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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 北のモシリ
92/182

92.黒曜石

古老の伝承はおおよそ、現世に伝わるアイヌ民族のそれと同じであった。

シベの大地にもとからいたコロポックルに外からやってきた人々が助けられるシーンからはじまって、コロポックルは何も言わずにサケを恵んでくれる。気のいいコロポックルに、そのうち後から来た人はコロポックルの娘に手を出してしまう。怒ったコロポックルたちはトカプチ、つまり魚のように腐れ果てろという呪いをかけてこの地を去ったとされる。


シカルンテは悲しそうな顔でその話を聞いている。


古老が去っていったので、気になっていたことを聞いてみた。

「シカルンテ、君は昔起きたことをまるで自分が体験したかのように知っているんだね」


シカルンテは驚いたような顔をした。

「そうです。コロポックルは歌で昔あったことを伝え合うのですが、聞いたほうはまるで本当に自分の身にあったことのように感じるのです。そうやって、悠久の時の事象を伝えて、自然暦も予測することができます。」


ということは、やっぱり呪いじゃなくて、高位の呪術師や長たちはそろそろ地震が起きることを知っていた。そのタイミングで祭祀をやったに違いない。

「その呪いの前に小さな地震はなかったかい?」


「はい、首長の娘が攫われた夜に地揺れがあり、その揺れは首長の娘を攫った罰だといわれています」


「それが起きたのも自分が体験したかのようにわかるんだな?」

実際に起きたのは数代前のことだ。


「はい、私はトカプチの呪い前後からの歌しか聞かされていないので、もっと昔のことはわかりませんが、長老たちはこの世で起きてきた過去のこと全てを知っているといわれています。」


「それは正しく使うと、とても役に立つことだ。君がこわがることも周りが畏れることも何もない」


タタルもアシリクルもうなずいて聞いている。

コロポックルの力の一端を知ったが、問題は古老をどう説得するかだ。

先ほどの古老ですら、見ず知らずの俺たちにいきなりコロポックルの伝承を聞かせるくらいだから、この地にコロポックルを畏れる風潮が根付いているのだろう。かなり厄介だ。


やがてオペレペレケプという場所についた。

ここもあまり良い名前ではない。地形的な要因でそう名付けられたらしいが、やはりそれだけではなさそうだ。オペレケプは人体の股に例えている。股が裂けているという意味だ。オペレペレケプはそれがたくさん、川が股のように分かれているからそう名付けられたという者もいれば、件の伝承のコロポックルの娘たちが攫われてきて、その娘にしたことから名付けられたという者もいる。

この時代の言語の感覚からいって、おそらく前者の意味だろうが、コロポックルの呪いの噂が独り歩きしているのだろう。

実際、シカルンテはここではないと言っているし。


大河が行く手を遮る。

十勝川だ。歩いて渡るのは無理そうだ。

タタルの話ではしばらくすると舟が来るという。


河原でぶらぶら歩いていると、黒っぽい石があって思わず手に取る。

「オホシリ様、それが黒曜石です。」

「これが?」

「はい、見た目は普通の石ですが、磨いたり割りますと美しい色を出します。」

河原にあることは知っていたが、けっこうたくさんある。

「ただ、良質のものはなかなか見つけられないですよ」

そうか、黒曜石のすべてがあの大きな立派なナイフになるわけじゃないんだな。

このサイズで質が悪ければ、他の産地のものでも代用できる。


タタルから黒曜石について聞いていると、上流から船がやってきた。

タタルは手を振って、舟を呼んだ。

4人で川を渡してもらう。

川を渡って支流沿いを歩いていくと、少し高台に目的の集落があった。

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