83.島
カンナアリキの集落の呪術師に聞いて干満の予測をしてもらう。
せっかくの夏。狩猟・採集もひと段落する季節、交易団の動きは活発な季節だが、俺は今回は留守番なので、巫女たち3人と1匹とで函館山の探索をすることにした。
函館山までは干潮時は細い砂洲と浅瀬で繋がっていた。満潮時には渡れなさそうなので、呪術師に干満予測をしてもらっておいた。
多くの集落から人が出て貝の採集をしている。この時期の主食のようなものだ。
たぶん、熊やオオカミなどの猛獣はいないと思うが、念のため槍を各自携帯して長い砂浜を歩いていく。
まずは向かって左側の現世でいうところの立待ち岬の方向へ向かうが、現世の市街地はほとんどが海になっていた。函館山直下の谷地頭温泉の辺りを注意深く探索すると赤茶色の水が湧き出る場所があったが、温泉として利用できる状態ではなかった。たぶん、掘削すれば温泉が出ると思うが、この時代、そんなことは無理っぽい。
郷里の昔の文人の墓があったりするが、もちろん、俺にとっての昔の人も、この時代は影も形もない。だから、素通りで、山に登っていく。住民が付けたのか小さな小道が続いている。
山頂付近は背の低い笹原が続いている。津軽海峡の向こうには下北半島が見える。そして、現世なら美しい夜景の見える市街地側は砂丘と広い砂浜と干潟が広がっている。山側の海岸段丘の上に集落が並んでいるのがはっきり見えて、その奥の山並みのさらに向こうに富士山型の北海道駒ケ岳が見える。
アイヌ民族もそうだが、こちらの時代、この地域文化では、河川を除いて地名はいいかげんだ。特に山の名前はかなりいい加減だ。同じ名前が重複することも多い。山でも狩場になる山と原初の神が創った山にはちゃんとした名前があるらしい。
この時代、火山噴火でできたとは思わない人々からしたら、函館山は原初の山っぽいと思うが違うという。原初の山は姿も三角錐で美しくなければならないそうだ。
では函館山には名前がないかというと、そういうわけでもない。
とりあえず、見た目がそのまま山の名前になっていることが多い。
函館山はその人の肩のような形状からタプ(肩)と呼んでいるようだ。
山頂からの眺めを堪能して、今度は現世でいうところの元町近辺に下りてくる。巨木はないが、なかなか深い良い森だ。
これでよい湧水があればこちらに集落を拓くのもよさそうだが、水の問題は大きい。函館山には川がないから、遠くから運ばないといけない。
まぁ小さな集落民分の水なら何とかなりそうな気もするが・・・。
でも、今の集落で温泉もあるし十分快適だから良しとしよう。
海岸に出て昆布を採集する。枝を集めて今日の夜のテントの骨組みと、取った昆布を干す物干しを作る。
昆布は冬の鍋物には欠かせない。
今日はタプ(函館山)の麓で寝る。4人と1匹で星を見ながら寝る。
たまには波の音を聞きながら寝るのもいいものだ。




