97.知識を継ぐ
コロポックルたちがここに至るまでの、いや人類が進化の過程でたどってきた一経路の全ての歴史が与えられた。コロポックルに至る一経路だけでも膨大なそして貴重なものだ。
目が覚めるとテントの中だった。
アシリクルがすぐそばで見守ってくれている。
周りには、タタル、シカルンテ、ヤイェユカラ(神の歌)もいる。
ヤイェユカラ(神の歌)「これより先はオホシリカム様おひとりではじまりの時まで、見守ってください。」
「はじまりの時?」
「私たちはその瞬間を知りません。私たちは過去の知識からほんの少し先を予想しているにすぎません。ただ、あなた様ははじまりの時までの未来を知っています。」
そういうことか。俺が知っている未来は、転生が始まる瞬間までということだから、そこがはじまりの時ということだろうか。
だとするとあと5000年。
でも、過去の全てを知った今、知識的には残りたったの5000年、肉体的にはまだまだの5000年。少し混乱する。
それに、その言いようだとここは過去ということになる。
異世界ではない可能性が高い。
ただ、この常識はずれな神の歌の力の存在。可能性としてはパラレルワールドということも考えられる。
「朝食を用意しました。オホシリカム様はこちらをご所望でいらしたのですよね。」
そう言ってヤイェユカラが木の皿に魚料理を出してくれた。
「今回は特別に湖から魚を分けてもらいました。川にいるオ・ソル・コマ(オショロコマ)が湖に下るとヒスイよりも美しく輝く神になります。」
さすがは過去のすべてを知っているだけあって、この湖の魚がオショロコマだと知っている。現世ではオショロコマの湖沼に封じられたミヤベイワナとして保護されているが。さすが、姿容、色も違うこの魚がちゃんとオショロコマの湖沼型だと知っている。
刺身も用意してくれた。降海型や下流の魚と違って、完全陸封だから寄生虫の心配はないだろう。焼き魚も刺身も美味しくいただく。醤油と米がないのが残念だが。
「ここはとても良いところだけど、あまりゆっくりはしていられない。」
俺はアシリクルとタタルに出発の準備をするように言った。
「オホシリカム様はタタルとシカルンテに手柄を立てさせたいのですね。」
ヤイェユカラが聞いてきた。
「はい、コロポックルに助けてもらって2人が成し遂げたことにしたいのです。」
「あなた様に与えた知識でも十分でしょうが、時間の余裕がないと思いますので、こちらで特別な毒と弓を用意しましょう。」
「タタルとシカルンテ、こちらにいらっしゃい。」
そう言って、ヤイェユカラが2人を連れて行った。
誰もいなくなって、アシリクルが抱き着いてきた。
まぁ、二人旅とはいえここ最近ずっと二人っきりになれていなかったからな。
そう思って、俺もアシリクルの背中に手をまわして、しばらく抱き合ていた。