に任せてもいいか」
「お前はいつもそうだ、勝手なことばかり言いやがって」
「俺は良い親友を持ったよ。俺はお前と一緒に旅できて幸せだった」
「それはこっちのセリフだよ」
魔王を倒し、アレクが死んでもう1年がたった。魔王を倒したからといってすぐに世界に平和が訪れるわけではない、まだ勇者として俺にはイオナとアレクが繋いだ世界を見守る義務がある。
「見ててくれ、俺たちが作る新しい世界を」