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縄文転生 北の縄文からはじまる歴史奇譚  作者: 雪蓮花
第1章 神々より前 Before Gods 火山の時代
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7.転生か?

塔の朝ははやい。

しかし、俺は完全に寝坊した。

いや正確にはこの時代、一般的な人々がどのタイミングで寝起きしているのかわからなかった。それに、時間がわからない。最近、腕時計よりもスマホで時間を確認することが多いからだ。そのスマホもここへ到着時からバッテリーが切れていて使えない。

夏至のころだから日の出が早いことはわかっている。昨晩は神降ろしの祭りの1日目で徹夜で飲み食い踊りあかしていた住民たち。これがあと2日続くのだ。だから、一般的な縄文人たちの生活サイクルを知るのはまだ少し先だろう。


そして、それとは別にカンチュマリ、ミナトマリ、レブンノンノの3人は三交代で起きているのだという。

塔の重要な役割のひとつは見張りと灯を絶やさないことなのだ。俺の部屋の上のほう、塔の最上階には導の炎と言われる火が焚かれている。導の炎というからには大きな炎を予想していたが、実際はいつでも大きな炎を灯せるように、最低限の小さな火を消さないように保っているだけなのだ。

交易中心なので、交易路からの目印、そして交易品を狙っての襲撃など、何かあった際はすぐに薪をくべて大きな炎や煙をあげて皆に知らせるようになっている。神降ろしはその有事には入らなかったようで、今は小さな炎がくすぶって白い煙を細く上げているに過ぎなかった。


ふと大堂の横を見ると俺がこの地に呼ばれたときに見た火焔型土器が石斧で粉々に割られていた。

そう、火焔型土器は新潟地方など日本海側に分布する土器のはず。青森の三内丸山やその周辺では出土していなかったと思う。

最初はそのことからここは異世界かパラレルワールドとも思ったが、あれだけ粉々に割られているとなると、証拠となるものは残らない。まだここを異世界やパラレルワールドど決めつけるのは早いだろう。


さて、現代人としてはもちろんだが、昨晩はやたら薪の炎にあたったので煤けている気がする。なんとしても顔を洗いたいが・・・。


困って周りを見渡すが、部屋には大きな土器の水がめがった。

その中を覗き込むと、おぉ、やっぱり水が入っている。

顔が反射して写っているがはっきりしない・・・、それでもなんか微妙に違う。

なんとかはっきり見たい。何かが違う。


重い水がめを抱きかかえるように交互に動かしながら光の角度を変えてみる。水面がゆらいではっきりしないが、水面が落ち着いてくると鏡とまではいかないけど自分の顔がうつった。


若返っている。というより知らない少年の顔がそこにあった。


昨日は気が付かなかったけど、俺の着ていた喪服も少しダボダボだ。


まぁ15歳ぐらいで背はかなりあったほうだから、股下や袖丈は大丈夫なのだが、ウェストが全く違っていた。改めて水がめに映った自分の顔を見る。たぶん15歳ぐらいだ。

朝には伸びてごま塩のようになる髭もない。さわってみるとつるんとした少年の肌。


転移やタイムトラベルじゃなくて転生か?俺の若いころとは容姿が違う気がする。

パニック気味に考えが交錯しているうちに、昨晩のことが思い出されて急に恥ずかしくなった。

巫女たちにかなり偉そうな、年上ぶった口調で言っていたような気がする。


そこにレブンノンノが入ってきた。

「お身体をお拭きいたします。」


俺「いや、自分でやるから」


レブンノンノ「困ります。私たちの役割ですから、これができないと役立たずと言われます。」


俺「じゃ背中だけ頼む」


レブンノンノは水がめから柄杓で水を汲むと大きな皿状の土器に満たして、薄い麻で織られたかのようなの布を浸すと軽く絞り、上半身だけ服を脱いで裸になった俺の背中を拭きはじめた。


俺「皆も朝には体を拭くのか?」


レブンノンノ「いえ、海に行くものは海で、山に行くものは川で水浴びをします。」


俺の背中を拭く布は何でできているのだろう?

乾いているときはガサガサと硬いように見えたが、水を含むと意外にしっとりとした肌触りのようだ。葛だろうか?だとしたら葛粉はあるのだろうか?


ここは過去の日本か?異世界か?パラレルワールドか?それによって、俺の演じる神としての役割が変わってくると思う。

俺自身ももとに戻れないとしたら、やはり快適に暮らしはしたい。でも、もしこれが俺のいた日本にそのまま繋がる場所なのだとしたらチートはまずい。歴史を大きく変えるようなことはできないだろう。

しばらくはおとなしく流れに身を任すしかないと思うが、身の回りの快適を実現するくらいはいいだろうか。


ひとつひとつの出来事、目の前に現れる物、景色、言葉、全てに敏感にそして先々に考えを巡らす。元の世界では考えられないくらい、思考の広がりを感じ、それが必要なことだと言い聞かせながら、ポケットにあった葬式用のハンカチを水に濡らして顔を洗い始めた。

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