93.ピウカの集落
アンヂ・アンパラヤやタタル達の村。
ピウカ(玉石の河原)という名前の集落だ。
かなり大きな集落で、俺たちが近づくと大勢の子供たちが駆け寄ってきた。
タタルは走って留守の長老格に知らせにいった。
シキポロという狩猟・採集などの食糧生産系の長老格が出迎えてくれた。
俺の集落でいうところのアシリ・ウパシに近い役割の長老だ。
長老といってもやはり30代前半ぐらいだろうか。
「ようこそ、ピウカの集落へ。お噂はアンパラヤやタタルから聞いております。どうぞゆっくりと楽しんでいってください。」
「こちらこそ、お世話になります。セタウチは元気ですか?譲っていただいた子犬が大きくなり、今回一緒に旅してきました。」
「はい、今川のほうに行っていますが、まもなく戻ると思います。」
ここの集落には高床式の倉庫や建物はないが、やや大きめの竪穴式住居が、かなりの数建っている。そのうちの1棟に案内された。長老や交易団の集会用の建物で、アンジ・アンパラヤなど交易系の長老がしばらく留守で、使わないからこの竪穴式住居を使ってかまわないという。
荷を下ろしていると、ピリカを譲ってくれたセタウチ(犬好き)がやってきた。
アシリクルにピリカと一緒に親犬のところへ遊びにいかせた。
その間、タタルは両親にシカルンテを紹介しに行ったようだ。
俺は荷物を整理してから、考えの整理もしなくてはと手を動かしている。
シキポロが話しかけてきた。
「アンヂ・アンパラヤ殿のナイフをお預かりしてきているということは、アンパラヤ殿に何かあったのですか?」
「いや、アンヂ・アンパラヤ様は元気に次の交易地のピリカノ・ウイマムに行かれました。」
俺はそういって腰に付けた革袋から土偶の片割れも出して。
彼から頼まれごとがあることを告げた。
シキポロに事の次第を説明する。
「確かに私よりも若い世代でしたらコロポックルに悪いことをしたという思は多少ありますが、畏れはあまり感じていません。ただし古老たちはそうは思わないでしょう。しかも、今は伝承程度で済んでいますが実際コロポックルの娘が集落に入るとなると、反発するかもしれません。そうなると古老たちは子供たちの教育もしますので、次の世代に伝承以上に悪いことを教えるかもしれませんね。」
シキポロと話をしていうところにタタル達もやってきた。
両親を連れてきている。
両親はタタルが連れてきたシカルンテを気に入ったようだし、コロポックルであることは気にしないが、やはり古老たちの反応や、他の集落の古老たちが何と言い出すか心配。さらにその古老たちから、ピウカの村でコロポックルを攫ってきたと誤った噂が広がるのがこわいとも言っている。
「古老の中でも全てがそういう人たちではないはずだが・・・」
俺が言うと、確かにその通りだが、確かめようがないとも言っている。
性格的に若者に理解を示す古老もいるし、論理だてて考えを述べる古老もいる。大方が長く生きた分の経験と勘で判断する古老たちで、ゆえに慕われている。その中で、若者よりだからといって指示してくれるとは限らないし、論理だてる古老も頑固に拒むかもしれない。経験と勘で動く古老の中には、実際会ってみればこちらの味方になってくれる可能性もあるかもしれない。ただ、それを確かめる術がなかなか思いつかない。
「シカルンテ、君は3代か4代前からの記憶はかなり鮮明に持っているんだよね。自然暦のほうの予測は可能?」
シカルンテのコロポックルの力を使って集落やこの周辺の人々に有用だと印象付けることができればいいかと思ったんだが・・・。
「いえ、トカプチの呪いで自然のサイクルが崩れて、そのあと移住しましたから、ここの自然暦の予測は難しそうです。ここに残っているコロポックルに歌を授けてもらえれば可能ですが」
「残っているコロポックルがいるのか?」
「はい、山奥の秘境に住んでいるはずです。ただ、本当に隠れ住んでいるので、会えるかどうかわかりません。」
シキポロが呟く「神の力を示せば、かなり説得力があるんだがな」
「シキポロ様、この辺りでウェン・カムや凶悪なオオカミなど悩まされているところはありませんか?」
「シカリペツのほうで小さな集落がウェン・カムに襲われて廃村になりました。集落にいついて近づく者は食い殺すらしいです。」
シカルンテ「隠れ住んでいるコロポックルもシカリペツの奥です。」
そうか、少し遠いが、シカルンテの力を得るのと、神の力を示すのと、あと、おれの好奇心を満たすのと一石三鳥になりそうだ。
「シキポロ様、私たちはウェン・カム退治に向かいます。古老たちに協力と同行を求めたい。特にコロポックルに良い印象をもってない者たちを集めて欲しい」
皆に俺の作戦を話す。




