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「ありがとうございましたー」

「どうも」

玄関で元気そうなお兄ちゃんを見送る。

別に知り合いとかではなくただの宅配の人だが、大きい荷物をマンションの4階運んできてもらったので、少し申し訳なく感じる。


「やっと届いた」


目の前には丁度自分の身長と同じくらいの段ボールが置かれている。

玄関先で開封するわけにもいかないので部屋の奥の方へ運ぼうとするが、インドア系の自分の細い腕では持ち上げることはできなさそうだ。

仕方ないので、床に落ちているものをかき分けるようにしながら押していく。


段ボールを開けると、中には緩衝材に包まれた一体のアンドロイドが入っていた。

女性の姿をしており、服は一切着ていなかった。

女性とほとんど交流してこなかったせいで少々面食らってしまうが、正規の購入ではないのでこの程度は仕方ない。

説明書も一緒に入っていたが、何か困った時に読めば大丈夫だろう。

首元のパネルを開けて電源をつける。

すると、横に入っていたスマホぐらいの大きさの端末が光った。

どうやら、初期設定などはこの端末で行うらしい。

設定を始めると、最初に本体の性格を決めさせられた。


「性格か……まぁ、おとなしいほうがいいかな」


そう言って決定を押してみたが、

「この設定はご使用の機体では未対応です。」

とでてきた。

諦めて先に進んでみるが、他の設定もほとんどが未対応だった。


「まぁ、しょうがないか」


大金を払って買ったアンドロイドが未対応ばかりなのは少し残念だが、古い機体だし仕方ないだろう。

だが、そんなことよりもっと有用な機能がこの機体には搭載されている。


       -------------------


マスター登録などの一通りの初期設定が終わると、本体の起動が始まった。

起動が完了するのを待っていると玄関の方でインターホンがなる。

嫌な予感がして声を潜める。

もう一度インターホンがなった後、しばらくするとドアを乱暴にたたく音がする。


「いるのは分かってんだよ!とっととでてこい!」


(どうせはったりだろう…)

「電気のメーター動いてんだよ!いいから出てこい!」

「…」


どうやら出ていくしかないようだ。

玄関のドアを開けると、ガラの悪そうな男が二人たっている。

片方はうちに何度も金を回収しにきている男なので知っているが、もう片方は見たことが無い。


「えっと…、どうしたんですか……?」

「どうしたじゃねえよ!金は準備できたのか!」

「い、いえ…もうちょっと待ってくれたら…」

「お前そう言ってどんだけ経ったとおもってんだ!」


確かに彼らは約束の期限からだいぶ待ってくれている。

というのもアンドロイドを注文してから届くまでだいぶ時間がかかってしまったのだ。

有名通販のような即日配達を期待していたわけではないが、今日実際に届くまでは騙されたかもしれないのと返済の催促とで二重にハラハラしていた。


「ほんとに返済の目途がたったんです!あと数日だけ待っていただければ…」


あいつを使えば借金の返済ができるぐらいの金はすぐに稼げるだろう。


「今日という今日はそういうわけにはいかねえな。いくらか返してもらうか、金目のもらうまでは帰らねえぞ」

「そんな…」


まずい。

今、部屋に入られてしまったら確実にあのアンドロイドを持っていかれてしまうだろう。

しかし、金になるようなものはあいつを買うために売り払ってしまった。

所持金もほとんどなく、今は毎日食べるものにも苦労するような状態だ。

かといって、謝って帰ってくれそうな雰囲気でもない。

ただ、あのアンドロイドには購入する時にオプションで戦闘プログラムを搭載しておいた。

あいつが起動すれば、こいつらもなんとかしてくれるはずだ。

そのためにも、こいつらをなんとかここで足止めしなければ。


「いや…、金目になりそうなものなんて全部売って返済にあてちゃいましたよ」

「なんにも残ってないことはねえだろうが」

「いやいやほんとになんにもないんですよ…」

「まぁ、とりあえず中に入れろよ」

「いや、ちょっと中散らかってるんで…」

「お前な…友達じゃねえんだぞ。いいからさっさと中いれろ」

「いや、ほんと汚いんで…」


そんなことをしていると、こめかみに冷たい感触がした。

振り向いてみると、今まで一言もしゃべっていなかったもう一人の男が銃を突き付けていた。


「お前、もうちょっと自分の立場考えてみろよ。普通に考えて俺らに逆らう権利ねえだろうが」

とっさに手をあげて、道をあけるように壁にはりつく。

「お前もお前だ。こんな回収に一々時間かけてんじゃねえよ」

「すいません…」


どうやら、この男は上司らしい。

借金の回収に時間がかかっているのを見かねてついてきたのだろう。

そうこうしていると、部屋のほうでアンドロイドが起動した。

二人はまだ説教が続いており気づいていない。

これでなんとか二人を追い返してくれるだろう。

そんなふうに安堵していると


「マスターの危険を確認。人格データのインストールを一時停止。攻撃を開始します。」

というアナウンスがこっちまで確実に聞こえる音量で流れた。

「マジかよ…」


もちろん説教をしていた男も気づいてしまう。


「てめぇ!どういうことだ!」


上司が銃を押し付けながら叫んでくる。


「いや、あの…」

「照準機能の修正を開始……」

いつの間にかアンドロイドが銃をこちらに向けている。

「てめぇ!こいつがどうなってもいいのか!」

「修正完了。」

「お前、マジで撃つぞ!」


二人がかりになって必死に脅すが、アンドロイドが一切止まる様子はない。


「早く撃て!」

なかなか撃たないことに焦って叫んでしまう。

「てめぇ!」


ドン!


あまりに大きな音に目をとじてしまう。

耳鳴りがおさまってきて、こめかみに押し当てられていた感触がなくなっていることに気づく。

隣を見ると、上司らしき男が壁に寄り掛かるようにして座っていた。

壁にはさきほど男の頭があったであろう場所に穴が開いており、そこから下にまっすぐとこすりつけたような赤い線が描かれていた。


産まれて初めてみる本物の死体を呆然と眺めていると、みぞおちに左から大きな衝撃を感じる。

よろめきながらも手を当ててみると、妙に温かみを感じる。

足に力が入らず、膝を着き、そのまま横に倒れこむ。

倒れる時、段差に右腕をぶつけてしまい、痛みで咄嗟に左手でおさえる。

しかし、左手は真っ赤に染まっており、服にべっとりと血がついてしまう。

そこで初めて、撃たれたのだと気づいた。


「おい!あいつをさっさと止めろ!」


玄関のほうに目をやると、集金係の男が拳銃を構えていた。

足を震わせ、今にも泣きそうになりながらも拳銃を両手で構えるその姿からは、必死さだけがひしひしと伝わってきた。


「や…めろ……」


大声でアンドロイドに叫んだつもりが、そのほとんどが呼気になって消えてしまう。

何事もなかったかのようにアンドロイドは問答無用でもう一人の男をねらう。


「クソっ!やめっ、やめろ!」


明らかにおびえた様子で男はアンドロイドに拳銃をむけなおすが、構え終わる前に頭から血をふきだして倒れる。

「危険の排除を確認。人格データのインストールを再開します。」

そんなアナウンスがさっきよりも遠くから聞こえる。

どうやら助かりそうにないらしい。


そう悟ると、急にあのアンドロイドのことがきがかりになる。

あいつが起動する頃には俺は死んでしまっているのだろう。

俺と入れ替わりでこの世界で生きていくのだと考えると、まるで大事な存在であるかのように思える。

あいつのせいで自分が死ぬとしても、両親もいない上に友達も全くいなかった自分にとっては唯一なにかをのこせる相手だ。


適当に近くに落ちていたチラシに自分の血で考えておいたあいつの名前、カードの暗証番号をかく。

誰かに見つかるとまずいので靴箱の裏に滑り込ませる。

本人に見付けてもらえるかも微妙だが、このマンションで銃声がしたらあいつらはほぼ確実に来るだろう。

自分にできることはこれぐらいだ。


一言ぐらいあいつとしゃべってみたかったが、もうもちそうにない。

徹夜した時みたいな眠気が襲ってくる。

今、目を閉じたら二度と起きることはないだろうが、それでもいいって思える。

もう我慢するのも限界だ。


「おやすみ」


まだ眠ってるあいつに聞こえるはずないが、そうでもしないとあまりに寂しかった。


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