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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 北のモシリ
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89.古い話し

マコマイの集落に戻るとアンヂ・アンパヤラが到着していた。タタルも一緒に到着していた


「オホシリ様、ここでお会いできるとは思いませんでした。」


「北の大地の様々なことを知りたくて旅をはじめました。集落の皆にも、いろいろ新しい知識を乞われて、そのかわり旅に出ることを許してもらったのです。」


この時代、旅行ということはない。たまに流しの呪術師、修行途中、情報通、様々な言い方はできるが、ほんとたまにそういう人がいるだけで、旅行者というのは存在しない時代だ。


「トカプチの歴史や文化に興味がありまして。今回、思い切ってトカプチまで行ってみようと思ったのです。」


「トカプチは新天地です。名前からは想像できませんが。」


少しコロポックルのシカルンテから聞いたことと違うような・・・。


「トカプチは豊かな一方でコロポックルの呪いがあると聞きましたが」


「あぁ、あれはもう3代以上前の話です。今では豊かさが戻ってきています。コロポックルたちには悪いことをしたと思いますが、その彼らが見捨てた土地も踏ん張って住み続けたら、豊かさが戻ってきました。あえて、コロポックルが戻ってきて、また呪わないように呪いの地名を残しているのです。人の名前と同じ意味ですよ」

そう言ってアンヂ・アンパヤラが笑っている。

なるほど、人の名前も子供には特に悪い名前を付ける風習がある。クソタレとかオシッコとかの意味の名前をつける。そうすることで悪神、悪鬼、悪霊が取りつかないようにするのだ。


それより、シカルンテの話し様では、まるで今しがた自分たちが呪いの儀式をしてきたようだったが・・・。


「では、コロポックルには悪い感情を持っていないのですか?」


「いや、あれは不思議な力を持つ種族だ。たとえるなら全員が呪術師のような、いやそれ以上だな。自然暦を外したことがない、サケやマスの登る日も、それだけでなく収量も正確に予想する。そう言われているが、仲が険悪になってからは、姿を見せようとしなかった。あのトカプチの呪いも呪いじゃなくて天災を事前に察知したから、自分たちだけ逃げたとも言われている。だから申し訳ないという気もちもあるが、同時に畏れてもいる。」


うぅーん。敵対意識でないというのは、まだましだが、やはり一筋縄ではいかないような雰囲気だ。


「ところで、オホシリ様はお二人でトカプチまで行かれるのですか?ウェン・カムやオオカミを仕留めたあなた様ならお一人でも楽勝で神々の山々を越えられるでしょうが。」


「いや、もしこの辺りからトカプチに戻る交易団がいれば、随行したいと思っていたところです。」


「そうですか、タタルがここから戻ります。よかったら一緒に行かれてはどうでしょう。タタルも喜ぶと思います。なんせ、嫁を連れて帰ると意気込んでいますから」


「そのタタルのこと少しお話があるのですが」


この時代、長老格の存在は大きい。アンヂ・アンパヤラは交易関係の長老格で、しかもトカプチでも有力氏族の出だ。彼の耳に入れておいたほうがいいだろう。彼の後ろ盾があれば、彼女がコロポックルと知れてもうまくやっていけるだろうし、もし長老としてダメだという判断をして、タタルが受け入れれば、それまでのことだし、もし本当に愛しているのならタタルがコロポックルのもとへ行くか、二人で新天地に行くことも可能だ。いろいろな選択枝があるのだが、意外と悩める当人たちはその選択の幅を狭めがちだ。


俺はタタルの彼女がコロポックルでそのことで悩んでいるということを伝えた。


「俺はかまわないし、本人がよければ問題ないのだが・・・。ただ、親からきつく教えられてきた古老たちはどう思うかわからない。タタルの祖父母はもういないし、両親も大丈夫だと思うが・・・。俺が集落に居る時ならそこらへんの説得ができるんだがな。」


まずは、タタルがこのことを知ってどう判断するかが重要だ。

アンヂ・アンパヤラにはそういうことにして、シカルンテがタタルに打ち明けるまでそっとしておくことにした。


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