限界
そしてある日限界を迎えた。
相手は俺との相性の悪い魔獣、オルトロスだった。
オルトロスは双頭の犬で尻尾が蛇になっていて身のこなしが素早い、すぐに俺との距離を詰めてきた。
俺は魔法を詠唱しようとしたが魔獣は俺の右腕と左腕に喰らいつきそのまま押し倒された。
両腕に牙が食い込んでくる。そして尻尾にある蛇で俺の体に毒を入れた。
この状態に持ち込まれてしまってはもう俺に助かるみちはない。俺は痛みで叫びそうになるのを堪え、自爆覚悟で爆発魔法を詠唱し始めた。
向こうも俺の考えに気付いたのか、右腕に噛みついていた牙を外し喉笛を噛みきろうとしてきた。俺は相手の前脚を狙い魔法をぶっ放した。魔法の反動でオルトロスと俺の体は吹っ飛んだ。
魔獣の右前脚は吹っ飛び、左前脚は折れて使い物にならなくなり動けなくなった。俺はその状態の魔獣に身体が消し炭になるまで魔法を放ち続けた。
オルトロスを倒した俺はもう満身創痍だった。魔法の衝撃の反動で魔獣のもう一方の頭が噛みついていた右腕は千切れて持っていかれ、内蔵が潰れているのが分かった。
もう俺の回復魔法では死ぬまでの時間を少し延ばすだけで助からないだろう。
父と母、生まれ育った村の人たち、マックス、ライク、レオン、イオナ、俺は大事な人たちのことを思い出していた。
こんなことになるなら振られることを覚悟してイオナに想いを告げておけばよかったと俺は後悔していた。
「ごめん、みんな俺には何も出来なかった、大切な友人の彼女を救うことも、その彼女の最後の頼みを叶えてやることもできない。許してくれ俺は何もできないダメな人間だ。ごめん、ごめんよ」
その時、俺はイオナの最後の言葉を思い出していた。
「アレク、レオンを支えてあげてほしいの彼、普段はみんなの前で弱みを見せずにいるけど、本当は不安な気持ちでいっぱいなの。私が死んだあと、彼絶対に落ち込むから、頼んだわよアレク」
その言葉を思い出し、俺は醜くも抗うことにした。
「俺はまだ死ねない、何をしようとも俺は生きる、生きて目的を果たす。例え悪魔に魂を売り払ってでも」
悪魔という言葉で俺はあることを思い出す。
(悪魔、そうだ俺は昔、禁呪に指定された本を読んだことがある、あの本の内容には悪魔を召喚できることが書かれていた)
俺は急いで自分の血で召喚のための魔法陣を書き始めた。
悪魔と契約すればその人は不幸になると言われていたが、俺にはもう失うものはない。
それにこのまま死んでしまえば天国にいるイオナに合わせる顔がない。魔法陣を書き終えた俺は悪魔を召喚する呪文を詠んだ。
だが、悪魔は現れなかった。
「クソっ、悪魔はなぜ出てこない。願いを叶えてくれれば、俺は何でもくれてやる体だろうがもちろん魂だってなんで出てこないんだ。ふざけるんじゃねえ」
俺は何度も地面を叩いた。すると魔法陣は怪しい光を放ちながら、悪魔を召喚した。
「俺様を呼んだのはてめえか死にかけの坊や」
「ああ、そうだ」
「こんな程度の低い奴に呼び出されるのは面白くないが、最近、俺を呼び出す奴がいないので退屈してたのも事実だいいだろう、俺様は知識と魔を司る悪魔ギオラスだ、貴様は俺に何を望む金か、自分の命か、それとも愛する人を生き返らせるか。」
「俺と一つになって俺にお前の力を寄こせ」
「正気か、お前」
「正気で悪魔なんか呼ぶか」
「お前面白いぜ、悪魔と一つになればお前の意識はどんどんなくなっていき、自我が俺様に完全に飲み込まれれば、自我は消え失せ、この世に新たな悪魔が現れる、そして世界が壊れるまで俺様は暴れ続ける。契約内容はちゃんと言っておくのが俺様のルールだ。わかっているんだな」
「覚悟は出来てる」
「それではここに契約を結ぶ。お前がどれだけ自我を保てるか楽しみだ、なるべく長く俺を楽しませてくれよ」
俺の体に悪魔の力が流れ込んでいくのを感じ、体中に激痛が走る。
「う、ぐああ、が、あああああ」
俺は痛みのあまり気が狂いそうになっていた。俺は大切な者たちのことを思い出しながら必死になって耐えた。
数時間たち痛みが治まったころ、首から下は刻印のようなものが至る所に刻まれ茶色だった髪は黒く染まっていた。
自分の体に起こった異変に動揺はしたが右腕は生え、まだ自分の意識ははっきりしている。
俺にはまだできることがある、あの悪魔の言う通りなら急いで魔王との決着をつけ自分の命を消さなければいけない。
悪魔と一つになったことで俺の力は以前と比べて格段に強くなった。
悪魔の知識によればこの世界の一般の魔術師は大気中にある魔素を少し吸収し体の中で魔力に変換し魔法を放っているが、俺の体に刻まれた刻印は大気中の魔素を大量に吸収して魔力に変換している。
この刻印はそれだけでなく全ての魔法を発動するための補助をしており使いたい魔法を詠唱なしで発動することができる。
悪魔と融合してから俺はレオンたちより先に行動し各地で暴れている強い魔物を倒しながら魔王の元へと向かっていた。さすがに全ての魔物を倒すとレオンたちに違和感を与えるのでレオンたちの実力なら正攻法で倒せる範囲の魔物は残しいき先へ進んだ。