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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 北のモシリ
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77.子犬

夜は何事もなく明かすことができた。


出発してしばらくで洞爺湖が見えてきた。有珠山はこの時代、噴火活動は休止しているのだろうか、噴煙は見られないし、現世の頃より緑が多い。もちろん昭和新山はまだできていない。

湖沿いを歩き、有珠山の西側の峠を越えて有珠湾の集落に到着した。


現世のころとは少し違う感じだ。干潟が広く、湾を狭く塞いでた場所もなくて、かわりに島がいくつか見える。干潟で集落民たちが貝をとっているのが見える。


集落の長のところへ行き、挨拶とここに来た目的を告げる。

「遠いところをここまでおいでとは。我々の集落でも子犬はたくさん産まれましたが、ちょうど北の交易団が連れてきた子犬もなかなかのものでしたよ。彼らはピリカノの市に向かっているそうですから、見せてもらってはいかがでしょう」


さっそく、交易団を紹介してもらう。


トカプチの黒曜石を運ぶ交易団で、今回は珍しく直接こちらまで出向いてきたのだそうだ。通常はマコマイ、苫小牧辺りだろうか?で物々交換で終わるのだそうだが、マコマイから出る交易団が結成できず、直接ピリカノまで行くことになったそうだ。

そういうこともたまにあるらしい。狩猟採集で都合がつかなければ、交易を諦めて生きるために必要なことを最優先しなければいけない。


交易団を率いているのはアンヂ・アンパヤラ(黒曜石を運ぶ)で20代の中頃の青年だ。


立派な犬も連れている。中型犬ぐらいだが、面長で精悍な顔つきだ。少し北海道犬とは違うようにも見える。縄文犬はこのような顔つきだと聞いたお覚えがある。

とても利口で集落の人間や交易相手には威嚇したり吠えたりはしないが、不審人物や野生動物に対しては敏感に反応するという。交易系が使う犬としては、ただ吠えればいいというものでもない。客人に対してはきちんと大人しく接して、敵意を持つ者に対しては警戒して臨んでくれるような犬が必要だ。


「はじめまして。物見の塔の氏族、塔の集落のオホシリといいます。交易のついでに少し足をのばしてよい犬がいないか探しに来たのですが」


アンヂ・アンパヤラ「噂は聞いています。大変でしたね。神々の、特に火の山の神の力の前にはどうにもならないですから。命が無事なだけよかったと思いませんと」


もう北海道の道央まで噴火の情報が行っているのか。ただ、地名の位置関係は行ったことのある当事者しかわからないから、交易路上の事案として情報が広がっているようだ。話を聞くと南のルートが閉じかけてヒスイが入ってこなくなるから、黒曜石の交換比率に変化があると噂されていた。

それは俺たちの側にとってはヒスイの価値を上げることができる状況だが、嘘を言ってもダメだろう。そこまで噴火の事実が伝わるのだから、交易路の詳細がもたらされるのもすぐのことだろうし。

最新の情報を与えることにした。


「交易路は閉じていませんから心配ないと思いますよ。交易人たちも全員無事ですし、中継の半島の集落もまったく問題ありません。多少影響があるかもしれないのは、こちらの黒曜石の入荷が不安定なので、南のほうの黒曜石が出回り始めたことぐらいでしょうか」


とはいっても十勝産の黒曜石の価値は揺るがないだろう。品質がとてもいいからだ。石鏃はもっと一般的な安物で作られるが、十勝産の黒曜石は祭祀や守り刀のような装身具として使われ始めている。


「我々の交易団はピリカノ・ウイマムに居ります。私は犬を求めにこちら方面に足を延ばしたのですが、先ほどここの集落の長に聞きましたら皆様も子犬を連れれ来ているとか。ぜひ見せてくれませんか?」


アンヂ・アンパヤラが向こうで犬の世話をはじめた若者のところへ案内した。

アンヂ・アンパヤラ「彼はセタエチといいます。今回連れてきた犬は彼の飼い犬で、アエニシテ(頼りになる)という雌犬です。その犬の産んだ子供を連れてきています。」


「セタウチさん、はじめまして。オホシリといいます。とても素晴らしい犬をお持ちで、その子犬を連れてきていると聞きましたが。」


「はい、今年の春生まれたばかりです。ご覧になりますか。」

そういって、籠の中から3匹の子犬を出して見せてくれた。

「2匹は集落の別の家族が飼うことになり、ここに連れてきたのは3匹です。オホシリ様は犬を飼われたことは?」


犬は飼ったことがある。子供の時に家で飼っていたし、その後も転生する数年前まで飼っていたが・・・。そうか、俺の見た目は15歳ぐらいだから犬を飼ったことがあるか心配なんだろう。


アシリクル「私は飼っていました。私が世話をしますから、お願いできませんか」


アシリクルの話では、父のアシリ・ウパシも若い時から狩猟の時に犬を連れていて、その犬の子供をアシリクルが続けて飼っていたことがあるんだそうだ。

父が長老格になり、個人や家庭での狩猟ではなくて、集落の公人としての狩猟がメインになってからは犬の子供をとらず、その犬が老いて亡くなるまで飼って、それからは犬を飼っていなかったという。


「では、どうぞお選びください」

セタウチがアシリクルのほうに向きなおり、子犬を見せている。

「この子にします」

アシリクルが選んだのは、少し丸顔の子犬だった。


セタウチによると面長の犬は力強く闘争心があるが、客人が多く、動きも多い俺たちには向かないという。だからといって、決して弱いわけじゃないし、狩猟に連れて行けば必ず良い結果を出すだろうといわれた。

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