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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 北のモシリ
82/182

82.国宝土偶はまだ生まれない

近くの集落はとても古いという。

確かに大船遺跡の近くの遺跡で9000年前、だから今が5000年前だとしても、さらに4000年も前からある集落があったと思った。なんせ、趣味程度の縄文知識だから不確かだ。


でも、行ってみてなるほど、土塁?でもなさそうだが盛り土がかなり大きくなっている。この盛り土はゴミを埋めるためにやっていた集落もあるが、竪穴式住居を掘ったあとの土を運んだり、逆に竪穴式住居に土を被せるときに使う土もここから運んできたり、排水の溝を掘った後の残土、さらに祭祀場、炉や竃を作るときの土などを積んだり運び出したりの繰り返しでできていく。その時古い土は使わないから、古い集落ほど古い土が残って少しずつ高く大きくなる傾向がある。

盛り土が高く大きいイコール古い集落なので、力を誇示するためにわざと大きくするところもあると聞く。


この集落でアワビの貝殻をいくつか仕入れる。ほとんどゴミのようなものだが、アスファルトの容器にしたりもできる。

俺が今考えているのは、螺鈿まで作られるかはわからないが漆工芸品に応用できないかだ。俺自身でやってもいいが、工芸担当の長老ウルシ・アチャ(漆の伯父)に送って商品開発をしてもらうほうがよさそうだ。


なかなか豊かで漆工芸なども盛んな集落だった。土器のデザインも洗練されている。交易路から大きく外れているのに、比較的工芸品が盛んだということは、かなり山も海も豊かで恵まれているのだろう。この時代、食糧事情の余裕がなければ工芸品を完全な専業でないにしろ、職人として作ることは不可能なのだから。


帰りに再びピパイロ首長の集落に寄ってオットセイの皮などを仕入れて、少し上流の温泉に向かう。


やはり中空土偶はまだ作られていなかった。ただ、その片鱗というか、土器造りの技術、漆の技術は十分育っている。そう遠くない将来?俺から見たら過去?に後の世に国宝になる土偶が生まれるだろう。


荷物がかなり重い。峠を越えられるかな。

それでも、温泉に入ると疲れが一気に吹き飛ぶ。

現世の頃の疲れと違って、この時代の疲れは、美味いものを食って、よく寝て、ステキな女性がそばにいて、そして、温泉があれば、明日に残らず吹き飛ぶ感じがする。


少し薄暗いうちだが、出発することにした。

大船川を上流に向かう山道。登山道のような感じだが、ところどころ広場があって休憩できるようになっている。

三森山の脇をかすめて、今度は下りだが、ここからの距離がけっこう長い。

やっと下りの傾斜が緩くなるころ松倉川の本流にでた。


そういえば、ここは春の採集の時に熊に会ったことを思い出した。

「アシリ・クル、春の採集の時、ここで熊に会ったぞ。また出てくるかもな」

「オホシリ様、向かいから熊が来ますよ」

そういってアシリクルが槍を構える。

子犬のピリカも唸り声をあげている。

「いや、大丈夫だ。こちらが脇によってやり過ごそう」


俺たちは道から外れて河原のほうに下りて、道を見上げると悠然と子連れの熊が歩いて通り過ぎていった。親熊とは少し目が合った気がした。それから河原で少し休んで再び歩き出した。


集落に着いたのは、ちょうど夕日が沈んだ頃だった。

汗もかいたので温泉に入りに行くことにしたが、約2週間ぶりで、カンチュマリ、レブン・ノンノも一緒に入りに行くことにした。久々に4人で温泉に浸かる。4人だけじゃなく新たに家族に加わった子犬のピリカも温泉できれいにあらってやった。


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