85.商品開発
今年はカラフトマスの遡上は少なかった。それでも、住民の冬の食糧を支えるのには十分だ。さらに、そのあとサケも遡上してくる。
夏から作り始めた高床式の寝殿が完成した。寝殿といえば聞こえがいいが、俺と巫女の暮らす家だ。巫女や呪術師、神などは土を掘った竪穴式住居ではなくて、高い場所に住むべきだという変な習慣がある。夏はいいが冬は大変だ。
さらに、海の監視がしやすいように海岸段丘の端のほうに建てたので風対策は必須になった。
家の周りは冬の風上側の西側と北側に木の杭を連続して打って木柵を作った。防風柵だ。集落の他の住居にも教えて防風柵を作る。
冬場は高床式の家の床下部分は木で塞いでおくことにした。
内装も、床は囲炉裏以外も粘土で固めた。壁も隙間を埋めて、風を防ぐとともに、囲炉裏の周りの床はアザラシやオットセイの毛皮を敷き詰めて防寒は完璧にした。ただし、防火の意味で干し草を布かなかったので少し硬く感じる。その代わりあんぎん織りのマットを作って寝る部分にだけ敷いた。
昨年よりは快適なはずだ。
雪が降り始めた。
冬場は青森の時は大堂でみんなであんぎん織りをしたり縄を編んだり、共同作業が多かったが、ここでは大堂がないので各自の家で作業を行っている。
仲間内ではお互いの家で作業することもある。
巫女たちも、あんぎん織りをしたりいろいろな作業をしている。
俺は、前の寝殿を倉庫兼作業場にしたので、そこで、入手したアワビの貝殻を薄く削り、漆塗りをした木の丸い球に張り付けて螺鈿細工を試している。漆塗りは何度か挑戦させてもらってできるようになっている。幸い漆に負けない体質だった。というかそれも不死の体ゆえかもしれない。それでも素人が螺鈿細工はちょっと無茶すぎたかもしれない。
とりあえず黒い漆にキラキラ何かがちりばめられている感じのアクセサリーができた。
本来は漆塗りは高温多湿の夏に行うものかもしれないが、夏は時間がないので今やるしかないし、まぁ試作だからと開き直って作業を終える。
次はチライ(イトウ)の皮で靴を作る。けっこうみんなかっこいい靴を作っているが、やはりこの時代、靴底が貧相だ。ゴム底なんてないからこれも諦めるしかないのか。俺はせっかく作った靴がもったいないので、靴底に草鞋を付けて履いていて、汚れたりしたら取り換えるようにした。これで、おしゃれな靴が少し長持ちするようになった。
他にオットセイの毛皮でベストと帽子を作った。
キツネの毛皮もあったが、カンチュマリは名前にキツネの意味が入っているから嫌がるかな?と思ってキツネは使わなかった。
あぁ竹があったらスキーでも作るのになー。
木を削って板状にして、滑走面に漆でも塗ってみようかな?
そのためには、漆の増産と硬い木をきれいに削れる技術の革新が必要だ。
いろいろ考えるとやはり金属の導入は絶対必要だろうな。




