87.甘みの開発
この季節ならではの甘味の開発にチャレンジだ。
オーソドックスには蜂蜜もあるがやはり料理に使うのに癖のない甘み、いわゆる糖としての甘味が欲しいところだ。
といっても北海道だからといってこの時代、テンサイ(ビート)があるわけない。あれは国外から入ってきたものだし。
蔦からもアマズラ、アマカズラといって甘味をとることができるが、北限が青森で、しかも意外に生えている量が少ない。たぶん南に行くと十分甘味を生産するだけ取れると思うのだが。
他は前に青森の集落で食べた黄精というアマドコロの根から作る方法。
しかし、アマドコロも十分な量を確保できる山菜ではない。特に根をとってしまうと次の年に出てこなくなってしまう。
さて、ここにたくさんあるもので持続的に甘味が採れるものといえば。
あれしかない。
時期も新緑のはじまる今が量を採りやすい。本来はもう少し早い時期からはじめると思ったが、採取のためには金属器やビニールなど現世の便利なものがないと効率が悪いだろうと思ったからだ。
今回は巫女たちあわせて4人で出かける。少し山側の森に入ったところで試してみる。
集落全体の採集日ではなくて、個人、家族のための採集日に出かける。
白樺の枝を石器で切り落としたり、傷を付けてみる。
やはり、新緑間際のこの時期はたくさんの水を吸い上げている。たちまち切り口から樹液があふれ出す。それを、とにかくたくさん集める。木の幹に傷を付けての採集も試してみる。量が出るが効率よく集めるのに苦労する。ドリルや点滴チューブのようなものがあればいいがそんな便利なものもないし。
とにかく量が必要だ。大量に集めなければ。
4人で手分けするが夕方までにけっこうな量を集めた。
持って帰り、今度は竃の尖底土器で煮詰めていく。
最終的に現世のジャムの大瓶で一瓶程度の量のシロップができた。
だが・・・。
日持ちがしないだろう。
高濃度ならもしかしたら大丈夫かもしれないが、たぶん無理だと思う。
とりあえず、こんな時代でも巫女たちは若い女の子なのだから、彼女たちにクッキーもどきを焼いてあげる。トチの実から作った粉をシロップと鳥の卵を適当に混ぜて捏ねて、平たい土器の上で焼く。
シロップのままならこの時代の保存容器だと2,3日しかもたないだろう。でもクッキーというかバターがないのでほとんど煎餅のような状態。そのかわり長く持つはず。
山に採集や狩猟に行くときの携行食にもできそうだ。糖分もあるから栄養も十分なはずだし。
何か効率よく大量に作って保存できる方法がないだろうか・・・。
とりあえず、巫女たちに食べさせたが、皆にも食べさせたいという。
下手に保存してシロップがダメになってしまってもったいないので、全て使い切ってしまうことにした。続けてクッキーの試作品を作って、1、2枚ずつになるが集落民全員に配って食べさせてみた。
ほのかに甘いクッキーは人気だった。何個かはクルミ入りで作ったが、それもかなり高評価だった。
とりあえず、来年からはトチの実も収量を増やして、春にシロップを作ってクッキーを焼いて、皆の山菜採りの時の携行食にしようということになった。




