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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 北のモシリ
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71.北の春の訪れ

北の冬は厳しかった。

それでも、函館は津軽海峡に接して、北海道の中ではずっと過ごしやすい気候だろう。北のオホーツクや稚内方面は大変だろうな。と思いつつも、そんな中で快適に過ごす知恵があるに違いない。機会があれば学びたいが、この時代好奇心にためだけにそこまで出かける者はいないだろう。


俺の中で試したいチートがあって北海道ならそのために行くとすれば最果ての稚内の近くということになるのだが。これは青森に戻ってからにするか悩み中だ。青森に戻ってからなら現世の故郷に近い場所で試すことができるので、どちらで試すか?

交易人に聞いて可能ならこちらにいるうちに試そうと思う。


冬場は青森のほうで経験したが、それなりにやることがあったりで、あっという間に春の気配が感じられる季節になった。春熊猟もいつも通り行った。ただ地元民ではないので、熊の冬眠穴をなかなか見つけられず、結局春の堅雪になってからの猟になってしまったので成功率はあまり良くなかった。


一番先に出てくるギョウジャニンニクの採集に出かける。現世の頃はキトピロやアイヌネギの名前でも知られていたが、青森の集落ではキトヒロ、こちらではキトもしくはプクサというようだ。ギョウジャニンニクが採れはじめると、あとは次々だ。ソルマ(ゼンマイ)、トゥワ(ワラビ)など乾燥、塩蔵で保存の利くもの中心に採集する。フキノトウなどは食べるけど、その日に食べる分くらいしかとらない。まぁ春の味覚程度に楽しむ。


どうしてもタケノコが食べたかった。


この北の地ではクマザサのタケノコでネマガリタケとかヒメタケノコなどいろんな呼び方があるが、孟宗竹のような竹の太さのタケノコではない。小さいタケノコだが、極端にいうと生でも食えるくらいで、軽く焼くか煮るくらいで食べるのが最もおいしい。青森の集落のほうでも採れたが、主な産地が十和田湖方面で火山活動の影響から、あまり食べることができなかった。


こちらの集落の裏手の森の奥は現世のころも山菜採りに行ったことがある。地形は比較的変わっていないようだ。さすがに河原の岩の配置などは違うが、山の形などが同じだと思う。


知った場所、土地勘があるのと、ウェン・カムを退治してからすぐの春ということもあって油断していた。


現世のころも釣りに出かけて熊に会ってあわてて車に戻ったこともあったなーと思い出した場所にきて、まったく同じように熊が現れた。

一瞬、熊の恐怖よりも、現世に戻った!?と思うくらいの既視感だった。ただ、止めてあった車と車道はまったく見当たらないことで、ここが現世ではないということがわかった。


その熊は悠然としてた。この春生まれたばかりなのだろうか、子供を2頭連れている。

こちらをじっと見て何もしないとわかったのかゆっくりと森の中に消えていった。

狩猟の盛んなこの時代、この時期に子連れで悠然と立ち去る姿に神々しさを感じた。


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